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第27話 文化祭会議!?

 九月上旬。

 多くの生徒にとってパラダイスも同然だった長期夏季休暇が終わりを告げて、数日経った今日。


 五、六限目の授業はなくなり、代わりに今月下旬に開催される文化祭に向けた出し物の話し合いをクラスで行うことになった。


 教壇に立つのは学級委員である司。


 もう一人の学級委員である女子生徒は、書記の役割を受け持つようで、右手にチョークを持って黒板の前に立っている。


「え~っと、知っての通りボク達一年生が文化祭で出来るのは二つ。教室を使った出し物か、体育館の舞台を使った出し物だよ」


 司がそう説明しながら、片方の手の指を二本立てる。


 文化祭における出店・露店のようなものが出来るのは三年生だけの特権で、一年生二年生は共に教室を使用した出し物か、体育館の舞台を使って何かするくらい。


 クラス単位ではなく有志参加で何かのパフォーマンスを披露する生徒達もいるだろう。


「でも、舞台を使えるのは一学年五クラスのうち二クラスなんだ。希望が重なった場合は抽選になるから、必ず体育館の舞台が使えるワケじゃないことを理解しておいてほしい」


 そんな司の説明に、クラスのあちらこちらから「はーい」「りょうか~い」「ういっす!」と声が上がる。


 主に普段司と行動を共にしている仲良しグループのメンバーだ。


 司は彼ら彼女らへ「ありがと」と相変わらずの王子様スマイルで短く感謝を伝えたあと、再び教室の端まで明瞭に聞こえるような少し張った声で呼び掛ける。


「じゃあ……それを踏まえたうえで、早速みんなの意見の聞かせてくれ。文化祭、何やりたい?」


 流石は人望ある司の呼び掛け。

 いつも司と話しているグループのメンバーはもちろん、男女関係なく他のクラスメイト達からも挙手が絶えない。


 文化祭の出し物の案は多種多様なものが出た――――



○教室

・テーマに沿った展示

・フォトスポット(写真映え)

・お化け屋敷

・メイド喫茶

・執事喫茶

・自作映画上映


○体育館舞台

・ダンス

・ミュージカル

・劇

・お笑い、コント



 その後、話し合いは休憩を挟みながら六限目いっぱいまで続けられ、多数決のもと決定されたのは――――



◇◆◇



「――で、何で『メイド・執事喫茶』にしたんですかぁ~!?」


 学校が終わり、私は帰宅するなり真っ先に不満を叫んだ。


 別にクラスの出し物が何であろうと文句はない。

 喫茶店だってメジャーな出し物だろう。


 ただ、私がこうして抗議しているのは、なぜか私が給仕係の一人に選ばれたからである。


 メイド・執事喫茶を謳う以上、もちろん衣装はメイド服になるだろう。


 クラスでもいつも目立っている華やかで可愛らしい垢抜けた生徒達であれば文句もないだろうが、ほとんど交友関係も持っておらず普段目立たず過ごすことに専念している私なんかがやるというのは、正直意味がわからない。


「言っても仕方ないだろ? 多数決の結果だ」

「公平な多数決なら私だって百歩譲って納得出来ますよ!? でもっ、アレはどう考えても司が意見を誘導したじゃないですか~!」


 まず、クラスの女子生徒多数の意見で、司の執事コスプレが見たいという話になったのだ。

 それに便乗するように男子生徒達が持ち出したのが、クラスの女子生徒達のメイドコスプレが見たいがためのメイド喫茶。


 司は司で自分が執事の衣装を着ることに積極的ではなかったし、クラスの女子も自分達がメイドになるのはやはり恥ずかしがっていた。


 もちろん、私だって嫌だった。


 だから、私はじぃ~っと司に「メイド喫茶はやめてくれ」という無言の意思を込めた視線を送っていたのだが、それに気付いた司が悪い笑みを浮かべたのだ。


 私の嫌な予感は的中し、司が折衷案を出した。


『なら、メイド喫茶と執事喫茶を合わせようか。ボクも執事コスプレをするのは照れるけど、女子もメイドコスプレしてくれるなら多少の恥ずかしさも納得できるからさ』


 司の執事姿を見たい女子生徒達。

 女子生徒達のメイド姿が見たい男子生徒達。

 その両者の願いを上手く取り入れた、気恥ずかしさも等分する提案だった。


 司が執事になる代わりに、女子もメイドになる。

 痛み分けのようなものだろう。


 ――と、クラスの全員が納得していただろうが、私には司の考えなんてお見通しだ。


「司、私にメイドコスさせたいからって……!」

「あ、バレてた?」

「バレバレですからっ!?」


 そう。

 ただ、それだけの理由。


 司は私にメイド服を着せて給仕させたいというだけで、自分が執事になることを妥協してまで女子生徒達の意見を誘導し、女子生徒にメイドコスプレをさせる交換条件を出して男子生徒達の支持も引き入れた。


「もう……何度かイラストのモデルのために着てあげたじゃないですか……」


 メイド服なら司の前で着たことが――着せられたことがある。

 それも、半端なコスプレに留まらない、しっかりとした衣装で。


 しかし、どうやら司はそれだけでは満足出来ないようで…………


「いやぁ、やっぱりメイドたるもの、実際に給仕しているところも見せてくれないとなぁ?」

「私、世話係として毎日司に給仕してるんですが……」


 そういうことじゃないんだよ、と司がニヒルに笑って言ってくる。


「世話係は世話係。メイドはメイド。似て非なるもの。俺は、メイド結香が恥ずかしがりながら客に奉仕してるところを楽しく拝見させてもらうよ」

「し、私情満載の理由……」


 不満は拭えない。

 文句なんていくらでも出てくる。


 しかし、時すでに遅し。

 今更何を言ったところで、クラスが『メイド・執事喫茶』をやることに変わりはないし、私が給仕係に任命されたことも覆らない。


 正直めちゃくちゃ恥ずかしいが、それを表に見せれば司の思う壺。


 こうなったら、とことんやってやるしかない。


 世話係として培ってきた経験は伊達じゃない。

 有象無象のメイドとの格の違いを、司に見せ付けてやる――――!!

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