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0290 越中へ

――か、かっけえーー!!


控えめに言ってかっこいいです。

あれだけの銃撃と砲弾の雨の中を無傷で、しかも主力兵器の戦車のみ沈黙させて、敵の司令官の前で仁王立ち。すげーかっこいい。

でも、本当にすごいのはそれを作った人ですよね。

そうです。大殿がかっこよすぎです。

この赤穂、大殿に忠義を尽くすため全てを捧げる所存です。


パーーーン


静寂を引き裂いて銃声がしました。

チュンという音と共に伊達様の独眼竜をかすめ、跳弾が敵の大将の顔に触れたようです。

大きく肉が避けたのか血がドクドク出ています。

ヒグマのような、ひげづらが血で染まります。

たれた血が、太った体に垂れて服を汚します。

結構な血の量ですね。


「馬鹿め! 誰がやったーーー!! やった奴を撃ち殺せーー!!!!」


どうやら、引き金に手を掛けていて、間違って発砲させてしまったようです。

まだ若いですね。少年兵でしょうか。

その少年兵がまわりの兵士数人から撃たれました。


「ちっ、何てことをさせやーがる!!」


「ふん、最下層の兵士なんぞゴミだ! ミスをすれば殺すのが当たり前だ!! くっくっくっ」


本当にうれしそうに笑っています。

ケガの痛みが半減したみたいです。


「て、てめーー!!」


伊達様が一歩前に出ようとしましたが、ゲン様がそれを手で制しました。


「お前が司令官か?」


赤い天夕改から、静かな声が聞こえます。

ゲン様は怒っていないのでしょうか?


「馬鹿が、俺は大臣だ。北海道国軍省、国軍大臣だ!」


「すると、自衛隊の関係者か?」


「ひゃああはっはっ!! これだから政治のド素人は困るぜ。日本の大臣はド素人が任命されてやっているんだよ。腰掛けだ! 元なになに大臣と付けるためにやっているのさ。質疑応答なんかひでーもんだ。事前に質問内容が提出されて、役人が回答を書いて、大臣はそれを理解もせず読むだけだ。国会の様子を見た事ねえのか、てめーは! 馬鹿め! おれは軍事なんてどうでもいい無関心なんだよ」


じゃあ、なぜここにいるのでしょうか?


「なに!? ぐぬぬ」


伊達様がうなって怒っています。


「あっ! 今回二つだけ勉強して憶えたなあ。まじめだろー。確か、『ぶち殺せー!!』と『美人は俺のもんだ手を出すな!!』この二つだったかなあ。ひゃははは」


「こっ、このやろーー!!!!」


「やめねえか!! 伊達ー! そんなことは、誰でも知っていることじゃねえか。今更怒る事じゃねえだろう」


ゲン様の言葉に、大臣様が少し驚いています。

でも、ゲン様それは言い過ぎです。

もう少しましな大臣もいたと思いますよ。……えっと、いたかなあ。


「帯広はさぞかし楽しかっただろうな」


「ひゃーはっはっは! なんだ、おめーも楽しみたかったのか。今からでも仲間に入れてやるぞロボも一緒ならなあ。釧路で楽しもうじゃねえか。帯広で楽しみすぎたから、釧路の美人はてめーのもんだ! ぎゃあーはっはっはっは」


どうやら大臣様は、楽しむためだけに同行しているようです。


「くそう! どうなっちまったんだこの国はよう!」


伊達様がひざまずきました。

怒って殴りかかるのかと思ったら、ひざまずいてしまいました。

緑のロボのような独眼竜がガックリひざまずき、両手を地面に叩き付けています。


「ひゃあーはっはっはー!! こいつは馬鹿なのか、日本なんて昔から同じじゃねえか。今変わったわけじゃねえ」


「そうだ。てめーの言うとおりだ!」


ゲン様が大臣を見て肯定しました。

大臣はまた少し驚いています。

そして、ゲン様はひざまずく独眼竜の肩をつかみます。


「立て伊達!! だから木田家が立ったんだ。俺達の大殿はこいつらとは真逆だ。底辺で暮らす人達を第一と考えて、その暮らしを豊にしようとしている。俺達はこんな世界で、それを実行しているんだ。それでいいじゃねえか。胸を張り誇ろうじゃねえか! そして、今度は世界だとよ。世界中をこんな奴らから救うつもりらしいぜ。どこまで欲張りなんだかなあ」


「本当にそうです!! ですがその欲の張り方は素晴らしいの一言です。富を独占しようとしている奴らの、欲の張り方とは全然違う」


「これで理解した。北海道国は明確に木田家の敵だ。ここからの戦争に木田家が参戦する。そう、北海道国の元首に伝えろ!」


「何を偉そうに!! 木田家ー? なんだそりゃ」


どうやら、北海道国は北海道の事しか興味がないようですね。


「二週間やる、まだまだ兵器はあるんだろ? 全部そろえて俺達を止めて見せろ!」


そうか! 北海道国の兵器をそこで使い果させる気なんだわ。

北海道国だって兵器の生産は出来ていないはず、使えば使っただけ無くなるということでしょう。

ゲン様はそこまで考えているみたいです。


「面白い、うけて立ってやる。二週間後帯広まで来い!! 目に物を見せてやる。くそう民間企業め、いつの間にあんなロボ兵器を作ってやあがったんだ。どこ重工だあんなもん作ったのはくそ! 全軍撤退するぞーー!!」


大臣様はぶつくさ言いながら撤退を開始しました。


「まてーーい!! 北海道国軍の兵士よ!! いまここで降伏する者は木田軍として伊達家で引き受けるぞ。降伏する者は白旗を揚げ待機せよーー!!!」


伊達様がゲン様の天夕改を見ました。

えっ、俺? みたいな感じでしょうか。


「きさまーー!!」


大臣様が怒っています。


「あとよう、俺達は大臣様とは違う。追い打ちとか汚い真似はしねえ。ゆっくり、ケガしねえように帰ってくれ以上だ」


「うわあああああああーーーーーーーー!!!!!!」


解放軍から、再び歓声が上がりました。

白旗を揚げている兵士は思ったより少ないですね。

北海道国では木田家は無名ですからね。しょうが無い事です。

それとも家族を残して来ているからでしょうか。

たぶん両方ですね。


数千人の北海道国軍をたった二人で追い返してしまいました。

すごいですよね。ふふっ、大殿は。


「ゲンさん、大臣をあのまま帰して良かったんですか?」


「そうだなあ、考えても見ろ。ド素人のダメ指揮官が指揮をとった方が、優秀な指揮官が指揮をとるより好都合じゃねえか」


「なるほど」


「しかし、北海道国というのも、ろくな奴がいなさそうだな。そんな奴らをまともに相手したくねえもんだなあ」


「そうですね」


「あの、でしたら、いかれた人に心当たりがあります」


「ほう、赤穂さん誰だいそれは?」


「はい、少し前に捕らえられた滝川一益という方がいます」


「古賀忍軍の情報ですか?」


「は、はい」


「面白い、二週間あるし、会ってみるか。伊達行くぞ」


「はっ!」


「待って下さい。私も同行させてください」


私はあわてて申し出ました。

ひょっとしたら、大殿に会えるかもしれません。


「まあ、いいだろう」


「きゃああーーー!」


私の部下から黄色い声がしました。


「あんた達なにを喜んでいるの?」


「だって、赤穂様が大殿に会えるかもしれないじゃ無いですか。ねーー」


「はーーーっ! な、にゃにを言っているのですかー!!」


ま、まさか私の気持ちがバレているのでしょうか。

いいえ、そんな事はありません。上手に隠していますから。

気のせいですよね。


ゲン様は、後の事を松田様に任せると越中に向いました。

あーー、松田様とは通称ダーと呼ばれています。ポンさんと柳川様を足して二で割らないような人です。

ゲン一家の四天王の一人です。


そして、なんと、私は、ゲン様の天夕改に乗せてもらっています。

機動陸鎧って二人乗りなんですね。初めて知りました。

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