「くそーーっ! いったいどうなっているんだ! なんなんだこれは!!」
カクさんがとうとう最後の一人を打ち倒す様子を見て、番兵の頭が大声で叫んでいる。
「おりゃあ!!」
スケさんが腕を押さえる、番兵の頭を倒れる配下の兵のところへ投げ飛ばした。
倒れた配下の中で頭がヨロヨロと立ち上がると、その回りに立ち上がる者があらわれた。
久美子さん達は手加減をしていたのだろう、番兵達はたいしたケガをしていない。
「ふふふ、やってくれたな。わかったぞー! 貴様らの作戦がー! 汚い真似をしくさりゃあがって! パンツとおっぱいで隙を造り俺達を攻撃したな! それで勝って満足かーー!! 恥を知れーー!!」
それだけじゃ無いと思うけど、中々良いところをついているなあ。
「わかりました。ならば男だけで戦いましょう。謙之信さん、スケさん、カクさん、お願いします」
久美子さんが頭の誘いに乗った。
久遠さんが心配そうな顔をして、俺を見つめてきた。
「わわわ、わかりました!!」
三人が声と共に前に出る。
だが、腰が引けて恐れおののいているように見える。
久遠さんが俺の服をつかみその手に力が入る。
「ふへへへっ」
倒れていた、番兵達が次々立ち上がった。
敵がたった三人で、さらに恐れおののいている様子を見て、急に元気が出て来たようだ。
三十人ほどが立ち上がっている。
久遠さんの手が震えだした。
顔が今にも泣き出しそうになっている。
俺は安心させるため、俺の服を握る久遠さんの手の上に、俺の手をそっと重ねた。
「うわあ、恐ろしい。こりゃあ勝てないかもしれません」
カクさんが大きな声で言った。
するともう十五人ぐらいがさらに立ち上がった。
どうにも立ち上がれない者は五、六人程度だ。
久遠さんが、俺の背中にしがみついて顔を埋めた。
心配で見ていられないのだろう。
「野郎共!! 囲んでぶちころせーー!!!!」
「うおおおおおおおおおーーーーーーーー!!!!!」
一斉に番兵が三人に襲いかかった。
「うわああっ、やられるーーー!!」
「どわああ、こわいこわい」
「やられるーー、ひいいいぃぃぃ」
謙之信とスケさんとカクさんの悲鳴だ。
「ひゃはははは、しねえええぇぇぇーーーー!!!!」
番兵達が有頂天になり襲いかかった。
「ぐわあああ」
「ぐはあ」
「ごええええーーー」
苦しむ声が聞こえる度に、久遠さんの体がビクンビクンと反応する。
「悪く思うな! これだけの戦力差だ、少し本気を出させてもらう」
カクさんが言った。
「……!?」
久遠さんはその声を聞いて、俺の体から少しだけ顔をのぞかせて様子を見たようだ。
目が大きく見開かれ、動きが止まっている。
「うおおおおおおおおおーーーーーーーー!!!!!」
スケさんが雄叫びを上げると番兵達が宙を舞った。
謙之信とカクさんは静かだが、スケさんと同じ位番兵を吹飛ばしている。
地上に落ちた者達はぐったりして、動く事が出来ないでいる。
「す、すごい……すごい! すごい!! 何て強い人達なの!!」
久遠さんがすっかり元気になり、三人の雄姿に見とれている。
「なななな、何なんだお前達は、なんなんだよー! ありえねー。たった三人だぞ。誰だーー!! パンツやおっぱいのせいでやられたなんて言った奴はーー!!」
お前だよ!!
「さて、終ってしまったわよ。どうするつもり?」
「く、くそーー!! ……が、がははははははははーーーー!!!! 馬鹿め! 俺の策略にまんまとはまりゃあがって!! ひゃはははは」
うん? 負け惜しみとはいえ、何か策が思い浮かんだようだ。
「何がおかしいーー!!」
スケさんが声を荒げて言った。
「ひひひひっ! てめーらはお終いだ。お終いなんだよ!」
「何を言っているの?」
久美子さんが心配そうに聞いた。
「ふふふ、お前達は、関所破りだ! 重罪人だ。今から増援を連れてくる。ぶっ殺してやるから、そこで待っていろ!!」
なるほど、そう来たか。
「な、何を言うの! 先に手を出したのはあなた達だわ! 正当防衛よ!」
久遠さんが声を出した。
「おいおい、ねーちゃん。子供じゃねーんだからよー! わかれよー!」
「はいはい、わかりました。待っていてあげますから、たーんと増援を連れて来て下さい。楽しみにしていますわ」
ミサがぶるんと胸を揺らして、少しなめた態度で返事をした。
「なっ! なにーーっ!!!! 言いやがったなー!! おぼえていろよーー!! てめーら、いつまでも寝てるんじゃねえ! 行くぞーー!!」
悪党らしい捨て台詞を吐くと頭は、まわりで倒れている部下の頭を叩いて起こした。
関所の番兵達がヨロヨロと、どこかへ消えていった。
「八兵衛さん、久遠さんにもアクアコスチュームを渡して下さい」
ミサが俺に言ってきた。
確かにそうだ。
また、人質にされたら危険だ。
「アンナメーダーマン、アクアコスチューム!」
俺は、ダミ声と共に腹の大きなポケットから、青いアンナメーダーマンコスチュームと、赤いスケスケパンツを出した。
そして、久遠さんにそれを渡した。
「あ、ありがとう。パンツは、セットなのですね。洗いたいので予備がほしいわ」
「スケスケ、エッチパンツーー!!」
調子に乗って、ダミ声で紫や黄色のパンツを数枚出した。
だが、ふと我に返るとなんだか恥ずかしいなあ。
「ありがとう」
受け取る久遠さんまで恥ずかしそうにする。
俺まで余計に恥ずかしくなって真っ赤になった。
「使い方は、ミサ様と久美子様に聞いて下さい。私は美味しい物が無いか周辺を調査してきます」
調べたいのはこの街の状況なのだが、八兵衛さんっぽく言ってみた。
「わかりました。気をつけて行って来て下さいね」
久美子さんが許可をくれた。
俺は、駐車場に宿舎を出して道路に出て調査を開始する。
ここは街の外れなので、畑と水田がある。だが、全く手入れがされていない。島津家の手入れされた水田とはまるで違う。
すぐに田植えの準備をしないと、今年の田植えは間に合わなくなる。
ここの領主は、ゴロツキと聞いたが農業には全く関心が無いようだ。
この調子では、食糧危機がすぐに来そうだ。
食糧が不足したら、奪い盗るという考えなら、新政府軍と変わらない。
肝属家には、この地から退場してもらうしか無い。
「アド」
宿舎から俺達の姿が見えなくなってから呼んだ。
「なんニャ?」
「番兵達を追跡してくれ、奴らのアジトが知りたい」
「もう、行っているニャ」
「さすがだ。あそこの背の高い建物の上に行こう」
アドと二人で、街の様子を探った。
陽が傾くまで見て回ったが、肝属家に動きはなかった。