「せ、せんえつながら」
古賀さんが、俺の作業を見て声をかけてきた。
「どうしました」
古賀さんに対してはどうしても丁寧に話してしまう。
聖母のような女性にいつもの様には話せない。
心も穏やかになっている。癒やされているのだろうか。
「ゴーレム魔法を使うのでしたら、服の形に成型しなくてもよいのではないでしょうか」
「ああ、それですか。そうですね。立方体で出して、ゴーレム化しても結果は同じかも知れません」
「では何故?」
「ふふふ、そうですね。俺が死んで魔力が切れたとき、ひょっとすると立方体に戻ってしまうかもしれません。そのとき装着していた人はどうなるのでしょうか」
「……!? つぶれて死んでしまう……」
「可能性があります。なので、最初から着たときの形にしています。力を入れるとパカッと二枚貝のように開くようにしてあるんですよ」
「も、申し訳ありません。やはりシュウ様はすごいお方です。そしてお優しい」
うーむ、シュウさんからシュウ様になってしまった。
人命優先は当たり前の事だと思うのですが。
「そんな、たいしたことではありません。当たり前の事です」
「いいえ、いいえ」
首を大きく振ると、うるうるした目で頬を赤らめて見つめてきます。
アドまで俺の顔をのぞき込んで来た。
その後は、二人と十二人が静かにそれでいて熱い視線で俺をみつめています。
「あの、退屈じゃありませんか」
「いいえ……はっ、お邪魔でしたか?」
「それこそいいえです。古賀さんの様な美人に見守られていれば、疲れ知らずで頑張れます」
「まぁ……」
古賀さんが赤くなって照れていると、アドが指で背中をツンツンしてきた。
アドの指は小さくて細いので、力は入れていないのだろうけど、なにげに突き刺さってきて痛い。
「かわいいアドに、見守られていると疲れも吹飛ぶよ」
吊り目の子猫のようなアドが赤くなってくねくねしている。
かわいいんだよ。滅茶苦茶かわいいんだけど、お前二十九歳だからなあ。
まあいいか。
俺は作業に時間がかかりそうなので、退屈そうな古賀忍軍に窓の目張りをたのみ、外に光が漏れないようにしてもらった。
当然一人、外から確認もしてもらった。
こんな所で俺達の存在が新政府軍にばれては意味が無い。
忍者装備が二百体出来上がった頃には、あたりはすっかり暗くなっていた。
「ほう、美術館の司令部ですか」
古賀さん達と、お茶を飲んで休憩していると、伊達が入って来た。
その後に続いて上杉と、スケさんとカクさん響子さんカノンちゃんが入って来た。
机と椅子を増設して全員が座れるようにすると、伊達の言うように軍司令部の作戦会議室のようになった。
「一人になりたいって、言っていたと聞きましたが!!」
遅れて入って来たミサがプリプリ怒っている。
「俺は、そのつもりだったが、最近ではそれも無理だったようだ」
「ふふふ、それは残念でした」
しばらく打ち合わせというお茶会をして、平城宮跡の大和解放軍本部へ、ミサのテレポートで移動した。
このまま古賀さんが配下と使用したいというので、美術館の木田軍司令部は古賀さんとリルに任せる事にした。
翌日一月二十九日
平城宮跡の大和解放軍本部に、続々木田家の部隊が入ってくる。
最初に上杉軍続いて伊達軍が移動してきた。
伊達、上杉軍は千五百ずつの緑色の機動陸鎧だ。
上杉は天地と名付け、伊達は天竜と名付けている。
そして、指揮官機が二体、上杉専用機と伊達専用機だ。
「かっけー、ロボだー。ロボー!!」
ノブが大喜びしている。
遠距離の部隊から先に移動させた。先に入り三十日を休日にして、ゆっくり休養を取ってもらうためだ。
翌、三十日
真田隊、重装歩兵三百と真田の指揮官用機動陸鎧。
尾張から、黒い具足隊百、加藤の指揮官用機動陸鎧。
同じく尾張から、東隊が黒い具足隊百、指揮官用機動陸鎧。
そして、今川家尾野上隊、黒い具足隊千に尾上隊長用指揮官用機動陸鎧。
さらに藤堂隊、黒い具足隊が五百、指揮官用機動陸鎧。
以上の部隊が順次到着した。
平城宮跡の大和解放軍本部の広場に、全軍が整列すると圧巻だった。
「これが、木田家全軍ですか?」
解放軍の柴井班長が俺の横に来て聞いて来た。
「そうですね。今回の戦に参加するのはこれだけです」
「うちのアンナメーダーマン、シールドより、強そうですなー」
「いいえ、本気のアンナメーダーマンシールドは、一対一なら、互角以上のはずです」
「そ、そんなに強いのですか?」
「まあ、全体がアダマンタイト製で質量が多いですからね。それにアンナメーダーマンですから」
「な、なるほど」
「ミサ、俺を美術館の司令部へ移動してくれ、その後指揮官を移動してきてくれ、兵士は、三十一日深夜までは休養だ」
「はい」
こうして、美術館の軍司令部で最終の打ち合わせを済ませた。
翌三十一日
深夜より軍備を整え、翌二月一日、夜明けに布陣を終えるよう木田軍は静かに行動を開始した。
俺は、一月三十一日の夕方から通天閣に登り、地図に明日の布陣を作ると、大阪城の横の不夜城の明かりを見つめていた。
俺の横には、古賀さんとアドとミサの姿があった。
時間を忘れて見つめていると、東の空が少し明るくなってきた。
いよいよ、大阪の荒野に木田軍が突如現れる瞬間がやって来た。