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ちゃんと挨拶しときたい 下

「今日は本当に申し訳ありませんでした、和泉さま!」

金谷家の面々(除く安吉さん)に玄関先で頭を下げられ、俺はどうしていいか分からなかった。いや、何が失礼だったか、俺よくわかってないんだけど!?

俺は困り果てて言った。

「あの、お詫びをっておっしゃっても、そもそも私は失礼をされた覚えがないんですけれど……」

『なんかあったか?』

千歳(女子大生のすがた)も首を傾げている。

牡丹さんと茂さんが顔を上げて言う。

「あの、父が和泉様をずっと無視していて、本当にご無礼を……」

「目すら合わせなくて、本当に申し訳ありません!」

え、そうだったの!?

「無視されてたんですか、私は?」

でも、言われてみれば安吉さん、千歳としか話してなかったな。単に千歳の接待担当なんだと思ってたけど。

『お前なんか、あのおじいちゃんに無視されるようなことしたか?』

「全く身に覚えがない……え、私何かヘマしてしまいましたか?」

牡丹さん夫婦に問いかけると、司さんと金谷さん含めて全員が首を横にものすごく振った。金谷さんが言う。

「うちの祖父が全面的に悪いんです! 昔からそうだったんですけど、年取ってさらに人の選り好みが激しくなって!」

年取ってからって言っても、金谷さん、十七年以上前のことは記憶にないだろうに……。まあ、俺のせいじゃなさそうで良かったけど。ていうか、金谷さんたちは千歳のことが重要なわけで、俺は付録だしな。

「あの、私は千歳のおまけみたいなものなので、別に大丈夫です」

でも、できれば安吉さんともうまくやりたい。どうすればいいか、と言うことを口に出そうと思ったが、司さんの言葉が先立った

「そういうわけにも行かないんです! 和泉さまは千歳さんにとって重要人物ですので!」

いきなり話を振られた形になった千歳は、戸惑った顔になった。

『じゅ、重要人物……?』

茂さんが言った。

「ええと、その、仮定の話ですが、また和泉様に危害を加えるような悪霊が出たらどうします?」

『うーん、ぶっ飛ばす。逃げられても、追っかけて絶対捕まえる』

「重要人物ですよね?」

『うーん、まあ、こいつはワシが祟ってるから、他の奴が何か悪い事したら、腹立つかなあ、すごく』

「なら、理由もなく和泉様が軽んじられたら、どんな気持ちになりますか?」

『……あんまりいい気はしないな、そう言われると』

司さんが額の汗を拭うような仕草をした。

「なので、こちらも和泉さまにはできるだけの礼儀を払おうと思っているんです! 祖父がダメなだけで!」

孫にダメって言われるおじいちゃん、相当では? 何か、家族の確執でもあるのかな?

俺は口を開いた。

「えっと、私は気づかなかったくらいですし、特に何も思っていません。ただ、何が起きてるのかよくわからないので、後日、詳しく説明していただけると嬉しいです」

説明はしてほしいけど、この場はちょっと。玄関先で問答するには長話になりそうだし、この人数を家に上げるにはちょっと狭いし、そもそも人を招くには家の中が雑然としすぎてるし。千歳が掃除してくれてるけど、インテリアもレイアウトも特に気を使ってるわけじないしな……。

牡丹さんが言った。

「では、後日、場所を変えて改めてお詫びと説明をさせてください」

「あ、はい、よろしくお願いします……」

俺は直近の予定を思い浮かべた。ゴールデンウィークも仕事休まずにやるから、そこそこ予定詰まってるんだよな。でも次の仕事の詳細がくるの明日の午後だから、空けられるのは……。

「あの、早いですけど、明日の午前なら私は時間空いてます。それ以降だと、しばらく予定が詰まってて」

『え、明日の午前か?』

千歳が難しい顔をした。

『明日の午前だと、星野さんと落ちあわせる予定があるんだが』

「え、そうなの?」

『スーパーで一緒に買い物して、帰りに野菜くれるって』

「うーん、じゃ、どうしようか……」

金谷さんが、俺と千歳に交互に視線を配ってから口を開いた。

「あの、えっとその、千歳さんはとっくにご存知でも、一般の暮らしをしてらした和泉さまはあまりご存知ないことがいろいろあるので、この機会に、ご説明させていただけるとありがたいのですが、その、千歳さんはご存知のことばかりだと思うので、いらしても退屈なだけかもしれません……」

え、そんなんあるんだ。でも、今日の話でも確かに知らないことばっかりだったしな。

「じゃあ、詳しい説明お聞きするの、私だけでもいいですかね?」

「そ、そうですね、この件は和泉さまがメインなので!」

『じゃーワシ、明日は星野さんとおしゃべりしてくる!』

「いつも野菜ありがとうございますって、俺が言ってたって言っといてね」

そして話がまとまり、明日の朝十時に、金谷さんとサブスク除霊の話をした喫茶店で改めて説明を聞くことになった。

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