「いいの、いいの。そのままの、純粋なリオンでいてくれ」
「えー……。もしかして俺って今、子ども扱いされてます?」
大学生の二人から見て、たしかに高校一年生なんて子どもと変わらないかもしれないが、俺は拗ねたように片方の頬を膨らませると、遠くから鼻で笑う声が聞こえてきた。
「なにそれ? 自分が可愛いと思ってやってんの?」
軽蔑するような冷たい目を向けながら俺たちに近づいてきたのは、リユニオンのメンバーであるルカさんだった。
中性的な印象を与えるルカさんは、サラサラで色素の薄い手入れが行き届いた髪に、目元は切れ長の瞳に長い睫毛。
細くてライトに照らされるとさらに映えるきめ細かい白い肌は、本人曰く努力の賜物らしい。
そのため、ファンから美容系インフルエンサーとして絶大な支持を得ている。
俺より二つ年上だが、身長が俺とさほど変わらないことを、実はかなり気にしているらしい。
「おはよう、ルカ。今日もカワイイなー」
「うっさいです! レンさん。オレに可愛いって言っていいのは、ファンの女の子だけだって、いつも言ってますよね? 次、オレに可愛いって言ったら、本気で殴りますよ」
「おー、こわー」
レンさんはお手上げと言った様子で肩の高さで手を上げると、また肩を竦めた。
メンバーの中で最も可愛いという形容詞が似合うルカさんだが、ファン以外、特に同性から可愛いと言われると、烈火の如く怒りを露わにする。
なので、メンバー内では禁句のはずなのだが、なぜかレンさんだけは、まるで挨拶のように言っているのを何度も見かけている。
(たしか、レンさんもルカさんもリユニオン始動時の初期メンバーだから……気心知れてる間柄っていう証明なのかもしれないな)
リユニオンは、芸能事務所立ち上げと同時に去年結成されたらしい。
だが、無名事務所からデビューしたアイドルグループに最初からファンがいるはずもなく、ライブやオンライン配信を開催しても、ほとんど人がいない状態が続いたと加入時に聞かされた。
正直、俺が加入したときにはライブ会場はファンの人たちで溢れかえり、ほぼ満員状態だったため、リユニオンにそんな時代があったなんて信じられなかった。
だが、今のリユニオンがあるのは、試行錯誤して、地道にファンの人たちを大切にする活動を続けた初期メンバーの結果なのだ。
きっと、計り知れない苦労ともに、初期メンバーの中で強い団結力が生まれてたのだろうと思う。
「んでー。どうしたんだ? ルカがリオンにつっかかるなんて、めずらしーじゃん。いっつもオフのときは、子どもみたいにリオンのこと無視するくせにさー」
レンさんは立ち上がってルカさんの肩に腕を回すが、ルカさんは眉間に皺を寄せた不機嫌そうな顔で、レンさんの腕を振り払った。
「別につっかかってないですよ。そんなやる気のないヤツ、オレにとってはどーでもいいんで。ただ、オレは優しいんで。もう一度、目の前にある鏡をよーく見て出直せって、親切心で言ってやってるんですよ」
「ふーん……。ルカも可愛いとこあるなー」
今度は腕を組んで感慨深く頷くレンさんに、ルカさんは苛立ったように、つま先で床をトントンと鳴らした。