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なんにも隠しておきたくない

千歳に全部説明する、と引き受けたものの、どこから話を切り出すべきか。迷いながら帰途に付き、玄関の戸を開けた。

「ただいま……」

『お! お帰り!』

千歳(女子中学生のすがた)が台所から顔を出した。

『仕事の話、うまくいったか? 』

あ、そうだ、仕事の話って嘘ついちゃったんだ、俺。

「えっと……その」

言いよどむと、千歳はなんだか不安そうな顔になった。台所の流しで手を洗って、玄関先の俺のところまで来る。

『大丈夫か? やっぱり、なんかうまく行かなかったのか? それとも、すごく大変な仕事なのか?』

「え、えっと、それは、その」

靴を脱いで家に上がりながら、なんて説明すればいいか必死で考える。……ん? ていうか、今、千歳、『やっぱり』って言わなかった?

「えっとその……千歳、俺が困ってるの、なんでわかったんだ?」

千歳は口をへの字にした。

『だって、お前、昨日からずっと辛気臭い顔してたじゃないか!』

え、マジ!?

「え、嘘、俺そんなに顔に出てた!?」

『だってお前、ゆうべの夕飯も、今朝の飯も、全然うまそうに食べなかったじゃないか!』

た、確かにあんまり味わう気持ちになれなかったけど……それで分かったの!?

「ご、ごめん、おいしかったよ、でもちょっと、その、味わえる精神状態じゃなくて」

『だからさ、仕事うまく行かないのか? 大変なのか? 金困ってるなら、ワシも多少は貯めてるんだからな』

俺を見る千歳の眼差しは真剣で、これは、本当に心配しているし、本当にお金も渡そうとしている顔だ。

……俺、こんなに俺を心配してくれる人に、隠し事してたのか?

俺は、自分の中の何かが決壊するような気持ちがした。気がつくと、こう口にしていた。

「ごめん、仕事と全然関係ない話なんだ、ごめん、千歳についての話なんだ、嘘ついてごめん、全部話すよ」

『え? ワシ?』

千歳はぽかんとした。

俺は少し冷静になって、ちょっと長い話になるからと前置きして、千歳にテーブルに座ってもらい、自分も座って、話さなければいけないことを、全部話した。

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