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第10章_響きあう水晶

 森都での学者会議から数日後、晃たちは新たな情報をもとに大樹地下の遺構へと足を運んでいた。そこには第二の結晶が眠っていると伝えられている。

  巨大な樹根の間に隠されるように存在する階段を下ると、湿った空気と共に古代文明の名残を感じさせる石造りの通路が現れた。

  ジョーダンは足を止め、仲間に微笑みかけた。

  「この場所……時が止まっているみたい」

  彩夏はランプを掲げ、前を照らした。

  「気をつけて進もう。何が出てくるかわからない」

  遺構の中心部には、透明度の高い水晶群が壁一面に並び、淡い光を放っていた。その奥にひときわ大きな結晶があり、微かに共鳴音のような低い音を響かせている。

  佳那は目を輝かせて走り寄り、装置を取り出した。

  「これ、計測してみよう。音の波形が不規則だけど、リズムがある……」

  優太も同時に計器を構え、数値を記録した。

  「共鳴周波数……この結晶、転移門と同じ性質を持っている可能性があるな」

  晃は静かに結晶へ近づき、掌をそっとかざした。振動が皮膚を通じて伝わり、まるで心臓の鼓動に触れたような錯覚を覚える。

  「生きている……いや、何かを呼んでいるのか」

  その時、遺構に響き渡る声があった。作業員の一人が駆け込んでくる。

  「誰かが外で騒ぎを起こしている! どうやら、この結晶を狙っている者がいるようだ!」



 晃たちは急いで遺構の外へ向かった。地上に出ると、作業員たちが慌ただしく逃げ惑い、その先には黒いマントを羽織った集団がいた。

  「また盗賊か……?」純也が声を荒げる。

  「いや、違う」優太が鋭い目で観察し、首を振った。「装備が統一されている。軍か、それに近い組織だ」

  ジョーダンが一歩前に出て、両手を広げて叫んだ。

  「待って! この結晶は研究目的で管理されているものよ!」

  だが黒マントの男が冷たく言い放つ。

  「我々は王弟派だ。この結晶は王弟殿下のものとして接収する」

  彩夏は一歩踏み込み、まっすぐ男を見据えた。

  「それは間違っています! 結晶は国全体の財産であり、一部の勢力だけの物じゃない!」

  男たちは一瞬たじろいだが、すぐに武器を構えた。

  晃は仲間を振り返る。

  「戦うつもりはない。でも……奪われるわけにもいかない」

  佳那が息を整え、装置を構えた。

  「共鳴周波数を変えれば、結晶の保護フィールドを強化できる。少し時間を稼げば……!」

  優太は迅速に計算を行い、指示を出した。

  「佳那、出力を二十パーセント上げろ。彩夏、作業員を避難させろ!」

  彩夏はすぐに動き、避難誘導を開始した。ジョーダンは盗賊団の若者と話した時のように、真摯な声で叫んだ。

  「この結晶を奪っても、あなたたちの目的は達成されない! 国を分裂させるだけ!」

  その言葉に、一瞬だけ黒マントの集団が動きを止めた。



 その夜、宿の一室に集まった晃たちは、結晶を中央に置き、改めて今後の計画を練った。

  彩夏が結晶を見つめながら言う。

  「今日のこと……まだ胸がざわついてる。争いって、本当に簡単に起きてしまうんだね」

  ジョーダンは柔らかく笑い、仲間を見渡した。

  「でも、あなたが止めたじゃない。あの集団が引いたのは、彩夏の声が届いたからよ」

  純也は緊張から解放されたのか、ぐったりと椅子に寄りかかった。

  「俺、手汗で楽器が滑りそうになった……でもまあ、何とかなって良かった」

  佳那は早速計測データを整理し、興奮気味に語った。

  「この結晶、やっぱり転移門と同じ波長を持ってる。もし全部の結晶を揃えたら、門を安定的に起動できるはず」

  優太はその報告を受けて頷き、地図を広げた。

  「次の目的地は炎都ガルドだ。内乱が起きているという噂があるけど、結晶はそこで管理されている可能性が高い」

  晃は深く息を吐き、ゆっくりと仲間を見渡した。

  「これまでの交渉や説得で学んだことを活かさなきゃならない。次はもっと難しい局面になる」

  エマーソンは結晶に手をかざし、静かに言った。

  「この響きはまだ終わらぬ旅路を示している。人の心もまた響き合うことでしか前へ進めない」

  その言葉に、誰もが無言で頷いた。結晶の淡い光は部屋を優しく照らし、彼らの決意を映し出しているようだった。

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