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第79話 作戦決行


 私はソラちゃんが刀身を抜くのと同時に懐からサバイバルナイフを取り出した

 ソラちゃんのあの蒼い刀身をした刀は義手同様にアカネさんが用意したものだ

 義手のほうは時間の関係があったにも関わらずそれなりに指まで動かすことが出来るらしい

 そしてあの蒼刀に関してはソラちゃんの異能、白冷夜行の力をさらに強く、より効率的に発揮させることが出来るように開発したものらしい

 今回のホシノ戦に関しては基本的にアカネさんの立てた計画を元にそれをブラッシュアップしたものだ

 トトちゃんと底無しちゃんに関しては連れてきていない

 ホシノの脳喰は基本的に知能指数の低いゾンビにしか作用しないが共食いの果てにどういう進化をしているのかは未知数

 だからこそ、適合率の高いソラちゃんと人間である私、アカネさんの三人でホシノを迎え撃つ

「あれ、前みたいによく分からない力には頼らないの?」

「……」

 ホシノの挑発とも取れるそれを無視して聞き流す

 この程度の揺さぶりで心を乱す私はもういない

「ずぶの素人ー、って感じの構えではなくなったみたいだけど……ソラに教わったんだ? それは私を倒すため?」

「……」

 私達はまた、あえて無視をする

「何で何も話さないわけ……」

「……」

 たんたんと片足で貧乏ゆすりをするホシノに次第に機嫌が悪くなっていくのがよく分かる

「やっぱり……バカにしてるんだ、お前達はずっと、ずっと……!」

 ホシノは怒鳴りながらこちらへ向かって地面を蹴った

 タイミングは完璧だ

 これなら

「なんて、ね!」

 そう、思った瞬間ホシノが大きく後退する

「そんな見え見えな作戦に引っ掛かると思っ……!! 何これ……!」

 ホシノが着地する一瞬

 隙が出来たそこに音もなく一発の銃弾が撃ち込まれる

 それは頭から外れて横腹辺りに着弾した

「なるほどなるほど、別に知能が落ちてるからこれぐらいの罠には引っ掛かるだろーってことじゃなくて二段構えだったわけだ、でも残念、こんなところに当たっても痛くも痒くもない、私はゾンビだから――っておい!」

 ヨハネは片方しかない手で拳銃を持ったまま横腹を探るが早々に弾丸を取り出すのを諦める

 そんなホシノを見てから私達はホシノを無視して逃げるように走り出した

「ウミさん! 作戦通りに行きます」

「分かった! 後で落ち合おう」

 私はソラちゃんのその言葉を合図に二手に別れた

「あ、おい! くそっ! どっちを追うか……まずはこっちからっ……!」

 ソラちゃんは開いているかつてはエレベーターのあったであろう場所へと迷うことなく飛び込み私はエスカレーターをかけ上る

 そんな私達を見てホシノはまず私に的を絞った

 上手く、やらないと

 そう頭のなかで反芻しながら手に持っているサバイバルナイフとバールに力を込める

 以前アサヒと戦闘になった際はダイチの力を借りてその窮地を打破した

 現状のソラちゃんとあの時の私が揃えばおそらく力押しでもホシノを倒せるだろう

 だがあれはあまりにも身体に負担がかかる

 この後恐らくではあるがあまり休息の時間を取ることも出来ずに別のゾンビイーター、それもハイスコアラー達ともぶつかる可能性が高い以上はその作戦は却下だ

 だからこそ、出来る限り被害を抑えてホシノを倒す

 それが私達の今回の最終目標だ

「逃げてばっかじゃあ、勝てないよ!」

 後ろをチラチラと見ながらホシノがついてきていることを確認してひたすらに走る

「っ……」

 だが目の前の道を遮るように沢山のゾンビが現れてブレーキをかけながら右に曲がる

「合流地点でも決めてたのかもしれないけど、私にはこれがある」

 ホシノの異能、脳喰

 ショッピングモールにはゾンビが沢山蔓延っている

 最初にショッピングモールのゾンビを一掃することも他の場所にすることも皆で考えたがショッピングモールが広さもそこそこありながら閉鎖的で一番今回の戦いに向いていると判断した

「そんなにぐねぐね曲がってたら合流は難しくなるよ、後ろから追ってきてる、様子もないし!」

 パァンっ!

 ホシノの放った弾丸がすぐとなりの壁に被弾する

 弾丸の軌道が通りずらいというのはショッピングモールのかなりの利点だろう

 そしてゾンビが行き先を塞ぐ度に私は道を反れて走っているため確かに後ろからついてきているわけではないソラちゃんがこの道筋を追って私を見つけるのは不可能だ

 もし合流地点を作っていたとしてもゾンビを避けながらではそこにたどり着くのはほぼ不可能と言っていい

 しかも事前に頭にいれていたショッピングモールの地図から考えるとこのまま進めば

「はい、行き止まり、私だって知能が落ちててもちゃんとこのモールの中は把握してる、ただ適当に道を塞いでたわけじゃ――」

「手は、どうしたんですか?」

 私を袋小路に追いやって余裕綽々な様子のホシノに私は問いかける

「は? 何ふざけてるのか知らないけど、自分が落としたんじゃん」

「そういうことを、言ってるわけではないです、何故新しい義手を貰ってないんですか?」

「……」

 私が続けざまにそう言えばあからさまに不機嫌そうな表情に変わる

「そもそもなんであなただけ単独行動をしてるの? 今ゾンビイーター達は徒党を組んでるって話だけど」

「……私が優秀だから単独行動を許されてるだけ」

「本当にそう? 優秀ならなんで新しい腕を貰えてないの」

 ぶっきらぼうに言い放つホシノになお詰める

 相手の突かれたくない部分をひたすらに突く

 これはダイチが教えてくれた方法だ

「……また、そうやってこちらの感情をコントロールしようって算段? さすがに無駄――」

「実際は、見限られたんじゃないの」

「……っ」

 そして相手の発言には聞く耳を持たずに畳み掛ける

「独断専行に共食いのせいで知能も低下してる、もう使えないから勝手に行動させて上手い具合に処分しようとしてる」

「っ…………」

 ホシノの握っている拳銃のグリップが強く握られ過ぎてギシギシと音を立てる

 元来こちらを煽ってくる相手ほど自分が煽られることに弱い

 一度同じ目にあっていれば警戒度も高まるだろうが知能が下がってきている今なら通じる可能性は高い

 そして、これがきっと一番言ってほしくない言葉だろう

「あなた"も"組織に捨てられた……!」

「このっ……!!」

 一瞬、確実にホシノのなかで平常心を保つ心よりも怒りの感情が勝った

「あ……」

 瞬間ホシノの残っていたもう片方の手がすっぱりと肩から吹き飛んだ

「同じ手にかかるとは、敵ながらあまりにも憐れですね、ホシノ……これで終わりです」

 そして、そのままソラちゃんはホシノの首に刃をあてがった

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