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0130 不意打ち

戦場は静まり返った。

俺は静まり返った戦場から視線を上に移した。空は雲一つ無い快晴、秋の青空は、夏の青空と違い涼しさを感じる。

風が吹くと、肌寒ささえ感じた。

その風で、並んだ旗がパタパタと音を立てる。

両軍が静かになると旗の音がうるさく感じるほど良く聞こえる。


「てめーーらーー!! これは日本人同士の小競り合いだー。殺し合うことはゆるさーーん!! 武器を捨てて戦えーー!!!」


ゲンは配下に武器を捨てるように命じた。

機動偵察陸鎧の部隊は手にしたブレードを捨てた。

銃を持つものは、銃を捨てた。

敵軍も銃や槍を捨てようとした。


「馬鹿野郎ー!! なんでお前達まで捨てるんだー!! こっちは持ったままで良いんだー。そろそろ射程だろうがー! 撃って撃って撃ちまくれーー!!!!」


敵の本陣から声がする。その声を聞くと、前線の兵士が銃を構えた。


パパパパパパ

ダーン、ダーーン!


銃撃が始まった。


コンコン、カンカン


軽い音がして機動陸鎧が弾丸をすべてはじく。


「うおおおおおーーー!!!」


機動陸鎧隊が敵の銃装兵の中に突入する。

機動陸鎧兵が、巨大な拳で銃装兵の腹を殴ると、一撃で動けなくなった。

機動陸鎧兵の五百人が、一人で二人を倒すだけで敵兵千人があっという間に沈黙した。

残る部隊は、手作りの槍を持つ、貧相な槍隊である。

手に持つ槍は棒に刃物を針金やテープでつなげた物で、出刃包丁が付いている物までいる。


槍隊は、けなげにも銀色に美しく輝く機動陸鎧に攻撃を加えた。

だが銃撃すらものともしない、銀色に輝く機動陸鎧隊に、傷を付けることすら許されなかった。

槍隊もあっという間に、行動不能となった。

機動陸鎧はゆっくり歩き、敵の本陣を囲んだ。


「くそーー、何が武器を捨てて戦えダーー!! この銀色のロボは武器じゃねーのかよーー!!!」


敵本陣から叫び声が聞こえる。


「それは、鎧だー! 防具だー! 武器じゃねえー!!」


ゲンの声がビリビリ空気を揺らした。


「くそーー!! こんな決着は有りえねえ!! この状況の中言えた義理じゃねえが、たいまんで決着をつけてーー!!!」


「ふざけるなーー!! もう決着は付いている。さっさと降参しろー!!」


本陣を囲む機動陸鎧隊の兵士から声がした。


「全軍下がれーーー!!!!」


ゲンが吠えた。


「……」


機動陸鎧隊が無言で自軍へ下がった。


「道を開けろーー!!!!!」


両軍の本陣から声がした。

敵軍もゲン一家も、左右に分かれ、真ん中に一本の道が出来あがった。


その道を、赤い機動陸鎧が戦場の中央へ勢いよく進んでいく。

敵本陣からは、茶髪の大男がのそりと出て来た。

その男の身長は百九十センチに近いと思われるがっしりとした筋肉質の男で、髪は量の多い茶髪、その風貌から獅子のたてがみのようにも見える。顔も片目に眼帯をした獅子のようにみえる。


中央に進むと獅子のような眼帯男が言う。


「おいおい、ロボに乗ったままやるって言うんじゃねえだろうな。それじゃあ、俺に勝ち目はねえんだが……」


キイィィ


ロボの背中のハッチが開いた。

中からゲンが飛び出した。

もう勝負が付いたこの戦いで、たいまんを張るつもりなのだろう。

ゲンらしい。


ゲンが男の前に進むと、子供の様に見える。

ゲンの体つきは眼帯男の前では貧弱に見える。

眼帯男はニヤリと笑い、勝ちを確信したようだ。


パーーン


敵の本陣横の、物見櫓から銃声がした。

狙撃だ!


カン


ゲンの赤い専用機動陸鎧が、勝手に動きゲンの体をかばった。

もし、機動陸鎧が動いていなければ、ゲンは撃たれていただろう。

機動陸鎧は、ゴーレムだから、誰も装備していなくても動くことが出来る。

普段、主人が装備していない時はじっとしているだけで、主人の命が危なければ勝手に動き主人を守るのだ。


「バカヤロー! 勝手なことをするんじゃねえ!! そいつをぶち殺せーー!!」


眼帯男が激怒して叫んだ。

勝ちを確信した勝負に、水をさされて怒っているようだ。

本陣を護衛していた男達が狙撃手に銃をむけた。

狙撃手は、すべてをあきらめたように、銃をだらんと下ろし目を閉じた。


パパパパ


一斉に発砲した。


「このやろーー、何をするんだ!!! 人の命を何だと思っているんだ。てめーが指示を出したんじゃねえのかよー」


俺は、飛び出して、狙撃手の命を救っていた。

勝手に体が動き、狙撃手をかばい、弾丸をすべて吸収した。

高みの見物をするつもりだったのに、そうはいかなくなった。


「よう、兄弟!!」


ゲンが俺を見て、いつも通りの無表情で、嬉しそうな声で言った。


「とうとう、ばれちまったな」


「なにをいいやがる。ここの田んぼが綺麗になっている時点で俺は気付いていたさ。兄弟が、いると分かっていたから、武器を捨てさせたんだ。しかし、兄弟がいるとわかると、安心感が全然違うぜ」


「ふふふ、ゲンにはまいるぜ。すべてお見通しかよ! 折角来たんだ、立会人を務めさせてもらうぜ」


「おう、よろしく頼む。さて、立会人もそろった、そろそろ始めようじゃねえか」


「ふん、金髪の豚が立会人か、しょぼい立会人だぜ! うおおおおおおおおおーーーーーーーー!!!!!」


眼帯男は、不意を突いてゲンに殴りかかった。

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