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0292 おばさん小僧

「なんだー! このおばさん小僧は!!」


お、おばさん小僧。

確かに今のゲン様は若返って二十代前半に見えます。

それに髪が天然パーマで、唇が真っ赤で口紅を付けているみたいです。

顔も丸顔で、見ようによっては女性にも見えます。

でも、それをよりによっておばさん小僧って、一益さんうますぎです。

もう、ゲン様の事じゃ無ければ吹き出すところです。

でも、さすがに恐さが勝って、私は吹き出す事はありませんでした。


――ぎゃあああああぁぁぁぁーー!!


伊達様が吹き出してもだえています。

ゲン様がチラリとそれを横目で見ました。

恐すぎます。


「よし、伊達まずは小手調べだ。おめえさんがやってみるかい?」


「お、おおう?!」


伊達様が急に振られて返事に困っています。

それを見て一益さんは、伊達様にむかって手の平を向けました。

すごく嫌な予感がします。策士ゲン様の策略の予感。


「ぬう!」


一益が、少し力んでいます。


「うわあっ! か、体が動かねえ」


「ふふふ、慶次郎ーー!!!! 来るんだー!!」


伊達様が驚く様子を見て一益が笑いながら、慶次郎を呼びました。


「兄ちゃん、嫌だよう。こいつらつえーからよー」


体の大きな恐ろしい顔の男が、少し情けない事を言いながらゲン様の所へやってきました。

私はゾンビを川に放り投げながら、ゲン様と伊達様の方が気になって仕方がありません。


「たくよう、すっかり腑抜けてしまいやがって。まあ、しゃあねえか。負けっぱなしだからなー。だがよう、この眼帯野郎は弱え! 慶次郎おめーなら楽勝だ!」


「嘘だよう。なんでわかるんだよー」


巨体で、恐ろしい顔をしていますが、なんだか子供の我が儘みたいな事を言っています。


「それはなあ、俺のテレキネシスは言わば見えない手だ。そのおばさん小僧にはその手が近寄れねえ。だが、その眼帯野郎は俺のテレキネシスで動けなくなった。間違いなく弱い。まあこの前のカノンとかいうがきは、押さえつけさせといてすげー力で俺の手をねじ切りゃあぁがった。あれをやられると大けがをするが、見て見ろその眼帯野郎を、見るからに頭が悪そうじゃねえか。そんなことは考えつきもしねえさ」


「言われて見れば、この眼帯野郎は馬鹿そうだよ兄ちゃん!!」


「な、ななななな、なんだとこの野郎!!!! どう見ても足りねえのはお前の頭だろうがよう!!」


「兄ちゃん、馬鹿のくせに俺の事を馬鹿って言いやがった」


「なめられているんだよ。慶次郎ーー!!!! 俺達をなめたやろーがどうなるか見せてやれーー!!」


「うおおおおおおおおおーーーーーーーー!!!!!」


慶次郎は雄叫びを上げると槍を振りかぶり、伊達様に襲いかかりました。

伊達様は近くにおいてあった槍をつかむと、頭の上で慶次郎の槍を受けました。

すさまじい衝撃音と共に火花が飛びちりました。


「ぐあああああああーーーーーー!!!!」


悲鳴を上げたのは、伊達様でした。

今の衝撃で両肩が脱臼したようです。


「兄ちゃん!! こいつ弱いよー!! 弱いよ兄ちゃん!!」


慶次郎はそう言うと、うれしそうに槍をもう一度目一杯振り上げます。

口からせきを切ったように、よだれがだらだら流れ落ちます。

伊達様は膝をつきガランと槍を落としました。


「くそう!! 馬鹿のくせに強ーじゃねえか!!」


「じねーーー!!!!」


慶次郎の槍がうなりを上げました。

伊達様は潔くその槍を受けるべくゆっくり硬く目を閉じました。


パシッ


「わりーなあ。おめーらの強さが知りたかっただけだ。邪魔させてもらったぜ」


ゲン様が片手の平で……しかも素手で、慶次郎の槍をこともなげに受けています。


「な、なんだーーー!!!! このおばさん坊やは!! 邪魔するんでねえ!! ぶっ殺してやる!!」


慶次郎は憎悪の表情で槍を振りかぶると、渾身の力で振り下ろします。

ゲン様はチラリと槍を見ると、槍が当たる瞬間にその姿が見えなくなりました。


「け、慶次郎!! やめねえか。そいつにゃあ手をだすな。俺達のかなう相手じゃねえぇぇ!!!!」


一益さんが大声を出しました。

でも、時すでに遅しですね。

ゲン様の拳が慶次郎のみぞおちに当たっています。


「ごべええぇぇぇ。ぐええええぇぇぇぇ」


殴られた瞬間に肺の空気が全部吐き出され、慶次郎はひざから崩れ落ち横に倒れました。

倒れた慶次郎の口から胃の中の物が吹き出しています。


「おいおい、楽しそうな事をやっているじゃねえか」


呂瞬さんがゲンさんの前に立っています。

もう一人の甲冑の男性も横に立っています。

って、ゾンビは私と廣瀬さんに丸投げですかー。困ったものです。


「てめーは、柴田!!」


「ほう、俺を知っているのか? だが俺は呂瞬と名を改めた。なに者だてめー?」


「おいおい、お前こそ俺を忘れたのか。ゲン一家のゲンだ。姿を改めた」


「す、姿を改めたって、改めすぎだろう。髪の色から、年まで若くなっているんじゃねえのか」


「ふん、それだけじゃねえ。強くなっているぞ。試して見るか?」


「ほお、おもしれえ。強くなっているのは、てめーだけじゃねえ。俺も同じだ」


呂瞬さんは、槍を投げ捨てました。


「おいおい、槍を捨てて大丈夫かよう。まさか一人でやるつもりじゃねえだろうなあ。てめーら全員でかかってこねえか!」


その言葉を聞いた瞬間、廣瀬さんがゲン様の方を見ました。


「ゲ、ゲン様。いけません。呂瞬様と張高様は鎧の力で恐ろしく強くなっています。全員まとめては無謀です」


「だってさ、やめてやってもいいんだぜ。ゲンさんよう」


呂瞬さんはニヤニヤ笑いながら、ゲンさんにいいました。

ゲンさんは顔色一つ変えず、静かに立っています。

それを見た伊達様が震え出しました。

その場の空気が冷たく凍りついています。

ううっ、静寂が一番恐いです。

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