九さんはやさしく微笑んだ。
「安心せい、お主には何もせん。あの怨霊が来るまでここにいてもらうだけじゃ。怨霊はすぐ来る、場所はわかるようにしてあるからな」
いやいやいや、千歳には何かするつもりなんだろ!?
「やめてください、千歳には何もしないでください! そりゃ千歳が悪いんですが、あなたは警察でも裁判官でもないはずです!」
叫ぶように言うと、九さんは途端に冷たい目になり、俺をじろりと眺めやった。
「お主、ずいぶんあの怨霊が大事じゃの。人殺しだと教えてやったに、信じなかったのか?」
「……信じてます、千歳からもぐちゃぐちゃにしたって聞いたので」
「ほう、あの怨霊、認めたか」
九さん的には意外だったらしく、少し目を見開いた。
「だが、それならあの怨霊が報いを受けるべき存在だとわかるじゃろ?」
で、でも。
「きゅ、九さん単独で千歳をどうこうはできないんじゃ……」
九さんは、艶然と微笑んだ。
「我が主人に力を貸してもらってのう。それでも、妾に有利なところにおびき出して、やっと半刻ほど縛り付けておける程度じゃが」
有利なところって、つまりここか。
「まあ、安心せい、あの怨霊がバラバラにならないようにしてあるし、暴れさせもせん」
九さんは、右手の手のひらを上に向けた。その白い手から、人の頭ほどもある、金平糖のような塊が次々と出てきた。
「妾はな、二百年前に偶然居合わせたのじゃ。それで、あの怨霊にぐちゃぐちゃにされて、けれどすぐ死ねなかった者たちの痛みを抜いて回ってのう。それがまだあるのじゃ、腐るものでもないからの」
金平糖は次々と融合して大きくなり、岩のような大きさになった。
「ざっと二十九。あの怨霊が殺した数には全く足りんが、あの怨霊が生み出した苦痛じゃ、本人に吸わせて、思い知らせようと思ってな」