「ファングさん、ご一緒しませんか」
「イヤ、オラハ子供達ノ引率ガアルダ」
「そうですか。では」
「バイバーーイ」
ファングと子供達が手を振っている。
ファングの胸には俺がつけた手形が、へこんで残ったままだ、あれは治るのだろうか、少し心配だ。
ファング達と別れて、しばらく歩くと、海鮮お好み焼き屋が見えてくる。
「あ、あの」
「何ですか、上杉さん」
「はい、あれはどうやって、焼いているのですか」
「あれは、鉄板の下にある青い金属がそのまま加熱しています。後ろにある青い金属のボックスが冷蔵庫、流し台も同じ青い金属です。列車の機関車と同じ金属です」
「木田家の人々は、火を使わずに、あのコンロで調理が出来るのですか?」
「もちろんです」
「す、すごい! 上杉家では、ご飯を作るだけでも重労働です」
「まあ、全部、大田商店の商品なのですが、今度越後にも行商に行きますよ」
「そ、それは、楽しみです。ですが、どうしてその様な商品が作れるのですか」
「そうですねえ、良い機会です。皆さんには聞いて貰いましょうか」
俺は、そう言って、店からお好み焼きと、隣のたこ焼きをもらってきて、机に並べた。
当然、出店の商品は、お祭りなので無料である。
「これでも食べながら、聞いて下さい」
「は、はあ」
上杉と、一緒に来ていた、伊達、真田、本多と加藤とシュラも座った。
「実はな、俺の娘の前世の記憶がひょんな事から戻ってしまったんだ。何と異世界の魔王城のメイドだったらしい」
「な、何と!」
「まあ、にわかには信じられないだろうけど本当の事だ。あの青い金属の名は、ミスリルだ。列車を動かす動力も、コンロの熱も、冷蔵庫の冷気も全部魔法なのさ」
「ふふ、実際見ていなければ信じられませんが、今はそれが真実だと分かります」
「聞いて欲しいのはここからだ。実は俺の娘は、異世界で勇者に魔王もろとも殺されてしまったらしい。幸い勇者と魔王は相打ちで、二人とも死んだようだ。だが、その勇者がこの日本に生まれ、前世の記憶を取り戻している」
「それが、どうしたのですか。勇者と言えば、正義の味方でしょう」
「ふふふ、娘の前世の世界では、勇者は残忍で無慈悲だったらしい。大勢の人間を殺したと聞いている」
「なんと」
「そして、今、この日本で同じ事をしている。ふふふ、正しい行動をする者を正義と言い、悪い行いをする者を悪とするならば、娘の世界では正義が魔王で、悪が勇者だったことになる。悪の勇者の名をハルラと言い、今、大阪にいる。ハルラは魔王を殺すほどの強大な力を持ち、西日本で今も好き勝手をしている。恐らく、西日本の人達は地獄を見ていると思う」
「……」
「さらに、越前に織田を名乗る者が現れた。織田と言えば第六天魔王を自称したほどの者だ。こいつが娘の主人の魔王なら歓迎だが、違うのなら厄介ごとが一つ増えたとしか思えねえ」
「大田殿、いえ木田様。私は私利私欲に動いていたつもりはありませんが、今のお話を聞いて、恥ずかしくなりました」
上杉さんは、頭を下げてずっと上げてくれません。
「頭を上げて下さい。俺は、あなたが頭を下げるほどの価値のある男ではありません。何故なら、速く厄介ごとをかたづけて、民主主義を取り戻し、投票で総理大臣を決めて欲しいと思っているのです。そしたら俺は、木田産業で廃棄物処理業者に戻り、仕事を適当にこなし、部屋でゲームをして暮らしたいと思っている程度の男なのですから」
「なっ、何ですと!!!」
お好み焼き屋の前のテーブルのほとんどから声が上がった。
知らない間に、木田家の重鎮が沢山お好み焼きとたこ焼きを食っていたようだ。
「ひゃあーはっはっはっ! やっぱり兄弟は面白れー!!」
ゲンまでいるようだ。
「まあでも、隕石が落ちる前の日本の総理大臣みたいに、国民のほとんどが給料の上がらない状態で、自分の給料を真っ先に上げるような、政策だけはしてほしくないですけどね」
「……」
ちぇっ、折角のギャグは空振りだった。
「ゲン、後ろの人達も食べてもらったら」
ゲンの後ろで、四人の男女が直立不動で立っている。
どうやら、新人のようだ。
「ほら、お許しが出た。お前達もそこに座って、食え! 食え! こいつらは仙台で見つけたのだが、全員特殊能力がある。見所のある奴らだ。兄弟に顔見せしておきてえと思ってな」
新人達は、待っていましたと言わんばかりにガツガツ食べ出した。
「おいひーです。ソースとマヨネーズなんて、すごく久しぶりです」
「上杉さんも食べて下さい。さっきから食べてないじゃないですか」
「は、はい」
なんだか真っ赤な顔をして食べ始めた。
俺は、ハルラだけでも頭が痛いのに、織田家などという厄介ごとに頭痛が倍になった気がしている。
「ゲン丁度いい、聞いてくれ。俺は織田家の柴田との戦いが終ったら、一度大阪へ行こうと思う。人々がどんな暮らしをしているのか見ておきたいんだ」
「一人で行くのか」
「危険だからね。俺の留守を頼みたい」
「うーむ、賛成はできねえのだがなー」
「柳川いるか?」
「当然いますよ。後ろを見てください」
「当然いるのかよー。ふふふ、柳川には俺の留守の間、学校の準備を頼みたい」
「まあ、分かりました。が、まずは柴田ですね」
「うむ、どの位の男なのか。わくわくすっぞ!!」
「兄弟、まずは柴田じゃねえ。ピーツインのコンサートだ」
ゲ、ゲンがコンサートを楽しみにしていたのかよー。
せっかく、あのものまねをしたのに、スルーされてしまった。
ガッカリだぜ!!