「ふふふ、これは織田家特製の種子島だ」
上杉軍の驚く姿を見て明智さんは、上機嫌になり自慢そうに言いました。明智軍は柄が緩やかにカーブした、火縄銃を布の袋から大切そうに出したのです。
新品なのでしょうか、美しく光り輝いています。
三千丁の銃が出されて、発砲の準備が始まりました。
「と、殿、銃です!?」
「うむ、織田家はどうなっているのだ。銃まで製造するのか。それだけじゃ無い。甲冑に日本刀、そしてあの長い槍、服まで生産出来るというのか……」
上杉様は驚きが隠せないようです。
「桃井組頭。何がすごいのですか」
「わからないのですか。銃が生産出来ると言う事は、弾も生産出来るという事です。織田家には銃の弾切れが無くなったということです。木田家も新政府軍も、あとどの位の銃の弾丸が残っているのか。織田家は武器で一歩先を行っているということです」
「言われて見れば、すごい事ですね」
明智軍は火縄にライターで火を付けると準備が終ったようです。
「どうしたー。うえすぎー! 恐くて動けなくなったのかー! 来ないのならこちらからいくぞーー!!」
明智さんは上杉様を挑発します。
明智さんは頭の良さそうな、整った顔をしています。
ですがその美しい顔に、暗い影が落ちて狂気を帯びた笑みがこぼれます。すでに勝ちを確信したようです。
「明智様、我軍は明智軍と戦う意思はありません。このまま引いていただけば、我らが攻撃を加える事はありません」
「はあーはっはっ!! やはり、柴田に負ける程度の男よ。全軍前進!!」
明智軍は、鉄砲隊を前面に三列で整列させると、横に広げて少ずつ前進し始めました。
「全軍! 前進! だが、こちらから攻撃はするなー!」
上杉様も前進を指示すると、指揮官用の機動陸鎧に乗り込みました。
両者の間隔が百五十メートル程になった時に明智様が叫びました。
「鉄砲たーい! 構えー!!」
明智軍は前進をやめ、鉄砲隊の最前列がしゃがみ、銃を構えました。
上杉軍は止まること無く前進します。
「一番隊!! てーーー!!!」
明智軍の鉄砲隊の最前列が発砲しました。
轟音が響くと、鉄砲隊のまわりが真っ白になります。
煙がゆっくり薄くなると。
「おおおー」
両軍から低い驚きの声が上がりました。
「なにーー!! 無傷だとー!?」
明智さんが驚いています。
そして、上杉様まで驚いています。
「くそう、二番隊、構えーー!! てーーー!!」
轟音が響きます。そしてあたりを覆い尽くす白煙です。
「桃井組頭、すごいです。全く銃が効いていません」
「当たり前です。あれは敬愛して止まない、我らの大殿が作った鎧です。火縄銃ごときでは傷一つ付きません」
私も銃を見て慌てすぎて忘れていました。
あの、大殿が作った鎧です。
我軍の大殿が、火縄銃ごときでやられるような物を作るはずがありません。美しくてかっこよくて、強い物しか作るはずが無いのです。木田の大殿は至高のお方なのです。
「そ、そうですよね。この忍者服だって、そういえば銃は効きませんでした」
「三番隊、てーーー!!!」
明智さんが少し焦りながら声を上げました。
すぐに、三番隊が発砲しました。
すでに上杉軍は、明智軍まで数十メートルの所まで迫っています。
火縄銃の発砲音は轟音です。
近くなら耳栓をしていても、鼓膜がしびれて、音がしばらく聞こえなくなるでしょう。そして、煙もすごい。二番隊と三番隊の間隔が短かったせいで、明智軍全体が白いモヤに包まれています。
カンカンカン
至近距離だった為か、鎧に当たった銃弾の音がはっきり聞き取れます。
「槍隊まえへーーーー!!」
明智軍の鉄砲隊が後ろに下がり、槍隊が前に出ました。
長くて太い鉄製の槍を装備した槍隊です。槍の先端は鋭くとがり、その後ろには鋭いとげが、無数にはやしてあります。
こんな物で攻撃されたら、鎧をつけていても大けがは免れません。
「桃井組頭! あの槍はいけません。大丈夫でしょうか?」
上杉軍は、武器を装備していません。
機動陸鎧は素手です。
あんな物で攻撃されたら、無傷で……。
「うぎゃあーーー!!!!!」
「あぁーーっ!!!」
私は思わず叫び声を上げてしまいました。
「…………!?」
「……!?」
と、時が止まった感じがしました。
目の前に凄惨な光景が広がります。
「やめろーー!! やめるんだーー!! やめてくれーーー!!」
上杉様の悲壮感ただよう声が響きました。
もはや悲鳴です。
槍によって、ぐちゃぐちゃになった、人の体が吹飛びます。
たった一撃で人の体が壊れてしまいます。
悪いことに明智軍は、重くて長い槍を二人で持ち攻撃しています。一人は根元を持ち、もう一人がその前を持ち上下に動かします。
「何てことだ!!」
上杉様の機動陸鎧はヒザをつき天を仰ぎます。
「うっ」
若園ちゃんが、口を押さえると、両目からポロポロ涙がこぼれています。
明智隊の槍隊が一瞬で全滅しました。
上杉軍の機動陸鎧が、明智軍の槍隊の槍の先をつかんだのです。
鋭い穂先も、とげも、役に立ちませんでした。
千本の槍の先を持った、上杉軍はそれを力一杯上下左右に振りました。
いいえ、力一杯ではなかったかもしれません。
それでも、槍を持っていた人の体が槍に挟まれ、あるいは叩き付けられました。
本当に一瞬でした。
「ひけーーーっ!!!! ひけーーーっ!!!!」
顔面蒼白で、明智さんが撤退を指示しました。
一瞬追いかけようとした上杉軍でしたが。
「追うなー!! そのまま行かせるんだー!!」
上杉様が叫びました。
でも、その声は泣いているように震えていました。