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0152 出店でおしゃべり

「ファングさん、ご一緒しませんか」


「イヤ、オラハ子供達ノ引率ガアルダ」


「そうですか。では」


「バイバーーイ」


ファングと子供達が手を振っている。

ファングの胸には俺がつけた手形が、へこんで残ったままだ、あれは治るのだろうか、少し心配だ。

ファング達と別れて、しばらく歩くと、海鮮お好み焼き屋が見えてくる。


「あ、あの」


「何ですか、上杉さん」


「はい、あれはどうやって、焼いているのですか」


「あれは、鉄板の下にある青い金属がそのまま加熱しています。後ろにある青い金属のボックスが冷蔵庫、流し台も同じ青い金属です。列車の機関車と同じ金属です」


「木田家の人々は、火を使わずに、あのコンロで調理が出来るのですか?」


「もちろんです」


「す、すごい! 上杉家では、ご飯を作るだけでも重労働です」


「まあ、全部、大田商店の商品なのですが、今度越後にも行商に行きますよ」


「そ、それは、楽しみです。ですが、どうしてその様な商品が作れるのですか」


「そうですねえ、良い機会です。皆さんには聞いて貰いましょうか」


俺は、そう言って、店からお好み焼きと、隣のたこ焼きをもらってきて、机に並べた。

当然、出店の商品は、お祭りなので無料である。


「これでも食べながら、聞いて下さい」


「は、はあ」


上杉と、一緒に来ていた、伊達、真田、本多と加藤とシュラも座った。


「実はな、俺の娘の前世の記憶がひょんな事から戻ってしまったんだ。何と異世界の魔王城のメイドだったらしい」


「な、何と!」


「まあ、にわかには信じられないだろうけど本当の事だ。あの青い金属の名は、ミスリルだ。列車を動かす動力も、コンロの熱も、冷蔵庫の冷気も全部魔法なのさ」


「ふふ、実際見ていなければ信じられませんが、今はそれが真実だと分かります」


「聞いて欲しいのはここからだ。実は俺の娘は、異世界で勇者に魔王もろとも殺されてしまったらしい。幸い勇者と魔王は相打ちで、二人とも死んだようだ。だが、その勇者がこの日本に生まれ、前世の記憶を取り戻している」


「それが、どうしたのですか。勇者と言えば、正義の味方でしょう」


「ふふふ、娘の前世の世界では、勇者は残忍で無慈悲だったらしい。大勢の人間を殺したと聞いている」


「なんと」


「そして、今、この日本で同じ事をしている。ふふふ、正しい行動をする者を正義と言い、悪い行いをする者を悪とするならば、娘の世界では正義が魔王で、悪が勇者だったことになる。悪の勇者の名をハルラと言い、今、大阪にいる。ハルラは魔王を殺すほどの強大な力を持ち、西日本で今も好き勝手をしている。恐らく、西日本の人達は地獄を見ていると思う」


「……」


「さらに、越前に織田を名乗る者が現れた。織田と言えば第六天魔王を自称したほどの者だ。こいつが娘の主人の魔王なら歓迎だが、違うのなら厄介ごとが一つ増えたとしか思えねえ」


「大田殿、いえ木田様。私は私利私欲に動いていたつもりはありませんが、今のお話を聞いて、恥ずかしくなりました」


上杉さんは、頭を下げてずっと上げてくれません。


「頭を上げて下さい。俺は、あなたが頭を下げるほどの価値のある男ではありません。何故なら、速く厄介ごとをかたづけて、民主主義を取り戻し、投票で総理大臣を決めて欲しいと思っているのです。そしたら俺は、木田産業で廃棄物処理業者に戻り、仕事を適当にこなし、部屋でゲームをして暮らしたいと思っている程度の男なのですから」


「なっ、何ですと!!!」


お好み焼き屋の前のテーブルのほとんどから声が上がった。

知らない間に、木田家の重鎮が沢山お好み焼きとたこ焼きを食っていたようだ。


「ひゃあーはっはっはっ! やっぱり兄弟は面白れー!!」


ゲンまでいるようだ。


「まあでも、隕石が落ちる前の日本の総理大臣みたいに、国民のほとんどが給料の上がらない状態で、自分の給料を真っ先に上げるような、政策だけはしてほしくないですけどね」


「……」


ちぇっ、折角のギャグは空振りだった。


「ゲン、後ろの人達も食べてもらったら」


ゲンの後ろで、四人の男女が直立不動で立っている。

どうやら、新人のようだ。


「ほら、お許しが出た。お前達もそこに座って、食え! 食え! こいつらは仙台で見つけたのだが、全員特殊能力がある。見所のある奴らだ。兄弟に顔見せしておきてえと思ってな」


新人達は、待っていましたと言わんばかりにガツガツ食べ出した。


「おいひーです。ソースとマヨネーズなんて、すごく久しぶりです」


「上杉さんも食べて下さい。さっきから食べてないじゃないですか」


「は、はい」


なんだか真っ赤な顔をして食べ始めた。

俺は、ハルラだけでも頭が痛いのに、織田家などという厄介ごとに頭痛が倍になった気がしている。


「ゲン丁度いい、聞いてくれ。俺は織田家の柴田との戦いが終ったら、一度大阪へ行こうと思う。人々がどんな暮らしをしているのか見ておきたいんだ」


「一人で行くのか」


「危険だからね。俺の留守を頼みたい」


「うーむ、賛成はできねえのだがなー」


「柳川いるか?」


「当然いますよ。後ろを見てください」


「当然いるのかよー。ふふふ、柳川には俺の留守の間、学校の準備を頼みたい」


「まあ、分かりました。が、まずは柴田ですね」


「うむ、どの位の男なのか。わくわくすっぞ!!」


「兄弟、まずは柴田じゃねえ。ピーツインのコンサートだ」


ゲ、ゲンがコンサートを楽しみにしていたのかよー。

せっかく、あのものまねをしたのに、スルーされてしまった。


ガッカリだぜ!!

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