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ー鼓動ー8

「え? あ、そやなぁ……」


 そこはやっぱり雄介だ。なんていうのかそうやってハッキリとさせないのが雄介の性格でもある。


「雄兄さんって、やっぱり、兄さんの言う通りの性格なんんだね。ホント、決断力に欠けてるんだよねぇ。だってさ、そこは素直に言っていい所なんじゃないの?」

「ま、そうだよなぁ。それにたまには東京に行って来たらいいんじゃねぇのか? それで二人だけの時間を過ごすっていうのもいいんだしよ」


 その和也の言葉で雄介は和也が何が言いたいのかが分かったのかもしれない、雄介は、


「そやなぁ、それじゃあ、診療所の事は朔望と歩夢に任せて、ほな、俺と望は東京の方に行って来るな」


 そう言うと、雄介は頭まで下げて、


「ホンマ、ありがとう!」


 そう言うのだ。本当にそこも雄介らしいのかもしれない。


「明日には東京に向かう定期便が来るんだろ? そこから、一週間……二人で、ゆっくりとして来いよ。それで、次の定期便で帰って来てくれたら、俺達も安心するしさ」


 いつもこうふざけているように思える和也なのだが、こういう時というのは本当に真面目だと思う。


 そういう所、和也にも感謝してるってところだ。


「……で、望は一緒に東京に行ってくれるのか?」


 そういきなり雄介が俺に振って来る。


 全くもってそこは身構えてなかったというのか、振られるとは思ってなかったからなのかもしれない。


「へ? あ……へぇ!?」

「今の話では、みんな望もって言ってくれておったけど、俺は望の意見っていうんか、望はその……心の底から俺の事を心配してくれているっていうんか、確認っていうんか。望自身、本気で俺に付いて来てくれるんかな? って思うてなぁ」


 ……要はそれって俺の事を試してるって事なんじゃねぇのか? あ、それは違うか……そうだよな、なんて言うのかな? 確かに今のみんなとの会話からすると、半無理矢理強制的に俺も東京に行って来い。っていう話だったっていうだけで、俺の意見というのは聞いてなかったから、それを聞いて来たっていうだけの事か。そりゃ、決まってんじゃねぇか、付いて行くに決まってんだろ! まぁ、その振りで俺がちゃんと答えられるか? って事になるのかな。


 そこまで俺は考えると、天井の方へと視線を向ける。そうだ、分かってる答えなんて最初っから分かってるんだけど、この俺がその質問に素直に答えられるか? とか、本当に今は意見だけであって、俺の意見というのは聞いてなかったから、ただ聞いて来ているだけであって、流石にそこまで深く考える必要はなかったって事なんだけど、やっぱ、そういう事って、コイツらの前でこう素直に答えられるか? と言えば……考えてしまう所だ。


 ……どういう風に答えるか!? 確かにそれは俺からしてみたら難しい所なんだよなぁ? しかも朔望や和也がいるし、余計に答えづらい所だ。


 まだまだ俺の方は考えてしまう。マジ、こういう事で和也達の前でハッキリと答えたくないというのが俺の本音だからだ。


 ……素直な奴ならきっとその話を振られた時点で、「付いて行くに決まってんだろ!」って答える事が出来るんだろうけど、俺の場合には、やっぱ、それが出来る訳がない。


「ぅん……あ、そうだなぁ?」


 そう未だに答えられずにいる俺。


 いや俺からしてみたら直ぐにでも「雄介に付いて行くに決まってんじゃん!」って答えたいのだけど、これだけ、みんなに注目されていると益々言い辛くなってきたようにも思える。これがきっと雄介一人の前だったら、言えるようにはなってきてはいるのだけど。


 はぁー、益々、今の俺って駄目だって思い始める。だって、もう視線なんかも完全に宙へと浮かせてしまっているからだ。どうしてこうもハッキリと言葉で示す事が出来ないんだろうか。 ホントにそこは自分でもつくづく思う所なのかもしれない。


 ……でもさ、やっぱ、ここはハッキリと言っておかないとなんじゃねぇのかな? だって、今回は雄介の為に東京に行くんだからな。


 かなり悩みに悩んだ後、俺は意を決したかのように、


「今回は、俺も雄介に付いて行く! それにちゃんと検査の結果っていうのも確認したいしさ。自分がちゃんと確認して、大丈夫だったって思いたいし、あ、まぁ、そんな事で付いて行きたいからさ」


 そう言うと、朔望がフフフっと笑い始める。


「ま、兄さんだったら、そこまでが限界って所なのかな?」


 ……やっぱ、朔望の場合には完璧に俺の事を試してただろ? やっぱ、そこは腹立つ所だな。


「そうか! それなら、ありがとうな」


 だけどその朔望の言葉を掻き消すかのように、雄介の方は本当に嬉しそうにお礼まで言ってきてくれている。それなら、ま、いいか……やっぱ、そこは朔望よりか雄介だもんな。雄介らしい反応に俺の方も嬉しくなった。

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