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0154 あづち

「やめてーー!!」


アンナメーダーマンが、怪人リラにどつかれる。

リラは最早手加減など微塵もする気が無い。

リアルに攻撃をうけるアンナメーダーマンは、吹飛び、転がり散々である。

すでにヘルメットも、ボコボコにへこんでいる。

完全に当たっている攻撃は、見ている人に恐怖を与えた。

恐怖が客席の悲鳴になった。


ふらふらになりながらも、何度も立ち上がり人質を助けようと、立つことをあきらめないアンナメーダーマンに。


「負けないでーーー!!!」


悲鳴が応援に代わっていく。

そこにタイミング良く、青色と黄色のフリフリのアイドル、ピーツインが現れた。

二人は口に人差し指を当てた。

会場の観客は、静まった。

二人は、怪人にバレないように人質を助け出す。


だが、アンナメーダーマンは怪人リラの大ぶりのパンチをうけて、宙に浮き床に落ち、動けなくなった。


「はあーはっはっはっ、アンナメーダーマンめ! これで動けまい。とどめといこうか」


「アンナメーダーマーーン、人質は助けたわーー」


ピーツインの黄色い方ヒマリが大声を出した。

だが、倒れたアンナメーダーマンは動かない。


「みんなーー!! アンナメーダーマンに声援を送ってーーー!! いくよーー。せーのー」


ピーツインの青い方あずさが、音頭をとった。


「アンナメーダーマーーン、がんばれーーー!!!」


ホールがビリビリ震えるほどの声援である。

誰も恥ずかしがらずに、大声が出ている。

一発オッケーだ。


俺は、ヨロヨロと、子鹿のように立ち上がろうとする。

少し立ち上がると、少しこけて倒れる。


「がんばれーー!!!」


かわいい子供達の声援だ。

心から応援してくれる。

最早ショーとは思っていないようだ。


「死ねーーアンナメーダーマン!!」


怪人リラが、やっとフラフラ立ち上がったアンナメーダーマンに襲いかかった。

アンナメーダーマンはそれをよろけながら、かろうじてよける。

そして、両手の平を左右に広げて怪人リラの胸の前に出す。

その手は迫力が出るように、強く速く出した。

怪人リラの胸に当たる寸前で止めたが、リラはうまく当たったように見せる為、後ろに吹飛んだ。


その時の風が、ホール内に吹き荒れた。

台風の様な暴風は、観客を驚かせた。

風は、ピーツインのスカートをまくり上げ、しばらく収まらなかった。

あずさとヒマリのスカートの中から、白い物が丸出しになっている。

でも、安心してください、あれは水着です。


「やっ、やられたーー」


怪人リラは立ち上がり、声を出すと舞台袖に入る。


パパーーン


白い煙と破裂音がした。

さっきの暴風と比べるとちゃっちーけどしょうが無い。

同時に俺も舞台袖に引っ込み、黄色いジャージの俳優の背中を押した。

突然ステージに立たされた俳優は、最初オロオロしたが、


「あ、危なかった。だが、皆の声援のおかげで勝つことが出来た。ありがとーー」


かっこいい俳優が言えば、何でもかっこよくなる。

客席から、大きな歓声と拍手が起きた。


「正義と激豚のアンナメーダーマンショーはお終いです。この後、サイン会をしますので、ほしい子供達はステージに上がってくださーい」


サ、サイン会って、紙にアンナメーダーマンって書くのかよう。

俺じゃ無いけど良いのかー。


こうして、アンナメーダーマンショーは終った。

子供達の心に、少しでも正義の心を残せたら良いなーと心から思った。


テレビの戦隊ものは、幼い日本人に正義の心を教えてくれたのかもしれない。

八手三郎は偉大だと、いまさらながら思う。

今後はアンナメーダーマンが子供達の手本になるのだろう。

ちなみに俺は、アキバ○ンジャーおしです。


「とうさん、お疲れ様。すごく上手でした」


「まあ、二回目だしな」


「はあーっ、二回目ーっ」


「はわわ、い、一回目だよー」


「この後は、私達のステージだから、ここで、ちゃんと見てね」


どうやら、俺はこの後、特等席でコンサートをみることが出来る様だ。






「カンパーイ!!!!」




「よう、兄弟」


祭りは大盛況のうちに幕を閉じた。

屋台村で、関係者のうちあげをしている。

祭りの賑やかさが終ると、すごく空虚でさみしい感じになる。

俺だけだろうか。


楽しそうにしている人から、少し離れて感傷に浸っていると、ゲンが来た。

後ろに、昨日の四人の新人のうちの一人を連れてきている。


「ああ、ゲン」


「ちと、一人、兄弟に預けたい奴がいる。俺の手に負えねえんだ」


「ははは、ゲンが手に負えないとは」


「笑い事じゃねえ。こいつの名は安土だ」


ゲンの後ろの新人が頭を下げた。

お菊人形の様な髪型で、中学生ぐらいの女の子だ。


「あづちです」


「家族とかは、いないのか?」


「はい」


「明日から、越中、越後の稲刈りに行こうと思っているのだけど」


「同行します。ご一緒させてください」


「ゲン、普通だと思うけど」


「じゃあ、任せたぞ」


ゲンは、厄介払いが出来たと嬉しそうにゲン一家のテーブルに戻って行った。

俺は街路樹の根元に腰を下ろして、少女の顔を見つめる。

目が吊り上がり、猫のような感じの少女だが、表情が無い。


――あーーーっ!!


そうか、この子もそうなのか。

ゲンが俺にあずけた意味がわかった。

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