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0333 大友最強の男

「俺は大友との共闘には反対だ」


「ふむ、何故だ?」


「大友は肥後にも領地がある。

もし早々に撤退されたら、安東や島津と同じで不慣れな豊後の地に取り残される。

それに援軍となれば、あごで理不尽に扱われるだろう。

ならば、この延岡の地で伊藤家だけで戦う方がいい。

その方が全力で戦えるはずだ」


「うむ。それも一理ある。他に意見のあるものは?」


「待ってくれ! まだ言いたい事がある」


「うむ、なら宗幸続けよ」


「はっ! その上で都城の居城の防衛力を強化して、籠城戦の準備を怠りなく進め、最期は都城の本拠地を枕に戦うべきだと考える。最期は俺も殿に御供するつもりだ」


「うーむ……、他に意見のあるものは?」


「……」


伊藤家の重臣の中に手を上げる者はいませんでした。


「では、俺から提案がある。俺は木田家に使者を送り婚姻を進めようと思う」


伊藤義祐様、自ら言いました。


「!?」


一同全員が驚いた顔をします。


「ふふふ、わしにも大勢の領民の命を預かっている自覚はあるのだ。戦争だけでは無く、それ以外で領民の安全と食を確保するための努力をしたいのだ。すでに木田家の噂は、こんな辺境の地にまで届くほど巨大になっている。だからこそ婚姻により強固な同盟が出来れば、きっと領民の助けになるであろう」


大殿が喜びそうな意見ですが、それが婚姻では怒らせますよ。


「……木田家との婚姻ですか……」


どうやら反対する人はいないようです。


「うむ」


「ふふふ、『うむ』は、よろしいのですが誰を嫁がせるのですか? 伊藤家には木田家に釣り合うような美女はおりませぬぞ」


「わしの妹、祐子を嫁に出そうと思う」


「ゆうこ様!?」

「いや、それは、むしろ厄介払いというのでは?」

「うむそうじゃ。見た目は確かに良いが、美魔女だからのう……」


重臣達がザワザワします。

気になりますよねー。今、厄介払いといいましたよ。


「殿、さすがに祐子様は問題が多いのでは?」


とうとう宗幸様まで苦言を呈しました。


「お前達の言う事はわかる。だが、問題なのは年齢だけだろう。見た目だけなら二十代だ。顔の作りもあれ以上の者は日向にはいない。それに、大阪まで行かせるのは命がけだ、その点でも祐子なら安心だ」


「殿がそこまでのお覚悟ならば、もはや何も申す事はありません」


宗幸様があきらめたように言いました。


「うむ、祐子を使者に出し、木田家と婚姻、同盟関係を築こうと思う。反対のものはいないな」


「はっ!」


木田家との婚姻同盟の話も、義祐様主導のもと進めて行くようです。


「とのーー!!」


「どうした?」


「新たな情報が入りました」


案内されてきたのは、少し汚れた服の男でした。

きっと、今届いたばかりの新鮮な情報なのでしょう。


「申してみよ」


「はっ! 私は島津家を調査しておりました者です。そこで知り得た情報を報告したいと思います」


「うむ」


「島津家が、木田家に婚姻の使者を出し、木田家との同盟を果たしました」


「な、なに!? 先を越されたか!」


「木田家は、加賀、能登を島津家に割譲し、島津は豊久を藩主にすべく加賀に送り込んだようです」


「な、何だと!? ふーーむ、と言う事は事実上木田家が薩摩も加賀も能登も版図に加えたという事になる」


「広大だ!!」

「し、島津も大きくなった。九州はいったいどうなるんだ」

「婚姻相手はいったい誰なんだ」

「豊久の妹の久美子あたりだろうな。顔だけはよかったからな」

「それならば豊久が藩主になるのも合点がいく」

「だが、じゃじゃ馬だろー、島津も厄介払いをしたようじゃ」

「と言う事は、婚姻が成立したという事じゃ」

「殿の言うようにやはり、木田家との同盟は急ぐべきじゃのう」

「いや、久美子と結婚しているのならもう遅いのではないか」

「木田家の当主なら、いくらでも嫁に出来るだろ」

「そうじゃ、そうじゃ。伊藤家みたいな弱小国の殿様でも何人も嫁がいる」


重臣達が、ザワザワ勝手に話し始めました。


「静かにしろ!!」


宗幸様が一喝しました。


「島津には先を越されたが、伊藤家が生き残る道もまた同じであろう。あとは木田家が良い返事をしてくれるかどうかじゃ」


「殿!!」


「今度はなんじゃ」


「はっ!! 大友家より使者の方がお見えになりました」


「何!? よし丁度良いこちらへ通せ!」


「戸次統虎と申します」


ベッキムネトラと言った使者は大げさに頭を下げました。

体の大きな若い男です。

服の上からでも全身に筋肉が隆起しているのがわかります。

どことなくスケさんに似た感じがします。

でも、目つきがスケさんより数倍鋭い、強そうな男です。


「うむ、統虎何用で参った。申してみよ」


「はあ、大友の殿様より挨拶してこいと言われただけだ。他には特に何も言われていない」


「き、貴様、口上がなっとらん!! 殿に失礼であろう!」


重臣の一人が顔を真っ赤にして声を荒げて言った。


「まて!! ふーむ……」


伊藤義祐様が左手を横にあげて、重臣達を制すると統虎様の顔をじっくり見つめました。


「……」


統虎様は肝が据わっているのか、無言で涼しい顔をして自然体で立っています。


「なるほどな、大友殿の言いたい事は分った。統虎殿、後日こちらから正式な使者を出すと大友殿にはお伝えくだされ」


「はっ! すげー殿の言った通りになった」


統虎様は返事をすると誰にも聞こえないような小声で独り言を言いました。

そして、大きく頭を下げると部屋を出て行きました。

どういうことでしょうか?


「殿、いったいどういうことですか?」


重臣の一人が、統虎の姿が見えなくなると聞いてくれました。


「ふふふ、統虎は強い! 大友期待の一人なのだろう」


「それが何か」


「ふふふ、次の戦いにはあの男を使う。だから負ける事はない。安心して兵を出せと言ってきたのだ」


「な、なにっ!! それほどの者なのですか?」


「恐らく規格外の強さなのだろう。新政府軍の隊長クラス、それ以上かもしれん」


「なぜ、わかるのですか?」


「それは……、ふふふ、少しはお前達で考えてみろ! 会議を続けるぞ……」




「おいっ!!」


「!?」


天井裏で会議の内容に集中している私達の背後で声がしました。

会議室とは別の部屋の点検口から入って来たようです。


「ふふふ、姿は見えないが気配がするんだよ!! あやしい奴め!」


「皆、ここはいったん逃げますよ」


「はい」


私達は素早く移動して、建物の外に出ました。


「くそっ!! 速い!」


そ、それはこっちのセリフです。

私達は、大殿からもらった忍者装備で常人を越える身体能力です。

もちろん本気ではないのですが、それでもそれに追いついて来られるとは驚きです。

とんでもない男です。

遮蔽物の多い街の中に逃げ込みました。


「す、姿を見せろ卑怯だぞ!! 俺の名は戸次統虎!! 名を名のれーー!!」


先程の大友家最強の男ベッキムネトラ様です。ベッキーとでも呼びましょうか。


「ふふふ、みんなは逃げてください。私は少しお相手をして、この事をアド様に報告します」


「桃井様!!」

「組頭!!」


「心配には及びません。みんなが逃げるまで時間稼ぎをするだけです。行ってください。これは命令です!」


「はい!!! ご武運を!!」


私は、ベッキーと少し手合わせをする事にしました。

気配を消した私達に気が付き、追いかける事が出来るほどの男です。

背中に冷たい汗が一筋ツーッと流れ落ち、顔の筋肉がこわばります。

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