――こう見えても、僕は小学生の頃からサッカーが好きだった。今でも好きなのは変わっていないが。ただ、才能というものは残酷でな。サッカー選手を目指すのは早々に断念した。アカデミー……プロサッカーチームの下部組織にも入れなかったしな。それでも、部活くらいならと思って中学でもサッカーをしていた。奈切先輩と出会ったのはその頃だな。今回は奈切先輩のことは置いておくが、良い先輩だったよ。
僕が今の夢、建築士を目指そうと思ったのは中三の、部活を引退した後だ。ものを作ることは好きだったからな。それが建築物であろうと、何であろうと。もう少し具体的に言えば、叔父が建築士だったのが大きいだろう。実際の図面を見せて貰ったこともあったしな。それから、サッカーは観戦するだけで建築士の道を進むことにした。進路がはっきり決まったことで、両親は大層ホッとしたことだろうな。
「ごめんなさい~、お待たせしました!」
暁人の話を遮る月影の声。どうやら女性陣が到着した様だ。暁人の話は終わりに近かったので、そのまま打ち切りになった。
「遅かったな、楽しかったのか? ハロウィンパーティー」
「はい! 一学年の女子全員いましたから交友関係も広がって楽しかったです!」
なんと豪勢なパーティー。月見野学園高校は元女子校だからか、時折女子を優遇するイベントが開催される。今回の他にも、卒業式は雛祭りの日である三月三日である。イベント好きの校風だ。
「部長は疲れなかったの? 私は結構疲れたわ」
髪を切ってから、女子にモテるようになった望月にはさぞ疲れるイベントだっただろう。最近は女子の間でも望月ファンクラブが発足しているらしい。望月の人気は留まるところを知らない様だ。
「私も……ネルミほどじゃないけど、伊達さんに絡まれたし……」
「仲良さそうに見えましたけど……」
「風紀委員と改造制服なんて、相性最悪だよ……」
月影以外のメンツは、相当色々あったらしい。
「……さて、じゃあ今日の夢の主さんの話をしましょうか」
月影は椅子に座ると、タブレットを操作し始めた。俺たちは彼女に向き直る。
「今日の夢の主は、落合新さんです! と、言ってもご存知の方はいらっしゃらないとは思いますが」
確かに、聞き覚えのない名前だ。それは全員同じだった様で、顔を見合わせる。
「と、いう訳で説明しますね。落合さんは、一年B組の男子生徒です。少しお金に汚いというか……そういった面があるみたいです。とりあえず、明日から接触してみましょう。今回は夢野くんと夜見くん、お願いできますか?」
「任せろ」「仕方がないな、夢野に同行しよう」
俺たちが返答すると、「では、本日はここまでで~!」と解散になった。