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0221 震える叫び

「ふふふ、これは織田家特製の種子島だ」


上杉軍の驚く姿を見て明智さんは、上機嫌になり自慢そうに言いました。明智軍は柄が緩やかにカーブした、火縄銃を布の袋から大切そうに出したのです。

新品なのでしょうか、美しく光り輝いています。

三千丁の銃が出されて、発砲の準備が始まりました。


「と、殿、銃です!?」


「うむ、織田家はどうなっているのだ。銃まで製造するのか。それだけじゃ無い。甲冑に日本刀、そしてあの長い槍、服まで生産出来るというのか……」


上杉様は驚きが隠せないようです。


「桃井組頭。何がすごいのですか」


「わからないのですか。銃が生産出来ると言う事は、弾も生産出来るという事です。織田家には銃の弾切れが無くなったということです。木田家も新政府軍も、あとどの位の銃の弾丸が残っているのか。織田家は武器で一歩先を行っているということです」


「言われて見れば、すごい事ですね」


明智軍は火縄にライターで火を付けると準備が終ったようです。


「どうしたー。うえすぎー! 恐くて動けなくなったのかー! 来ないのならこちらからいくぞーー!!」


明智さんは上杉様を挑発します。

明智さんは頭の良さそうな、整った顔をしています。

ですがその美しい顔に、暗い影が落ちて狂気を帯びた笑みがこぼれます。すでに勝ちを確信したようです。


「明智様、我軍は明智軍と戦う意思はありません。このまま引いていただけば、我らが攻撃を加える事はありません」


「はあーはっはっ!! やはり、柴田に負ける程度の男よ。全軍前進!!」


明智軍は、鉄砲隊を前面に三列で整列させると、横に広げて少ずつ前進し始めました。


「全軍! 前進! だが、こちらから攻撃はするなー!」


上杉様も前進を指示すると、指揮官用の機動陸鎧に乗り込みました。

両者の間隔が百五十メートル程になった時に明智様が叫びました。


「鉄砲たーい! 構えー!!」


明智軍は前進をやめ、鉄砲隊の最前列がしゃがみ、銃を構えました。

上杉軍は止まること無く前進します。


「一番隊!! てーーー!!!」


明智軍の鉄砲隊の最前列が発砲しました。

轟音が響くと、鉄砲隊のまわりが真っ白になります。

煙がゆっくり薄くなると。


「おおおー」


両軍から低い驚きの声が上がりました。


「なにーー!! 無傷だとー!?」


明智さんが驚いています。

そして、上杉様まで驚いています。


「くそう、二番隊、構えーー!! てーーー!!」


轟音が響きます。そしてあたりを覆い尽くす白煙です。


「桃井組頭、すごいです。全く銃が効いていません」


「当たり前です。あれは敬愛して止まない、我らの大殿が作った鎧です。火縄銃ごときでは傷一つ付きません」


私も銃を見て慌てすぎて忘れていました。

あの、大殿が作った鎧です。

我軍の大殿が、火縄銃ごときでやられるような物を作るはずがありません。美しくてかっこよくて、強い物しか作るはずが無いのです。木田の大殿は至高のお方なのです。


「そ、そうですよね。この忍者服だって、そういえば銃は効きませんでした」


「三番隊、てーーー!!!」


明智さんが少し焦りながら声を上げました。

すぐに、三番隊が発砲しました。

すでに上杉軍は、明智軍まで数十メートルの所まで迫っています。


火縄銃の発砲音は轟音です。

近くなら耳栓をしていても、鼓膜がしびれて、音がしばらく聞こえなくなるでしょう。そして、煙もすごい。二番隊と三番隊の間隔が短かったせいで、明智軍全体が白いモヤに包まれています。


カンカンカン


至近距離だった為か、鎧に当たった銃弾の音がはっきり聞き取れます。


「槍隊まえへーーーー!!」


明智軍の鉄砲隊が後ろに下がり、槍隊が前に出ました。

長くて太い鉄製の槍を装備した槍隊です。槍の先端は鋭くとがり、その後ろには鋭いとげが、無数にはやしてあります。

こんな物で攻撃されたら、鎧をつけていても大けがは免れません。


「桃井組頭! あの槍はいけません。大丈夫でしょうか?」


上杉軍は、武器を装備していません。

機動陸鎧は素手です。

あんな物で攻撃されたら、無傷で……。


「うぎゃあーーー!!!!!」


「あぁーーっ!!!」


私は思わず叫び声を上げてしまいました。


「…………!?」


「……!?」


と、時が止まった感じがしました。

目の前に凄惨な光景が広がります。


「やめろーー!! やめるんだーー!! やめてくれーーー!!」


上杉様の悲壮感ただよう声が響きました。

もはや悲鳴です。

槍によって、ぐちゃぐちゃになった、人の体が吹飛びます。

たった一撃で人の体が壊れてしまいます。

悪いことに明智軍は、重くて長い槍を二人で持ち攻撃しています。一人は根元を持ち、もう一人がその前を持ち上下に動かします。


「何てことだ!!」


上杉様の機動陸鎧はヒザをつき天を仰ぎます。


「うっ」


若園ちゃんが、口を押さえると、両目からポロポロ涙がこぼれています。


明智隊の槍隊が一瞬で全滅しました。

上杉軍の機動陸鎧が、明智軍の槍隊の槍の先をつかんだのです。

鋭い穂先も、とげも、役に立ちませんでした。

千本の槍の先を持った、上杉軍はそれを力一杯上下左右に振りました。

いいえ、力一杯ではなかったかもしれません。

それでも、槍を持っていた人の体が槍に挟まれ、あるいは叩き付けられました。


本当に一瞬でした。


「ひけーーーっ!!!! ひけーーーっ!!!!」


顔面蒼白で、明智さんが撤退を指示しました。

一瞬追いかけようとした上杉軍でしたが。


「追うなー!! そのまま行かせるんだー!!」


上杉様が叫びました。

でも、その声は泣いているように震えていました。

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