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0195 精鋭到着

前線はこうちゃく状態。

水面下では動いているのだろうが、足軽の俺達の所へ情報が降りてくる事も無い。

ずっと何も無い日々が続いているため、やる気の無い金城軍曹率いるこの班は、部隊の一番安全な最後部で、全員がたるんでいる。

道路のアスファルトに直接座り、ヒザをかかえて、うたた寝が始まった。


「ぐおっ……んっ」


爺さんが、自分のいびきで目を覚まし、まわりをキョロキョロ見回した。安全を確認すると、安心して今度は本気で眠りに入った。

爺さんが高いびきで眠ってしまうと、居眠りしている兵士達に緊張が走った。


「おい、新入り」


急に頭の上で声がした。


「こ、これは、犬飼隊長」


爺さんを起こしてやりたいが、もはや手遅れだ。


「この爺さんは、前線で熟睡か。すげー豪傑だな。酒を飲んで居眠りをする張飛のようだな」


隊長は、爺さんを張飛とまで評した。

いったい、何があった?


「あの、何の用ですか」


「ふむ、お前達、納品の時に山賊に会わなかったか」


なっ、なにーっ!

隊長はあの山に山賊がいるのを知っていたのか。


「あ、会いませんでしたが、山賊なんかいたのですか。そんなところに二人で行かせるとは、隊長も酷い人です」


「いやいや。最初に俺は、班の全員で行くように言ったんだ。だが、爺さんが固辞したんだ。そんな大勢では前線に穴が空きます。二人で良いとな」


爺さんは、もう遊郭のことしか頭になかったな。とんだエロ爺だよ。

俺は爺さんをにらみつけた。


「そうですか。じゃあ、しょうが無いですね」


「うむ。だがな、おかしいんだ。お前達が行ってから、山賊の気配が無くなったと報告を受けている」


ぎゃーーっ、ほぼ、俺達がやったと確信しているぞ、この人。

どうする。


「そう言えば俺が、山道がきつすぎて、ひいひい言っていると『お前はゆっくりついて来るといい』といって、金城班長が先行した時がありました。その時に班長がやったのかもしれません。見ていないのでわかりませんが」


「なるほど、やはりこの爺はとんだ豪傑だったと言う事か」


よし、うまく誤魔化せた。


「ところで、十二番隊のカクと響とカノンの三人が一緒だったと聞いているが、その時は一緒じゃ無かったのか」


ぐはっ!

隊長は悪い笑顔になり、俺をじろりと見た。

目だけは笑っていない。嘘を言うなと言う目だ。

いやー誤魔化そうとして、墓穴を掘ったなー。

やっぱり、嘘を付いてはいけないなー。


「ははは」


「笑って、誤魔化すな。その三人はお前のおかげだと自慢そうに話していたぞ」


おーい!

俺は何にもしていなかったはずだぞ。

カクさん、響子さん、カノンちゃん、めー。

いったい何を、言ったんだー。


「そ、そ、そうですか。俺の記憶では俺は何もしていなかったはずですが……」


「うわあー!!」


その時、喚声が上がった。


「うろたえるなー! 報告しろ、何があったー!」


「お前がうろたえるな。私が来ただけだ!」


「さ、冴子さん」


どうやら、冴子は隊長よりも身分が上のようだ。


「おーー、豚顔のシュウ、ひさしぶりじゃーー!!」


「いやいや、まだ二日しか立っていませんよ」


「遊びに来てやったぞ」


心から嬉しそうな無邪気な笑顔だ。

まいるぜ、かわいすぎる。


「は、はやすぎますよ」


もう会えないと思っていた、この気持ちはどうするんだよ。


「お、おい、新入り。冴子さんとどういう関係なんだ?」


「犬飼! 邪魔だ、どこかへ行ってろ!」


「ちっ!」


隊長は、渋々席を外した。冴子のおかげでうやむやに出来そうだ。助かった。

冴子は、食糧をたっぷり持って来てくれた。

ついでに、カクさんも響子さんもカノンちゃんも呼んでくれて、楽しく昼食を食べることが出来た。


「じゃあ、ノルマがあるからな。帰る! 豚顔のシュウ、死ぬなよ。私の運気が下がる」


結局、自分の事かよ。


「ああ、冴子もな」


「にひひひ」


なんだか、かわいい笑顔で飛んで行った。

だが、何か違和感がある。

そうか、あいつ今日はズボンをはいていた。

スカートなら、ここにいるほとんどの人が喜んだのに、どういう心境の変化だ。


「自由な人ですね」


カクさんがつぶやいた。




戦局はこうちゃく状態のままだ。

そろそろ本格的な冬が始まり、急に寒くなってきた。

冴子は、勝手に来ていることが、隊長から報告されて、来られなくなったようだ。もうずっと来ていない。

また、俺を殺すとでも脅されたのだろうか。


「どけーーっ!!」


最後部の俺達の後ろから声がした。

水面下で動いていた物が、とうとう水面に出て来たようだ。


「おおおー!! すげーー!!」


金城班の皆がうたた寝から目覚め、声の方を見て驚きの声を上げた。

恐らく昨日の夜のうちに来ていたのだろうが、この事は敵にもバレないように、秘密にされていたようだ。


「道を開けろーー、じゃまだーー!!」


ピカピカで銀色の中世ヨーロッパ風の甲冑を着込み、長い剣を装備した部隊があらわれた。

恐らく、ハルラの持って来た異世界の装備だろう。


「二番隊が通る。道を開けるんだーー!!」


とうとう新政府軍の切り札、二番隊のお出ましのようだ。

先頭を身長二メートル近い四角い顔をした隊長が進み、その後ろを甲冑を装備している三百人ほどが進む、全員隊長ほどではないが、体格も良く顔付きもせいかんだ。

四国の制圧が終ったのか、精鋭一連隊を移動させてきたようだ。

二番隊は、俺達の前を通りすぎ十一番隊の前に出た。その数は二千人を大きく超えていそうだ。全員が歴戦の勇者なのだろう。

だが、物資の不足は深刻で、まともな武器の装備は千人程で、それ以外は十一番隊と大差が無かった。


こういうことは、タイミングが何故かあってしまう。

織田軍にも動きがあった。

今までの部隊が左右に開き中央を、一つの部隊が進んできた。

先頭の男が大将なのだろうか、体が一際大きい。


「あっ、あの男は!?」


「どうした、あんちゃん知っているのか?」


知っている!

だが、それは言えない。また、どこから情報が漏れて隊長の耳に入るかわからないからだ。


「爺さん、俺が知る訳が無い。ちょっと強そうだなと思っただけだ」


「そうか、そうじゃな。強そうだ」


先頭の男は、日本の甲冑を装備して手には長くて太い、なぎなたを持っている。

だが、おかしい、装備がどれも新品の様に美しい。

まさか、新品なのか。

良く見たら、着ている服も戦国武将の服だ。

織田軍はどうやら、武器や甲冑、服までも生産しているのでは無いだろうか。いや、生産出来るようになったと言うのが正しいのか。


大将の後ろに続く配下も、新品の日本式の鎧兜、具足を装備している。

その数は、やはり三百人ほど。

手には長い槍、腰には日本刀を装備している。


お互いに戦力は同じ位だ。

まるで、中世の西洋軍対日本軍の戦いが始まる様にみえる。

織田軍の大将は自信満々で、その顔に笑みさえ見える。

両軍の大将が、橋の中央にゆっくり一歩ずつ進みでた。


恐らく一騎打ちが始まるのだろう。


両軍は固唾を飲んで成り行きを見守った。

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