「野郎共ー! 息を合わせろー!! 一気に落とすんだーー!」
ゾンビが伝染しないこと、海に落とせば良いことを知った柴田隊は、力を合わせて次々にゾンビを海へ落としていきます。
ゾンビ達は、生きている人をかなり先からでも認識するようですが、それでも限界はあるようです。
そろそろ島の中のゾンビはいなくなりそうです。
大陸とは橋一本でつながっているだけです。
ここさえ押さえておけば、大陸からのゾンビは島に入ることが出来ません。
大殿は、ここまで考えてこの場所にしたようですね。
すべて手のひらの上という事でしょうか。
きっと、柴田様と前田様ならやり遂げると信じていたのでしょう。
「うおおおおおおおおおーーーーーーーー!!!!!」
「やったあああぁぁぁーーーーーーー!!!!」
とうとう島の中のゾンビを海に落とし終ったようです。
「やった!」
前田様も安堵の声を上げました。
「むふーーっ!!」
柴田様はもう声も出せないようです。
大活躍でしたからね。
良く見ると全身傷だらけです。
「交替で橋を見守れ、ゾンビを島にいれるなーー!!」
前田様が命じました。
「どうぞ!」
私が治癒の薬を出すと、柴田様が首を振りました。
「こんなかすり傷で、そんな貴重な薬は使えない。もっと命に関わる様な大ケガの時に使いたい。それをもらっても良いだろうか」
柴田様は手を出しました。
良く見ると柴田様のケガの中には、血がビュウビュウ吹き出しているような物があります。
ゾンビに力一杯かまれ、かみちぎられた傷です。
きっと、痛みは感じているはずです。
「どうぞ」
私は使いさしと、新品を二本渡しました。
「こ、これは!! すまない、ありがたくいただく」
柴田様は深く頭を下げてくださいました。
でもやはり、自分では使いません。
かっこ良いですね。
「だれかー、重傷者はいないかーー!! 薬をやるぞー!!」
そして、配下には分け与えるようです。
前田様は、一滴口に入れました。
「柴田様も!」
「いや、俺はいい。貴重な薬だ。皆で使ってくれ」
私の渡した全部を前田様に渡しました。
ふふ、大殿の次にほれてしまいそうです。
でも、その薬は木田家ではそこまで貴重では無いのですけどね。それは黙っておきましょうか。
「皆さん、おなかが空いたでしょう。大殿から食事の差し入れがあります」
船から、部下がミスリルの大きな箱を降ろしてくれました。
「なにーー!! アンナメーダーマンからだと、俺はいらん。あんな奴からの物は食わんからな!!」
「はいはい、わかりました。では、前田様どうぞ」
私は、ミスリルの箱に手を入れて、サーロインステーキを出しました。
当然、鉄板が熱々のジュウジュウいっている焼きたてのお肉です。
前田様のおなかが大きな音で鳴りました。
まわりの兵士のおなかも次々鳴ります。
そして、柴田様のおなかが誰よりも大きな音で鳴り、すごい形相でお肉を見ています。
「すげーー! すごいぞ!!」
「はい、こちらはご飯です」
真っ白なご飯のお茶碗を渡しました。
当然真っ白な湯気が立っている炊きたてのご飯です。
「うおおおーー、つやつやだ。米が立っているーー!!」
手を叩いて喜んでいます。
まるでお子様です。
かわいいじゃないですか。
「よかったですね。人数分しかありませんが、柴田様がいらないようなので、誰かはおかわりが出来ます。ささ、前田様。冷めないうちに食べてください。偉い人が食べないと家臣の方が食べることが出来ません」
「おおそうか。では遠慮無く」
前田様は、地べたのテーブルでガツガツ食べ始めました。
私の消えていた部下が、姿を現して次々柴田隊の兵士に渡していきます。
「うめーー!!!」
食べた兵士達から声が上がります。
「ぐぬううううぅぅーー」
柴田様がうなっています。
「どうされますか?」
私は柴田様に意地悪に聞いて見ました。
「そ、そうだ!」
柴田様は何か名案が浮かんだようです。
「どうされました?」
「ふっふっふっ!! 俺はアンナメーダーマンに鼻を折られた。だから、慰謝料としてそのステーキをもらってやる。当然の権利だ」
「なるほど、それは良いことを思いつきましたね。ではどうぞ」
柴田様も手を叩いて喜んでいます。
二メートルを越すような、赤鬼のような顔をした大男をかわいいと感じてしまいました。
女性からしたらこれだけでも結構な量ですが、昨日からまともな物を食べていないので足りないかもしれません。
「前田様、お替わりは無いのですが、ハンバーグならありますが……」
「いただきまーーす!!!!」
私がどうしますかと言う前に、かぶせ気味にまわりの兵士まで一緒になって言ってきました。
「うふふ、ではどうぞ、ご飯もお替わり自由ですよ。言ってくださいね」
「おかわりーー!!!!」
前田様と兵士が茶碗を上げて、皆でいいました。
うふふ、私はこの人達が憎めなくなりました。
「柴田様は、いらないのですよね」
私は意地悪です。
「ぐぬぬぬ! まけたわ! アンナメーダーマンめ! よこせわしも食う。ご飯のお替わりもな! しかし飯といい、肉といい、すげーうまい!! 柴田が感謝していたとアンナメーダーマンに伝えてくれ」
「はい。喜んでくれると思います」
そうですよね。きっと大喜びです。
大殿はそういう人です。
「柴田様、食べながら聞いて下さい」
「う、うむ。改まってなんだ。廣瀬殿のいう事なら何でも聞くぞ」
「はい。ありがとうございます。まずは、これです」
私は青い金属の箱を出しました。
「こ、これは?」
「はい、一升炊きの炊飯器です」
「ほっ!? コンセントも何も無いようだが」
「驚かないで下さい。これは、このままスイッチポンでご飯が炊けます。お米も水も自動で用意されて自動で炊けます。魔法のような木田科学の結晶の炊飯器です。横のノズルからは水が出ます」
「なっ、なにーーー!! コンセントどころか米も水もいらないと……」
すごい大きな声で驚いています。
「はい。そしてこっちが、ふりかけです。栄養たっぷりの小魚から作ってあります。これをご飯にかけて食べれば携帯食としては充分だと思います。反対からは木田産の生卵が出て来ます。まあ、あとはビタミンCが不足するくらいですね」
これは、ミスリル製の青い筒です。
上からふりかけ、下から玉子が出てくるようになっています。
大殿は小魚のふりかけを、「鳥の餌だがな」と言って笑っていました。
「うおおおおおおおおおーーーーーーーー!!!!! すごいぞ、すごい。前田ー!! 見て見ろ、本当に玉子が出て来た」
「あの、少しうるさいです。鼓膜が破れそうです」
「いやあ、すまんすまん。あまりにも驚いたから」
「確かにすごいですね」
二人は、生卵とふりかけを白いご飯にかけました。
「うめーーー!! これだけでいくらでも飯が食える」
「前田! これで兵站を気にしなくてすむ。いくらでも戦えるぞ」
「ふふふ、木田の大殿は恐ろしい人だ。休む暇無く戦えと、そう言われているようですね」
そうか、やっと馬鹿な私にもわかりました。大殿の本当の罰はこの二人に、ゾンビの掃除をさせることの様です。
少し過酷すぎませんか? ふふっ……