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アオハルから墓場まで
櫻井まじめ
BL現代BL
2024年07月09日
公開日
57,656文字
連載中
「俺達ずっと一緒にいるんだあ」「うん。当たり前」


御曹司の陽輝(攻め)と一般家庭出身の和也(受け)は、幼なじみから最近恋人になった。
高校生の二人は共にいるのが当たり前で、離れることなんて考えたこと無かった。
しかし、陽輝が急に学校に来なくなり、しかもお見合いをしたという話を聞き、和也はショックで彼の連絡先を消してしまう。
親の会社で働く陽輝と、傷心のまま留学した和也は離れ離れになってしまい……

何も知らなかった高校生の二人が、大人になり、社会に揉まれ、それでも共に生きていく。

第1話 和也

ミィンと蝉が短く鳴く。駄菓子屋の前にある古い小さなベンチ。その左側。陽輝の隣。俺の定位置。

「見て! あたり出たあ」

アイスの棒を見せると、陽輝が少し笑い「よかったな」と俺の頭をわさわさ撫でる。

「陽輝にあげるよ。だって、俺の彼氏だもんね」

「うん。俺は和也の彼氏」

「俺達ずうっと一緒にいるんだあ……同じ大学に行って、同じ部屋に住んでさ。お互いシワシワになってもね」

俺よりたくましい二の腕に抱きつくと、幸せで頬が緩んだ。

「約束だよ」

「うん。当たり前」




俺の名前は月島和也。高校生二年生。結構コミュ力はある方だと思う。足も速いし、クラスではわりと目立つ方かな。それから……陽輝の彼氏!

陽輝は自分からみんなの輪に入って来ないけど、普通にみんなと話して、普通に離れて……良く言えば距離感ちゃんとしてるし、悪く言えば壁があるっていうのかな。そんな感じ。静かでカッコ良くて、俺はずっと彼の事が好き。

でも、最初から恋愛関係だった訳じゃない。いつの間にか『なんか、他の友達と違う』って『ずっと一緒がいいな』って思うようになって。ある日、思いきってチューしたいって言ったら、陽輝もそうだって言われた。あの時は嬉しかったなあ。それがちょうど去年の今頃。夏休みの少し前。夏休み開けの最初の頃は、クラスの友達に不思議に思われたけど、今では見慣れたみたいで、変に囃し立てられることも少なくなった。

「和也足速すぎー! がんばれー!」「ほら彼氏に抜かされてるぞ!陽輝もがんばれ!」

体育の短距離で陽輝と走った。陽輝はガッチリしていて身長が高いからか、俺より足が遅い。俺の少し後にゴールした彼に「お疲れー!」と言うと、「今日も勝てなかった」と少し悔しそうに返された。

「陽輝も速いって。俺はほら、チビだし身軽なんだよ」

「小さくてかわいくて、俺は好きだけどな」

「もー! 急にかっこよすぎ!」

思わずぎゅっと抱き着く。一部始終を見ていた先生に「二人とも、いちゃついてないで早く戻れー」と言われてしまった。

毎日楽しくて、こんな生活がずっと続くんだと、本当に幸せだと思っていた。これから起こる苦難を知る由もなく……




休み明けの月曜日から陽輝は学校に来なくなった。担任が言うには家庭の事情。SNSで連絡を取れていたのが唯一の救いだった。

でも数日後の朝礼で、彼が転校するという話を初めて聞いた。そのセンセーショナルなニュースは、クラスはおろか、学校中に広がった。それはそうだ。俺たちの関係はみんなが知っている。それだけ公認で、明らかで、全員がそのままうまくいくと思っていた。俺も含めて。

動揺する俺にクラスのみんなは変わらず接してくれた。それが逆に悲しかった。まるで、初めから陽輝がいなかったみたいに、みんなが彼の話を避けていた。

 家に行くことも考えたが、場所がわからない。何でちゃんと聞いておかなかったのかと自分を責めた。だって、だって……いなくなることなんて考えた事なかった。こんなふうに置いて行かれることを想像できなかった。

(でも、陽輝が俺を裏切るわけがない。家庭の事情って何だろう。何で何も話してくれなかったんだろう。ああ、嫌だな。陽輝が悪いわけじゃないのに……俺って嫌な奴だな)

 それでも、学校が変わってもきっとまた前みたいな関係に戻れる。そう思っていた俺のちいさな希望は粉々に砕けることになる。クラスメイトが話している内容を聞いてしまったのだ。

「陽輝、お見合いしたんだって……」「え、和也は?」「知らないよ。あいつ何ていうか薄情だよな。急に学校に来なくなってあいつ置いて行って……」「それでお見合いか。本当にどうしちゃったんだろうな」

混乱した。陽輝がお見合い?俺じゃない女の人と?何で……何で……?

落とした教科書の音でクラスメイトに気づかれた。

「あ……和也……」

「どういうこと? お見合いって、誰と?」

「いや、そこまではわからない。なあ、あんな奴のこと忘れない? あんなに仲良かったお前を振って女のところに行ったんだろ?」

「おい……!」

「違う!! 陽輝はそんなことしない!」

気が付いたら、泣きながら掴みかかっていた。

「陽輝は……陽輝は……! 俺を置いて行ったり……」

しているじゃないか。でも、でも、信じられない。信じたくない。陽輝が俺を裏切るなんて。

 それから、保健室に連れていかれた俺は少し寝て、起きて現実を思い出して、泣きながら彼への全部の連絡先を絶った。電話番号も、SNSも、全部全部。

 憔悴しきった俺を見て、両親は俺に海外留学を勧めた。俺はそれを飲むことにした。陽輝と一緒にいられないなら何でもよかったし、彼との思い出がたくさんあるこの土地をなるべく早く離れたかったからだ。

 バイバイ陽輝。バイバイ、俺の彼氏。

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