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台風コロッケしてみたい

低気圧で潰れている。台風死すべし。いや、神奈川に台風が来るのはもう少し先か。

何とか体を起こしてパソコンに向かうが、頭が働かないし痛いし、頭痛薬を飲んでも遅々として仕事が進まない。

怨霊(黒い一反木綿のすがた)(命名:千歳)はなんだか暇らしい。いつもは週始めに買い物に行く千歳だが、雨で台風なので、星野さんと示し合わせて今日の買い物はなしにしたそうだ。

『雨続くなあ、これでまだ台風じゃないんだろ?』

窓の外を見ながら千歳がぼやく。

「関東に来るのはこれからだね……今のうちコロッケ買う人もいるんだろうな」

『……? なんでコロッケ?』

千歳は不思議そうな顔をした。あ、そうか、これはネットの一部の風習だったな。

「えーとね、かなり昔に、ネットの掲示板で、「台風だからコロッケ食べる」「台風だからコロッケ買う」って言い出した人がいたらしくて、台風とコロッケの関係はまるで不明なんだけど、なんでか広まって今のネットにまで残ってるんだよね。ここ数日、コロッケ食べるかーって人をネットでよく見てさ」

『ふーん……』

千歳は納得したようなしないような顔で首を傾げたが、そのうちタブレットを取り出していじりだした。しばらくして、台所に行って何か作り始める。お昼作るには早くないか? と思ったが、俺もやる仕事があるので、低気圧であんまり出ない気合を無理に出して、何とか作業を続けた。


驚いたことに、昼ごはんには立派なコロッケが出た。俺は目を丸くした。

「え、コロッケ作ってたの!?」

『うん、話聞いて食べたくなったから、作った! 揚げないで作るやつ調べて作ったから、お前も安心して食べられるぞ!』

「材料あったの!? パン粉とかどうしたの!?」

『冷凍してた食パンの残りすりおろした。よく炒ってコロッケの種にまぶしたから、さくさくだと思うぞ!』

「へええ、そうやって作れるんだ……」

コロッケを箸でとって、一口かじってみると本当にさくさくだった。ポテト部分はほんのり甘くておいしく、揚げていないので重くない。

「すごい! 本当にサクサクしてる! おいしい! 千歳、何でも作れるんだな!」

千歳(幼児のすがた)は得意げな顔になった。

『まあな、ちゃんとしたレシピたくさんあったし、調べて作るの慣れてるしな』

千歳もコロッケをかじる。

『うん! ちゃんとうまい! ワシけっこう料理できるな?』

「千歳は料理うまいよ、本当に」

『もっとほめろ』

「え? えーと……いつも千歳のご飯おいしい! いろいろ作ってくれる! 野菜もたくさんとれる! 栄養バランス満点!」

曲がりなりにもwebライターやってるとは思えない語彙力の貧しさだが、千歳は満足したようだ。

『うん、飯に関しては一番がんばってるからな!』

千歳の作る食事が栄養バランスにもよく配慮してくれているのは事実で、コロッケには刻みキャベツとトマトとゆで卵が付き、一緒に出たコンソメスープは鶏肉と玉ねぎがよく煮込まれて、彩りにブロッコリーが浮いている。千歳がいなかったら、絶対にこんなに野菜食べなかったよな。コロッケだって家で作ったのは食べられなかった。しかも、俺の腹具合に配慮して揚げないで作ってるやつ。

……毎食、こんな上等の食事ができて、俺、すごく幸せ者かもしれない。

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