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第93話 我儘の先に


 組み伏した湊へ、強引なキスをして黙らせた煉。抵抗する湊へ馬乗りになり、唇を離すと冷ややかに言い放つ。


「お前の1番は何でも俺じゃねぇと嫌なんだよ。鈴であろうがお前の家族であろうが譲る気ねぇから」


 煉は、相変わらずの我儘な暴君ぶりを見せる。


「煉のバカ。我儘も大概にしてよね。できる事とできない事があるでしょ」


 素っ気ない湊に、煉の苛立ちは加速する。舌打ちをする煉に、湊は続けた。


「僕たち、まだ子供なんだよ。煉はたまたまお金持ちの家に生まれて、お兄さんのおかげで自由にできてただけでしょ」

「お前そればっか言ってっけど、お前にぎ込んでたんは俺がモデルで稼いだ金なんだから文句言われる筋合いはねぇだろ」

「それだって、好き放題にお兄さんのカード使えてたからでしょ? 僕とのご飯だって、いつもそのカードで払ってたみたいだし」


 ぐうの音も出ない煉は、苦虫を噛み潰したような顔で湊を睨みつける。


「嫌な言い方ばっかりしたけど、煉の気持ちは凄く嬉しいんだよ。でも、この先一緒に居るためにも、煉はもっとお金の使い方覚えてもらわなくちゃなんだから。それにね──」


 湊は煉の頬に両手を伸ばし、挟むとゆっくり引き寄せた。そして、耳元に唇を運んで言う。


「僕の“1番好き”は煉なのに。それだけじゃダメなの?」


 湊の甘えた声に、グッと息を呑む煉。すぐさま反応する下半身に従い、煉は湊のTシャツに手を忍ばせた。


「ひぁっ··、な、なに?」

「ダメじゃねぇから抱く」


 どこでスイッチを入れてしまったのか分からない湊は、煉の雄々しさに圧されてしまう。そのまま、煉の雄々しさに流されて受け入れる湊。

 煉は、腕の中で愛らしい声を零す湊を見て、湊に収まったままどこかへ電話を掛ける。


「やっ··、煉、何してるの?」

「しぃー··。声出すなよ」


 スマホを持った手の、人差し指を口に当てて言う煉。


「あぁ、俺だけど。あの話まだ生きてんの? あそ、んじゃ受けるわ」


 何の事やらと、必死に声を我慢する湊。そんな湊をイジメたくなった煉は、グンと腰を突き上げる。


「んっ──」


 煉は、スマホを持つのと反対の手で湊の口を塞いだ。


「詳細送っといて。あ? 気分だよ」


 機嫌良く笑みを浮かべて言うと電話を切り、スマホを投げ捨て湊の腿裏を持って広げる煉。涙目の湊を見て、ふっと笑うと余裕ぶってこう言った。


「妬いてんの? 悪かったって。相手マネな。後で話してやっから、今は俺でいっぱいになってろ」


 煉は文句を言いたげな湊を黙らせようと、喋る余裕もないほど責める。湊は煉の思惑通り、煉でいっぱいいっぱいになって蕩けてしまう。

 満足そうな煉は、湊のナカを自分で染めると、湊を抱き上げて膝に乗せた。


「俺さ、ドラマの仕事きてたんだよ」

「ふぇ? しゅ、しゅごいね」

「お前と居るために稼ごうと思って受けたけど、最初は受ける気になれなくて保留にしてた」

「へ? なんれ?」


 煉の肩に頭を預けていた湊が、力を振り絞って上体を起こす。


「お前と会う時間、もっと少なくなんだろ」


 それは、お互いに仕方がないと分かっているけど、日に日に我慢が利かなくなっている所でもあった。けれど、湊は煉に挑戦してほしいと言う。加えて、仕事をナメるな、チャンスを棒に振るなと苦言を呈した。


「ンなコト言っていいんかよ。恋愛もんの主役だぞ」

「········えぇっ!? しゅ、主役!!?」


 驚いた湊が声を張り上げる。煉は顔を顰めて『うるせぇ』と一言。


「あ、相手は?」

「相手····確か、今人気の女優で何とかっつぅ····あー··忘れたな」

「えぇ····」


 相手に微塵の興味もなさそうな煉。それよりも、煉は湊の胸に夢中なのである。


「んっ··待っ、煉、話聞かせて」


 煉は、湊の胸に吸い付きながら話を続けた。

 連ドラの主役で、相手は今を時めく美人女優。幼馴染のヒロインが他の男と付き合ったのをきっかけに、好きだという気持ちを自覚し奪い取るというもの。

 キスシーンが確定しているのだと、煉はマネージャーから送られてきた資料を読み上げた。


「キス····」

「フリでいいだろ。文化祭ン時みたいに」

「いや、そういうわけにはいかないでしょ」


 煉の躍進が素直に嬉しい反面、確実に嫉妬する自分を思い描けてしまう湊は、とても複雑そうに眉間に皺を寄せる。


「こういう気持ち、恋人が役者さんの人ってどうやって乗り越えるんだろ」


 2人はうーんと唸りながら悩む。考えるのに飽きた煉は、湊の腰を抱き締めて言う。


「やっぱやめよっか?」

「それはダメだよ! だって、いきなり主役だなんて凄い事なんだよ? 煉の将来これからを左右する話なんだから」


 そう言いながら、湊はどんどん表情を暗くしていった。しょぼくれた顔の湊へ、煉はどこか不貞腐れた様な表情で言う。


「んじゃ、しゃーなしキスしてくっけど、毎回お前が消毒しろよ」

「え、消毒って····」

「誰と何しようが、俺ん中にはお前しか居ねぇんだからさ。お前は俺が帰ってくんの堂々と待ってろ」


 煉の横暴さに、湊はクスっと笑って『しょうがないなぁ』と答えた。


「煉は僕のものだもんね」


 湊は、自分に言い聞かせるように煉を抱き締めて言った。煉は『ったり前だろ』と強気に返す。

 2人は、胸に渦巻く複雑な心境を、輝かしい未来で覆い隠して覚悟を決めたのだった。



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