「ご主人様、なぜ魂、心……いえ魔力を入れないのですか」
フォリスさんは、俺が金沢市の21世紀美術館に寄贈するシャドウを、ゴーレム化しないのが疑問のようだ。
シャドウには、お店にあったメイド服を着せるつもりなので美術館の、日の当たらないところまで入った場所で作業をしている。
今は、フォリスさんと二人だけで趣味を満喫している。
他の人には、睡眠魔法を付与した晩ご飯でぐっすり眠ってもらっている。
「フォリスさんは、魂と思っているのですね」
「は、はい。いいえ。その様に恐れ多いことは……」
――まさか!!
俺のほうこそ恐れ多いことをしているのでは無いだろうか。
ゴーレムには俺の記憶を与えて言葉などを理解させ、後は自分で判断をするように指示を出している。
自分で判断すると言うのは、もう心が出来上がってしまうのではないだろうか?
前に進む、後ろに下がるだけの単純な行動ならいいのだろうが、自分で判断しろとはすなわち、思考せよと言うことだ。
一つ実験してみよう。
俺は、目の前に置いた厳選した三枚の普通のパンツの中から、一番派手な真っ赤なパンツを顔の前に持ち上げた。
そして、気持ちが悪くなるように、とことんまでいやらしい顔をしてニヤリと笑った。
フォリスさんが少し飛び上がった。
21世紀美術館のあちこちでガタッと音がした。
――ラップ音か?
だが、これではっきりした。
フォリスさんは、俺のいやらしい不気味な顔を見てきっと不快に思ったはずだ。
つまり心がある。
どうしようか。ロボット3原則のように人間を殺さないように指示を出すか。
いや、俺は基本的に人殺しは駄目なことだと思っている。
その考えは共有しているはずだ。
その上で、ゴーレムが殺人を犯すようなら、悪いのは殺された人間の方だ。それなら仕方が無いじゃないか。
ただ安易にゴーレムを出すのは今後控えたいなあ。
ゴーレムを出すことに恐怖を感じた。
この先映画でみた、人間が機械に滅ぼされる作品のように、ゴーレム達に滅ぼされないことを祈ろう。
「フォリスさん、シャドウを持ち上げて下さい」
「はい」
俺は白地に水色の太いストライプの入った少し子供っぽいパンツを選んで履かせる事にした。
「そう言えば、質問の答えがまだでしたね」
「は、はい」
「俺はね、芸術家を名乗れるほどの立派な人間ではありません。
でも美しい、美しくないは自分で決めてもいいと思っています。
このシャドウは、今のこの姿が一番美しいと思っています。
この子をゴーレム化して動かしてしまうと、この姿に寸分違いなく戻ることは出来ないでしょう。
それに、ゴーレムをこんなさみしいところで、動くことも許さずに一人にするのは可哀想です」
「そ、そうですね。この姿は、はかなげでとても美しいです。ご主人様が、一番美しいと思うところから変化しないことが大切なのですね。……ご主人様は、いつも私達のことを考えて下さってお優しいこともわかりました。うふっ」
どうやら理解してくれたようだ。
もしかすると、俺より頭がいいのかもしれない。
俺は、シャドウのメイド服のスカートを、頭にかぶって押し上げながら、パンツをひざまで上げた。
シャドウは、胸の前に両手を持って来て、少し心配げな仕草をして今にも歩きだそうとしている姿にした。
そのため、ひざまでがはかせにくい、だがここまでくればいっきだ。
「お兄様、ここです!!」
「おおっ! …………」
「なんでこういうタイミングかなあ。やれやれだぜ」
俺の姿を見て、久美子さんのお兄様が硬直している。
「ぎゃあぁはははははーーーーーー」
21世紀美術館中で笑いが起った。
「おいおい、全員おそろいかよー。やれやれだぜ」
姿は消しているが、姿を消せる者は全員来ているようだ。
どうやら、俺の睡眠魔法は、効いていなかったようだ。
「島津豊久です」
「な、なにーーっ!! あ、あの島津豊久……」
島津豊久と名のったお兄様の姿は、凜として美しかった。
俺とは正反対だ。
恐ろしく美形で女心をグッとわしづかみにしそうだ。
まあ、多くの女性と恋愛をして、沢山子供を作ってほしいものだ。
「あぁっ、俺はあの島津豊久ではありません。念のため」
「そんなことはありません。門司での新政府軍との戦いでは、二百人で千人の新政府軍を撃退しました。島津家一番の豪の持ち主です。豊久を名のるにふさわしいと、皆が言っています」
久美子さんが必死で訴えます。
それを豊久殿が苦笑しながら見つめている。
「ところで、大殿は何をなさっておいででしょうか?」
俺はシャドウのパンツをグイッと上げると頭の上のスカートを降ろした。
くっそっ! ここが一番良いところなのになあ。邪魔された。
はーーーーっ! 大きなため息を心の中だけでついた。
「ふむ、彫刻の寄贈だ」
「なるほど、美しいものですなあ」
「お兄様!」
「おおそうだった。大殿、我々島津には大殿に逆らう意志はありません。服従、降伏と、とってもらってかまいません。その証として妹を輿入れさせます。かわいがってやって下さい」
久美子さんが嫌がると思ったが、赤くなってくねくねしている。
「豊久どの、我が木田家にはそういう婚姻は無い。本人の意志なくして結婚などはあり得ないのだ」
「久美子は俺が見ても最高の美人だと思いますが、何が不満なのでしょうか?」
豊久殿がつぶやくと、透明になっていたうちの女性陣が姿を現した。
「なっ!!」
豊久殿は目を見開いて驚くと、久美子さんの肩をポンポンと叩くと首を振っている。
「久美子、お前がどれだけ大殿を好きでも、大殿はお前に全く気が無いようだ。まあ、あれだけの美女がいては、お前はもはや普通の容姿だ。性格も容姿も負けていては無理だろう」
「な、なんですって、性格ってなんですかーー!!」
んんっ、今何か言ったか。
俺が好きとか言わんかったか?
だが、俺にはそれを聞き返す勇気はなかった。
だってよ、姿を現したミサと響子さんやカノンちゃんが黒いオーラで気味の悪い笑みを浮かべているから、すげー、こえーんだもんよー。
まあ、俺の事を好きになってくれるような人間はいない。俺の聞き間違いだ。間違いない。
だいたい、養豚場の豚でも、嫌なんじゃ無いのかなあ。俺なんかー!
きっと、「人間みたいで気持ち悪いわ」って言われるに決まっている。
はーーっ、どこかに豚顔のデブの底辺おじさんを本気で好きになってくれる人はいないかなあ。
いたら、おじさんは喜んじゃいますよ。
もちろんエッチなことは絶対にしません。保証します。
はーーっ、さみしい。