深夜の12時を回った頃
「さて、二人とも準備は万端かな?」
私とソラちゃんの出発の準備も整いこの場には5人全員が揃っていた
「はい! 私は万全です」
私はもう一度自身の装備を確認する
着なれた服はアカネさんのシェルター内で洗いそれなりに綺麗になっていた
まぁそれでも落ちなかったものとかはあるがそれらの汚れは私の積み重ねたものでありずしりと肩にかかるリュックの重圧と共に逆に私を落ち着かせた
武器はデパートで手に入れた銃とソラちゃんから貰ったサバイバルナイフ
そして握りなれたバール
ずっと何だかんだと使ってきたそれは最早掴むと手にしっくりくるぐらいだ
「私も問題ありません」
ソラちゃんはアカネさんから貰った新しい服にずっと付けていた腰のポーチ
あのポーチには何かと助けられてきた思い出がある
新しくした義手には黒い手袋がはめられているがソラちゃんの異能を加味して通気性はよく設計されている
そして一番変わったのは無くなった腰の刀の代わりに肩に背負われた黒い鞘に収納された新しい刀だろう
「ちゃんと今回の戦いの勝利条件は理解しているかい?」
アカネさんは私達の様子を確認すると覚悟を確かめるかのように静かに問いかける
「……ヨハネを倒すこと、です」
「正確には殺す、ですがね」
「ソラちゃん……」
あえて濁したその言葉は即座にソラちゃんによって訂正される
「そうだね、ソラちゃんが正しい、今回の戦いは……ヨハネか私達のどちらかが死ぬことでしか決着はつかないだろう、それ程までに私達の関係は拗れてしまい最早修復は不可能ということだ、そこはちゃんと理解しないといけないな……濁すことはせずに」
「……はい」
アカネさんにもそれはバレていたようで軽く窘められる
勿論私が悪いことは分かっていた
ここまで来て未だ保守的になってしまう自分の性格にはほとほと嫌気がさす
「あ、それからもうひとつ、ヨハネの娘に関してだが……おそらくまだ研究施設に隔離されているだろう、もし、彼女を見つけることが出来たら……殺してくれ」
それからアカネさんは、中指でメガネを押し上げてさも当然のようにそう言いはなった
「っ……アカネさんそれはっ……でも……」
私は慌ててアカネさんに抗議しようとする
だがその表情を見て、何も言い返せなかった
私が何かを言うまでもない
彼女がどれだけ考えてこの結論に至ったのか、それは簡単に理解できたから
「彼女の生前の望みは人として生きて人として死ぬこと、決して生きた屍になることでも死んだ後に生き返らせて貰うことも、そんなことは望んではいない……だからちゃんと、殺してっ……彼女の止まっていた時計をもう一度動かして欲しいんだ、私の勝手な都合で申し訳ないとは思っている……だが、託されてはくれないだろうか」
アカネさんは祈るように胸に握った手を当てて目を瞑る
「……」
分かったと、任せてくださいと言いたかった
だが果たして私は彼女を目の前にはして、無情になりきれるだろうか
「分かりました、その思いは私が託されます」
「ソラちゃん……」
私が迷っている間にソラちゃんがいつもと変わらない様子で、いたって真面目にそう返した
「彼女のことは……記憶を思い出した今知らない相手でもありませんし、この状況を良いとも思っていない、彼女がそれを望んでいたのであれば叶えてあげたい、そして何よりも……私はゾンビイーターですから、元よりゾンビを殺すことが本業です」
ソラちゃんはそう言いきるとアカネさんに笑顔を向けて自身の刀に手をかけた
「それは……頼もしいな、よろしく頼むよ」
アカネさんはそんなソラちゃんを見ると同じように、優しい笑顔を浮かべた
「さて、これで話すことは以上かな」
「待って、ねぇ……これ持ってってくれない?」
アカネさんが話を終わらそうとするなか黙っていたトトちゃんが私の前に手を付き出す
「こ、れは……ペンダント?」
受けとればそれは綺麗な赤い石のはめ込まれたペンダントで
「うん、ロロのやつ」
トトちゃんは端的にそれだけ言った
「ロロちゃんの……」
「ロロを殺してからずっと肌身離さず持ってたんだけど、ロロにもしっかり終わりを見届けて欲しいからさ、連れてってよ」
トトちゃんはただそれだけ言うと憑き物が取れたように笑った
「……うん、分かった」
私はそのペンダントをしっかり外の様子が見えるように首にかける
「底無しちゃんは……何か言いたいことはあるかい?」
アカネさんに声をかけられた底無しちゃんはただブンブンと首を横に振る
「そうか、それなら……行ってくるといい、無事に帰ってきてくれよ?」
アカネさんは念を押すように私とソラちゃんの肩を叩く
「アカネさん達も無事でいてくださいね」
それに対してソラちゃんがそう返して
「それじゃあ、行ってきます!」
それを合図に私達は歩き出した