注意! 今回は曇らせタグが思いっきり仕事をします。
また、胸糞展開もあります。
そしてここは一部先の展開のダイジェスト及び盛大なネタバレになっており、最悪ここを見なくても本編は進めます。
以上の事を踏まえて、のたうつ覚悟のある方はお進みください。
◇◆◇◆◇◆
これは……ある幸せな記憶。
『アハハハハ!』
風が爽やかに吹き抜ける草原にて、一人の幼女が元気に走り回っていた。
薄い水色の髪をたなびかせ、身に着けるのはその心の無垢さを示す様な純白の子供服。……いや、散々走り回り、時には転びすらして土も草も付いているので純白とまでは行かないが、幼女の輝かしいばかりの笑顔がそれすらも汚れと認識させなかった。
幼女は自分の事を、世界一の幸せ者だと思っていた。
世界はこんなにも広く、駆け出せばどこまでも行ける。
大地を踏みしめる感触。草木の香り、空の高さ。どれをとっても幼女にとっては新鮮であり、そして愉快な事だった。
そして、なにより……。
『アハハ……あっ! お父様っ!』
幼女には素晴らしき家族が居た。
ザッザッと土を踏みしめ幼女の近くにやってくるのは、彼女の大好きな父親だ。
『お父様。ほら見て見てっ! そこにお花が咲いてますよ! あそこにもっ! お一つどうぞ!』
幼女は無造作に近くに咲いていた花を一輪摘むと、自慢げに父親に差し出した。
なんの事はない。それは子供心にただ褒めてもらいたかっただけの行動。奇麗な花を見つけたから見てもらおうと思っただけの事。
父親はそれを見て、ゆっくりと手を伸ばし、
『そうか。
花を受け取って胸ポケットに差し込むと、そのまま幼女の頭をそっと撫でて穏やかに微笑みかけた。
えへへと幼女がくすぐったそうに笑うと、
『……さあ。そろそろ向こうで昼食の準備が出来た。走り回るのはその辺りにして頂くとしよう。今日はこのピクニックの為にサンドイッチを作ったと言っていたぞ』
『わ~い!
そうして幼女が伸ばした土と草塗れの手を、父親は優しく手に取って歩き出す。
そう。幼女は間違いなく幸せだった。
自分に笑いかけてくれる自慢の父親と、
しかし、
『お前は■■■ではない』
そのたった一言で、幸せは無残に崩れ去る。
◇◆◇◆◇◆
これは、少しだけ未来の話。
「誰なのよ……何なのよアンタっ!?」
ネルは目の前の相手が、今の状況が理解できなかった。
自身の輝かしい未来の為に挑んだ幹部昇進試験。数々のイレギュラーはあったものの、ネルのチームは間違いなくゴールまであと一歩だった。
全てのチェックポイントを突破し、何故かそこら中から湧いて出た暴走する別の参加者達を殴り飛ばしながらゴールの近くに到達。
そこまでは間違いなく順調だった。だが、
「……ごふっ!?」
「しっかりっ!? 意識と邪因子をしっかり保つのですリーダーさんっ!?」
ネルの背には、
周囲には、
「私は……
ネルの目の前に立つのは、ネルとまるで瓜二つの少女だった。違いと言えば薄い水色の髪をツインテールではなくそのまま伸ばしている事と、その顔にまるで感情というものが見られないという点ぐらいか。
暴走しかけたネルと真っ向から打ち合い、仕切り直しとばかりに少し距離を取った瞬間被っていたフードが取れ、驚愕からネルの暴走が僅かに収まるほどに……二人はよく似ていた。
「ふ……ふざけないでっ!? ネルはあたしだよっ!? ……ピーターを早く医者に見せなきゃいけないの。邪魔だからアンタはさっさと消えてっ!」
半暴走状態ながらも、ピーターを助けるべくネルはもう一人のネルと戦いを繰り広げる。そんな中、必殺の一撃を相手の身体に叩きこもうとしたその時、
「どうして……どうしてなのですかお父様っ!?」
乱入してきたお父様ことリーチャー上級幹部の一人フェルナンドに、ネルはその身体を拘束された。
それだけならまだ良かった。ネルが聞きたいのはそんな些細な事ではなかった。
「どうして……そいつの傍に居るのですかっ!?」
「親が子の傍に居るのはおかしいかね?」
ネルはどうにかなりそうだった。そう言ってフェルナンドがもう一人のネルに向ける表情こそ、ネルが渇望してやまない物。
自身の幸せな記憶の中で自分に向けられていた、笑顔なのだから。
「なら……ならっ! どうか……娘のあたしにも、笑いかけてくださいっ!」
ネルは心の限りに叫んだ。かつてケンに言われた事を思い出して、遠慮せずに。
「小さい頃みたいにお父様が笑いかけてくれるなら、穏やかに撫でてくれるなら、一緒に……居てくれるならっ! ……それだけで、良いんですっ! だからっ!」
そんな子供から親に向けてのささやかなわがままは、小さいけど確かな幸せの形は、
『
そのたった一言で、無残にも圧し潰された。
「………………え?」
「記憶はただの捏造。身体こそ私の遺伝子を混ぜて造られたので便宜上親子の関係だったが、それもここまで。こうして
「試験体……って、お父様。何を言って?」
ネルにはフェルナンドが何を言っているか分からなかった。分かりたくなかった。
しかしこれまでの話から、ある一つの仮説が浮かんでしまう。
(やめて……止めてっ!? その先を言わないでっ!?)
そう。自分はただの、
「お前は我が娘が完成に至るための試験体。ただの
それを聞き、心が砕けたネルがその場で膝を突くのと同時に、
「親が子供になんてこと言ってんだこの野郎っ!」
現れた怒れる雑用係の鉄拳が、フェルナンドの顔面に突き刺さった。