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第66話 あったかもしれない未来

「おねえちゃん、戦えるの?」

 私の横に立つ底無しちゃんが疑心敵に聞いてくる

「……ちゃんとした実戦は二度目かな」

 そう、ソラちゃんから手解きは受けたが実戦は底無しちゃんとの戦いを含めてこれで二度目

 はっきり言ってその面では自信はない

「……」

 底無しちゃんはジト目でこちらを見やる

「で、でも大丈夫! なんだろう、自分の身体じゃないみたい」

 そう、自信自体は無い

 それでも何故か、動ける気だけはしていた

 それはおそらくダイチが外してくれたリミッターのお陰だろう

 いつもの非ではないほどに身体が軽いのだ

「茶番はもううんざりです、これ以上長引かせるつもりは、ない……終わらせます、赤燐焦土!」

 ユウヒが異能を再度発動させるとまた周りの温度が一気に上がる

「熱っ……」

 だが本人も言っていた長く持たない、の意味は既に私にも、いや、ここにいる誰しもが気付いているだろう

 ユウヒの身体のいたるところに火傷跡が現れていることに

 おそらくではあるがソラちゃんが異能を使うとその中心地となるソラちゃん自身が一番その影響を受けるようにユウヒもまた自身が発生源となるためより高温化に曝され肌が焼ける

 それも三ヶ月という時間制限を身体にかけるほどに負荷の大きい異能強化の施術を受けているとなればなおのこと

 より高温になった炎に肌がじりじりと焼かれていく

 恐らくではあるが彼女の限界は近く、だから、焦っている

「おねえちゃん! 来るよ!」

 隣から底無しちゃんの忠告が聞こえる

 チャクラムは既に底無しちゃんとの戦いで失っている

 遠距離から出していた火柱も恐らく私とアカネさんに向けて放ったものが最後の一発だったのだろう

 ユウヒは地面を蹴ると底無しちゃんよりも倒しやすい私を選んで炎を纏った拳を振るう

「っ……」

 それをサバイバルナイフで受け止めようとしてすんでのところでかわす選択をした

 私が避けたさきでユウヒの放った拳が地面を溶かす

「今のを受けてくれれば、終わっていたんですけど、ねっ!」

 ユウヒはそのまま地面についた手を軸に回転して蹴りを底無しちゃんに放つ

 ガンっ!!

「……相変わらず固い」

 底無しちゃんが腕でそれを受け止めれば鉄にでもぶつかったような音が響く

「今度は、こっち!」

 底無しちゃんはそのままもう片方の手で反撃に転換するがすんでのところで避けたユウヒがまた少し距離を取る

「……思っていたより動けるようですね、頭も回る」

「それはどうも……」

 はっきり言ってダイチがリミッターを外してくれていなかったら全く避けられた未来が見えないというのが事実だ

 そして、これは、恐らくになるがリミッターは思考能力にも影響している

 サバイバルナイフで拳を受け止めようとしたその瞬間高熱で溶けたソラちゃんの刀を思い出した

 つまるところあのまま受ければナイフの刀身が溶けて拳は私まで届いてゲームオーバーだった、というわけだ

 命のやり取りをしているという事実に心臓がバクバクと鳴って煩くてしかたない

「しかし、やはりまだあなたから狙うほうが楽そうですね」

 ユウヒは言うが早いか底無しちゃんの口の下を潜り抜けるとそのままの勢いで私に向かって拳を放つ

 狙われたのは右頬

 ユウヒの炎を纏った打撃を防ぐ術が底無しちゃんと違って私には存在しない

 大振りのそれに何とか対応して身を傾けて避けようとした、その時だった

 打ち出されていた拳は止まりもう片方の拳が飛んでくる

 しまった

 大げさなほどの右の大振りはフェイントだ

 だが気づいた頃にはもう遅い

 避けられない

 ユウヒの一撃はイコール死に直結する

 だから私は

 パアンッ!!

「っ!!」

 迷うことなくベルトから銃を引き抜いて発砲した

 狙いを定めることの出来なかった銃弾は繰り出された拳に掠める形で被弾した

 ゾンビは痛みで怯むことはない

 だが私が銃を持っていることを知らない相手にはその音も含めて奇襲としては充分に効果を発揮する

 一瞬ユウヒの動きが止まった瞬間に私は床が所々燃えていることにも構わず思い切り後ろへと下がりながら倒れた

「銃まで持っていたとは――」

 よろめきながらも私に追撃をしようとするユウヒの片腕が瞬間に、消えた

「考えてる場合じゃあー、ないかも?」

 そう、私が後ろに下がったのは巻き込まれないようにするためだ

 底無しちゃんの腕の変形した口による補食に

「っ……くそ!」

 流石に分が悪いと思ったのかユウヒは底無しちゃんから大きく距離を取った

 その間に何とか私も体制を立て直す

「……まんまとやられてしまって、本当にダメですね私は、やりたいことがあるのに、それに自身の力が伴っていないからどうにも出来ない」

 ユウヒは自身の腕があった筈の場所をながめながらぽつりと、感慨深そうに呟いた

「ユウヒ……さん」

 そうだ、この人だって別に悪意から行動しているわけではない

 ただ、大切な仲間が傷つくことを嫌い、恐れているだけ

 出会いかたや時代背景が違えばきっと、こんな風に殺しあいなんてせずにきっとどこかのファーストフード店か何かでポテトなんか食べながら駄弁ったり、そんなことが出来た筈

 仲間の為に自分を省みない程に優しい人だから

「ああ、別に同情を誘っているとか、そういうわけではないですよ、私にはまだ、これが残っていますから」

 ユウヒは私のそんな心情を察したのか少し優しい表情を一瞬だけ浮かべて、それから懐から何か、注射器を取り出した

「……それは」

 それは見たことのないもので

 さっき底無しちゃんが使ったものともまた違う何かだった

「皆大好きなオメガウイルスですよ、すでに改造は受けている身ですのでこれ以上投与すればどうなるか分かりません、最悪死ぬとかもあり得ますがまぁ今より力を引き出せるのなら、それも本望ですね」

 ユウヒは説明だけすると誰かが制止する暇もなくそれを自身の首に、突き刺した

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