「す、すごいです。すごすぎです」
美代ちゃんの目がキラキラかがやいています。
でも、私はあせっています。
やり過ぎました。教室のガラスが全部割れてしまったのは想定外です。
「はぁーっ! かたづけなきゃあね」
「うふふ」
美代ちゃんは、うれしそうにホウキを持って来てくれました。
せっかく早く帰れるはずなのに遅くなりそうです。
とうさんがいれば、すぐに終るのにがっかりです。
教室には何故かほとんどの生徒が残っていて、いくつかのグループにわかれて話をしています。
十人ぐらいのグループにノブ君とライちゃんがいます。
あれは、関西グループと呼んでいいのじゃないかしら。
ノブ君とライちゃん以外の人達は、掃除を始めた私と美代ちゃんをいまだに驚いた表情で見ています。
でも、ノブ君とライちゃんは冷ややかに見つめます。
当然ですね。あの二人はこんなことはたやすくやってのけます。
なんと言っても、ノブ君はアンナメーダーマンjr、ライちゃんはアンナメーダーマンライファなのですから。
きっと、『馬鹿な事をしやあがって』なんて思っているのじゃないかしら。やれやれです。
「ちっ、俺にも貸せよ。俺は中川雷太だ。あんたの下につく」
「はっ!??」
美代ちゃんの元彼が掃除を手伝ってくれるようです。
「俺は高畑です」
「俺は荒子です」
「僕は烏森です」
「タカハタ君にアラコ君、カスモリ君。よし、憶えた!」
元彼の取り巻きが名字を言ってホウキを持ちました。
三人ともちゃんとした不良顔です。目つきが悪いです。
でも、掃除を手伝ってくれるのだからいい子達なのでしょう。
「ふふふ、あんたは知らないかもしれねえが、あの真ん中の坊ちゃんみてえな奴は、鶴見信秀だ。見た目と違ってやべえ奴なんだ。大阪で子供だけで盗賊をやっていたリーダーなのさ、大人の兵士を襲って物資を奪っていたらしい。その時兵士は皆殺しにしたと言っていた。とにかくやべえ気をつけろ」
ノブ君の事だ。
結構有名なのね。
今は心を入れ替えていい子なのに、恐れられているのね。
「ありがとう。わかったぜ」
ふふふ、とうさんの言い方の真似をして見ました。
「あっちは、今川家の連中だ。たいして強え奴はいねえが人数が多い、気をつけた方がいい」
「元彼、よく知っているなあ。助かるぜ」
「ちょ、ちょい待ってくれ」
「んっ、なんだ?」
「元彼はやめてくれねえかなあ」
「ああそうか。じゃあチュー太郎だ」
「そ、それもやめてくれーーー!!」
真っ赤な顔をしている。
美代ちゃんまで微妙な雰囲気になってしまった。
ちょっと失言しちゃったかなあ。
「ちっ、じゃあ中川だ」
ふーっ、なかなか、男の子の言い方はつかれます。
「ああっ!!! アスカさん、俺達も呼び捨てにしてください!!!」
中川の取り巻きの三人があわててそう言いました。
「美代が、いや美代さんがアスカさんを好きになるとは思いませんでした」
「何を言っているの、ちょっとこっちに来なさい」
美代ちゃんが壁際に行き全員を呼びました。
四人が私のまわりで、丸くなり他から見えない様に囲みました。
そして、美代ちゃんが、私の顔を隠す髪の毛を少し上にあげました。
「な、何をする!!」
「ご、ごめんなさい!!」
私の剣幕にすかさず美代ちゃんが謝ります。
どうやら怒られる事は分かっていたようです。
「う、うつくしいーーー!!!!」
四人が声を出しました。
「なるほど、美代さんがほれるわけだ。顔は美しい、頭も良い、そして何より強い。三拍子そろっている」
中川達が納得していると。
「うわあああああああーーーーーーーー!!!!!!」
すごい叫び声が聞こえました。
「!?」
驚いて教室の全員が声の方を見ました。
「みなしゃんは、なにが不満なんでしゅかーー!!!!」
叫び声の主は、アメリ先生でした。
「これはすごい!」
古賀校長先生です。
「や、やべー!」
私の頬を冷たい汗が流れます。
「誰がやったのですか。あっ……いいえ、気にしないで」
そういって、古賀校長先生は生徒の姿を一人一人確認します。
「ケガはなさそうね。それならいいわ。しかし、一年A組が、恐らく東京校も含めて一番すごいクラスじゃないかしら。確認しなきゃね。初日で教室の窓ガラスを全部叩き割りましたか。ふふふ、担任をアメリちゃんにしてよかった」
「!!」
アメリ先生が、大きな口を開けてパクパクしています。
だから、幼児がそんな顔をしては駄目です。
もっと、かわいい顔じゃなきゃあねー。
「子供は元気よく遊ぶのが仕事です。かっかっか!!」
古賀先生が笑いながら、教室を後にしました。
「私も手伝いましゅ」
ガックリと首をうなだれて幼女がホウキを持ちました。
落ち込んで掃除をするアメリちゃんは滅茶苦茶かわいいです。
「おい! 俺達も手伝うぞ!!」
ノブ君が言いました。
関西グループが全員手伝いを始めます。
関西グループが動き出すと、他のグループも動きだしました。
関西グループの中から、ライちゃんがこっちへ歩いて来ます。
「な、なによ! あんた」
すかさず美代ちゃんが、立ちふさがってくれました。
「どけっ! ぶす!」
そう言うと美代ちゃんを払いのけました。
「きゃっ!!」
美代ちゃんが床にペタンと尻餅をつきます。
ライちゃんは美代ちゃんをチラッと見ると、視線を私に移します。
そして、少し吊り目ですが、美しい顔立ちのライちゃんが私をにらみ付けます。
なんだか恐い雰囲気です。とうさんと一緒の時と全然違います。