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0271 過酷な罰

「野郎共ー! 息を合わせろー!! 一気に落とすんだーー!」


ゾンビが伝染しないこと、海に落とせば良いことを知った柴田隊は、力を合わせて次々にゾンビを海へ落としていきます。

ゾンビ達は、生きている人をかなり先からでも認識するようですが、それでも限界はあるようです。

そろそろ島の中のゾンビはいなくなりそうです。


大陸とは橋一本でつながっているだけです。

ここさえ押さえておけば、大陸からのゾンビは島に入ることが出来ません。

大殿は、ここまで考えてこの場所にしたようですね。

すべて手のひらの上という事でしょうか。

きっと、柴田様と前田様ならやり遂げると信じていたのでしょう。


「うおおおおおおおおおーーーーーーーー!!!!!」

「やったあああぁぁぁーーーーーーー!!!!」


とうとう島の中のゾンビを海に落とし終ったようです。


「やった!」


前田様も安堵の声を上げました。


「むふーーっ!!」


柴田様はもう声も出せないようです。

大活躍でしたからね。

良く見ると全身傷だらけです。


「交替で橋を見守れ、ゾンビを島にいれるなーー!!」


前田様が命じました。


「どうぞ!」


私が治癒の薬を出すと、柴田様が首を振りました。


「こんなかすり傷で、そんな貴重な薬は使えない。もっと命に関わる様な大ケガの時に使いたい。それをもらっても良いだろうか」


柴田様は手を出しました。

良く見ると柴田様のケガの中には、血がビュウビュウ吹き出しているような物があります。

ゾンビに力一杯かまれ、かみちぎられた傷です。

きっと、痛みは感じているはずです。


「どうぞ」


私は使いさしと、新品を二本渡しました。


「こ、これは!! すまない、ありがたくいただく」


柴田様は深く頭を下げてくださいました。

でもやはり、自分では使いません。

かっこ良いですね。


「だれかー、重傷者はいないかーー!! 薬をやるぞー!!」


そして、配下には分け与えるようです。

前田様は、一滴口に入れました。


「柴田様も!」


「いや、俺はいい。貴重な薬だ。皆で使ってくれ」


私の渡した全部を前田様に渡しました。

ふふ、大殿の次にほれてしまいそうです。

でも、その薬は木田家ではそこまで貴重では無いのですけどね。それは黙っておきましょうか。


「皆さん、おなかが空いたでしょう。大殿から食事の差し入れがあります」


船から、部下がミスリルの大きな箱を降ろしてくれました。


「なにーー!! アンナメーダーマンからだと、俺はいらん。あんな奴からの物は食わんからな!!」


「はいはい、わかりました。では、前田様どうぞ」


私は、ミスリルの箱に手を入れて、サーロインステーキを出しました。

当然、鉄板が熱々のジュウジュウいっている焼きたてのお肉です。


前田様のおなかが大きな音で鳴りました。

まわりの兵士のおなかも次々鳴ります。

そして、柴田様のおなかが誰よりも大きな音で鳴り、すごい形相でお肉を見ています。


「すげーー! すごいぞ!!」


「はい、こちらはご飯です」


真っ白なご飯のお茶碗を渡しました。

当然真っ白な湯気が立っている炊きたてのご飯です。


「うおおおーー、つやつやだ。米が立っているーー!!」


手を叩いて喜んでいます。

まるでお子様です。

かわいいじゃないですか。


「よかったですね。人数分しかありませんが、柴田様がいらないようなので、誰かはおかわりが出来ます。ささ、前田様。冷めないうちに食べてください。偉い人が食べないと家臣の方が食べることが出来ません」


「おおそうか。では遠慮無く」


前田様は、地べたのテーブルでガツガツ食べ始めました。

私の消えていた部下が、姿を現して次々柴田隊の兵士に渡していきます。


「うめーー!!!」


食べた兵士達から声が上がります。


「ぐぬううううぅぅーー」


柴田様がうなっています。


「どうされますか?」


私は柴田様に意地悪に聞いて見ました。


「そ、そうだ!」


柴田様は何か名案が浮かんだようです。


「どうされました?」


「ふっふっふっ!! 俺はアンナメーダーマンに鼻を折られた。だから、慰謝料としてそのステーキをもらってやる。当然の権利だ」


「なるほど、それは良いことを思いつきましたね。ではどうぞ」


柴田様も手を叩いて喜んでいます。

二メートルを越すような、赤鬼のような顔をした大男をかわいいと感じてしまいました。


女性からしたらこれだけでも結構な量ですが、昨日からまともな物を食べていないので足りないかもしれません。


「前田様、お替わりは無いのですが、ハンバーグならありますが……」


「いただきまーーす!!!!」


私がどうしますかと言う前に、かぶせ気味にまわりの兵士まで一緒になって言ってきました。


「うふふ、ではどうぞ、ご飯もお替わり自由ですよ。言ってくださいね」


「おかわりーー!!!!」


前田様と兵士が茶碗を上げて、皆でいいました。

うふふ、私はこの人達が憎めなくなりました。


「柴田様は、いらないのですよね」


私は意地悪です。


「ぐぬぬぬ! まけたわ! アンナメーダーマンめ! よこせわしも食う。ご飯のお替わりもな! しかし飯といい、肉といい、すげーうまい!! 柴田が感謝していたとアンナメーダーマンに伝えてくれ」


「はい。喜んでくれると思います」


そうですよね。きっと大喜びです。

大殿はそういう人です。


「柴田様、食べながら聞いて下さい」


「う、うむ。改まってなんだ。廣瀬殿のいう事なら何でも聞くぞ」


「はい。ありがとうございます。まずは、これです」


私は青い金属の箱を出しました。


「こ、これは?」


「はい、一升炊きの炊飯器です」


「ほっ!? コンセントも何も無いようだが」


「驚かないで下さい。これは、このままスイッチポンでご飯が炊けます。お米も水も自動で用意されて自動で炊けます。魔法のような木田科学の結晶の炊飯器です。横のノズルからは水が出ます」


「なっ、なにーーー!! コンセントどころか米も水もいらないと……」


すごい大きな声で驚いています。


「はい。そしてこっちが、ふりかけです。栄養たっぷりの小魚から作ってあります。これをご飯にかけて食べれば携帯食としては充分だと思います。反対からは木田産の生卵が出て来ます。まあ、あとはビタミンCが不足するくらいですね」


これは、ミスリル製の青い筒です。

上からふりかけ、下から玉子が出てくるようになっています。

大殿は小魚のふりかけを、「鳥の餌だがな」と言って笑っていました。


「うおおおおおおおおおーーーーーーーー!!!!! すごいぞ、すごい。前田ー!! 見て見ろ、本当に玉子が出て来た」


「あの、少しうるさいです。鼓膜が破れそうです」


「いやあ、すまんすまん。あまりにも驚いたから」


「確かにすごいですね」


二人は、生卵とふりかけを白いご飯にかけました。


「うめーーー!! これだけでいくらでも飯が食える」


「前田! これで兵站を気にしなくてすむ。いくらでも戦えるぞ」


「ふふふ、木田の大殿は恐ろしい人だ。休む暇無く戦えと、そう言われているようですね」


そうか、やっと馬鹿な私にもわかりました。大殿の本当の罰はこの二人に、ゾンビの掃除をさせることの様です。

少し過酷すぎませんか? ふふっ……

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