純粋な私の汚れた復讐
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現代恋愛
復讐不倫タイムリープ
『純粋な私の汚れた復讐』平本りこ /著
講評
やり直し復讐系作品ですが、必要なイベントが2万字で綺麗におさまっていて非常に満足感が高いです。
実は遊ばれていた→やり直し→上手くいった! の流れがスムーズで「むかつく!」と「すっきり!」のバランスに安定感があります。
絵面も想像しやすく読み切りのコミック賞なども狙えそうです。香苗が綿密な計画を練る過程、溝沼のざまあ展開を詳細にするだけで長編に化けるポテンシャルもあり、文句なしの1作です。
蛍の庭
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現代恋愛
ミステリアス大人の恋三角関係
『蛍の庭』雫石しま /著
講評
幸せを夢見ただけなのに、という倫子に強く共感でき、適当な態度の洋介と、その対比になる洋平の三角関係が綺麗でいいですね。
ヒロインの復讐譚ではないので、悪いことはしたけど納まるところに収まったように感じて後味が悪くないのも評価ポイントです。
兄弟の過去や動機がさらっと終わってしまったので、もう少しだけ煮詰めて、どろりとした空気や感情を感じられるシーンが欲しいなと思います。
パーテルノステル
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現代恋愛
ミステリーサスペンスプチコン04・背徳
『パーテルノステル』ノラン /著
講評
タイトルの「パーテルノステル」は循環式エレベーターのことだそうです。
お話の雰囲気からもどこか“懐かしいエモさ”のようなものが感じられて、悪いことをしているのにゾクゾクする雰囲気がよく表現されており、オチも綺麗にまとめられています。
主人公がいい人ぶっている雰囲気は感じましたが、心理描写にまだ伸びしろを感じたので、もう少しだけ細部にこだわってみてください。
看護師の私が愛に溺れた相手は、友人の夫でした
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現代恋愛
結婚生活不倫プチコン04・背徳
『看護師の私が愛に溺れた相手は、友人の夫でした』紅夜チャンプル /著
講評
朔太郎以外の倫理観がどこかにいってしまったなと驚きました。キャラクターたちの考え、動きに始終ハラハラしっぱなしでした。
月9ドラマや昼ドラなんかの心臓がぎゅっとなるポイントが山盛りだったので、小刻みに山場があって短編なのに読みごたえがあります。
後半の急展開(体外受精や離婚前の妊娠など)の詰めに課題が残る印象だったので「自然な流れに見せるための誘導」なんかが強化できるとさらに良くなりそうです。
オメガがエリートになり、アルファが地に堕ちた世界
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現代恋愛
独占欲スパダリ運命
『オメガがエリートになり、アルファが地に堕ちた世界』星空永遠 /著
講評
逆転オメガバース、というだけで身体性・精神性の優位がひっくり返るのでヒロインが被差別側になるんだろうなあ……と思いきや幸せそうだったので一瞬カテエラかな? と思いました。
前後半の落差の配置がとてもお上手です。倫理観を根っこから変えてしまう、という設定はロマンがあって審査員個人は非常に好きなのですが、すこし無理があったかな?と感じる場面もありました。文字数には余裕があったと思うので陰謀論的に風呂敷を広げてみるのもアリかもしれません。
その日、“大人なドール”は心を知った
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夜の世界
切ない片思い浮気
『その日、“大人なドール”は心を知った』マカロー /著
講評
葵側の「いい子ぶらないで」「被害者面しないで」も、かなの「どうしたらよかったんだろう」も解釈の幅が広くていいですね。
葵側に立つとただただむかつく話になり、かな側に立つと切ない話になり、読者によって感想が割れそうです。
これらは良い点でもあるのですが、内容がぶれて感じるという悪い点も含んでいて、評価が難しい作品でしたので、今回はネオ猫賞を贈らせていただきます。
ぐちゃぐちゃソースと神フィンガー
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現代恋愛
オタク腐女子冷静
『ぐちゃぐちゃソースと神フィンガー』深海インク /著
講評
小説とはなんだったのか、を考えさせられました。独創性や個性が非常に鋭く尖っていたので強く印象に残りました。
道徳的な違反か? というとそんなことはないのですが、「部屋が汚い」イメージを想起させる文章と熱い執着心の対比がお見事です。
ただコーディング(プログラムなどのソースコードを書く作業)経験がない人が見たら頭が痛くなりそうだったので形式はもう少しテコ入れの余地がありそうです。
いい人止まり
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現代恋愛
片思い嫌われ失恋
『いい人止まり』夏坂ナナシ /著
講評
日記形式のような構成が面白いですね。2022年12月あたりから急に転落した感じにドキッとしました。
作品自体はまだまだ粗削りな面も多く、主人公の主観情報しか入ってこないので、構成力そのものは物足りなさを感じますが、主観であること、子気味良い短文であること、主題である「いい人止まり」な理由も含め、情報の整理がしやすく非常に読みやすい仕上がっています。
情緒的な長文が安定して書けるようになれば、各段に魅力の幅が広がるはずです。
全体講評
第4回テーマ短編プチコンテストにご参加いただきありがとうございました。
大人向けの恋愛、特に「背徳」方面のテーマは人気のあるジャンルではありますが、「具体的に何を求められているのか」を言語化しようとすると、なかなか難しいジャンルではないかと思います。
今回のテーマでは「大人向け・ヒリヒリ度」を軸に8作品を選定させていただきました。
ここで言う「ヒリヒリする」とは、感情が揺さぶられ、悲しさやつらさ、やるせなさを感じる瞬間があるかどうか、ということです。
テーマである「綺麗なものじゃないけれど」は、逆説的に「それでも〇〇だった」というような、本人にとっては重要で忘れられない出来事をどれだけ深く、どのくらいの分量で描かれているかに注目しました。
いずれも力作ぞろいで、非常に難しい審査となりました。
作品全体から、背徳というテーマの持つ「甘さ」と「苦さ」の両面がよく表れていた印象ですが、もう少し自由に広げてほしいと思いましたので下記の2点が参考になれば幸いです。
①「背徳」を示す関係性のテンプレート
未成年と成人、または近しい血縁(兄弟姉妹、親子、祖父母と孫など)のキャラクターで構成された作品が多い印象を受けました。
倫理的な問題を抱えた関係は「良くない」ことが分かりやすく、読みなれていない読者でもすんなり頭に入れやすいです。
反面、オチの分類が透けて見えてしまうというデメリットがあります。「本当は血がつながっていないんだろう」「結局、離れ離れになるのだろう」といったストーリーの予想が容易なため、意外性に欠けてしまい、読者に与えるインパクトが弱くなってしまいます。
他人同士だとセクシャルな描写が多くなることを懸念して、控えてくださった方も多かったのかと思いますが、依存、三角関係、復讐など「行動」に焦点を当てることでキャラクターの行動に深みを持たせることができます。そうすることで、背徳というテーマがより鮮明に際立つはずです。
②想定読者を明確にする
「大人向け恋愛」を読むのはどういう方でしょうか。商業的な目線では「■歳~●歳台の女性」などと定義されることが多いです。
今回の参加作品は、誰に読ませたいのか、がやや不明瞭な作品もありました。
「大人向け」なので学生同士などだと少しテーマからズレた印象になり、「学生と教師」という設定が合致していても学生側が語り部だと感情移入が難しくなってしまったりします。
「大人向け」の多くは「大人が読んでどう感じるか」にピントを当てた作品であるため、「仕事をしているからわかること」「結婚したから感じること」などを意識していただくのがおすすめです。
書きたいものを書くのも楽しいですが、その先の仮想読者を定義していただくと、肉付けのときにグッと厚みが増し、読者の心に長く残る物語になるでしょう。
プチコンでは今後も個性的なテーマでみなさんの創作支援を行ってまいります。みなさんで流行ジャンル以外の作品も盛り上げていきましょう!
ネオページ編集部