目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

0311 迷軍師登場

俺達は爺さんと別れて、町外れのビルの上に移動した。


「アド!」


「……」


返事は無かった。


「じゃあ、アドは久美子さんと一緒に歳久殿の捜索をしてくれ」


「はあーーっ!? 返事をしていないのに、いるみたいに勝手に指示するニャーー!!」


「いるんだから、いいじゃねえか」


「ニャーー!!!!」


姿を現して怒っている黒猫のような、見た目が幼女のアドがかわいい。


「ミサ」


「はい、はい」


ミサは俺に地図を渡してくれた。

いつも通り人肌に温かい。


「なるほどなあ。山が海にむかってせり出している所は平地が狭い。そこをねらって、通せんぼのような形で雄藩連合軍の主力部隊は守っていたのか。そして山の別働隊が横から新政府軍を挟撃するはずだったのか。それが早々に主力が負けてしまって、山の別働隊が残ったんだな」


九州雄藩連合軍とは士気の低い烏合の衆のようだ。


「包囲される前に逃げれば良かったのではないですか」


響子さんが聞いた。


「父は歳久おじ様を待っているのです」


久美子さんが心配そうな顔をしている。


「撤退するとしたら、この山の中の県道か。すでに十二番隊がいそうだな。あれで新政府軍も隊長は皆優秀だ。となると道無き山中の行軍か。あれはきついからなあ。やめた方がいい。うーむ。家久殿も歳久殿を助けないと動け無いだろうしなー」


「……」


全員だまって地図を見つめている。


「まずは歳久殿を探し出さないと、なんともならないな。全員で生き残りの、九州雄藩連合軍の潜伏していそうな所を探索してくれ。そしてみつけたら、久美子さんに顔を見てもらおう。指揮はアドにまかせる。俺は、家久殿の様子を見てくる。ここを仮の拠点にする。なにかあったらここに戻ってくれ、俺も様子を見たらすぐに戻る。ミサ、フォリスさん行くぞ」


「はい!!」




俺達三人は、新政府軍の包囲の無い山側から、誰にも気付かれないように慎重に近づいた。


「家久様!!」


「どうした」


「はっ、物見の者が戻りました」


島津家久殿は山頂に陣を築き、新政府軍の松明を見ていたが、物見からの報告を聞くべく椅子にもどった。

陣には四方に松明があるだけで、下の新政府軍の明るさと騒がしさに比べると暗く静かだった。


「敵は主力が五番隊、それに十一番隊の隊長が援軍で千人ほど連れて参加しています」


「すると、隊長だけでも二名はいるのか?」


「はっ、それに副長が四名そろっています」


「ちっ、弱小島津家久隊千人に本気ということか」


「はい。しかも五番隊には、精鋭も千人程加わり、五千人で包囲しています」


俺は陣が見える木の上から、忍者の様に黒いジャージと黒いヘルメットで、闇に紛れてこの様子を見下ろしている。

そして、ミサとフォリスさんが姿を消して様子を見ているはずだ。

ミサを連れてきたのは、テレポートのために来てもらった。


「ミサ、一度拠点に戻って、歳久殿が見つかったらここへ連れて来てくれ」


「わかりました」


「ミサ、頼りにしている。頼む!」


「もう、ずるい人」


そういうと、ミサの姿が消えた。

うーーん、俺ってなにかずるかったか? わからん?


「五千人か、しかも隊長二人。俺も買いかぶられたものだなあ。家久という名前が良くないのかもしれないなあ。知っている人なら知っているのだろうが、俺は戦国最強の武将が実は、家久様だと思っている。兄たちには言ったんだ。恐れ多いって。だが、島津家の四男なら家久だって、ゆずらないのだからなあ」


なるほど、新政府軍にも家久殿の名が有名なのかもしれない。

五番隊とは実力的には、六番目の実力だ。大したことは無い。だが精鋭千人が恐らく十番隊、ハルラ直属部隊、つまり親衛隊だ。これが兵の質は一番高い。そして、十一番隊はあの犬飼隊長か。最も重要な食糧調達隊の隊長だ。隊長の中でも実力は上位だ。


敵千人に対してこの布陣は贅沢すぎる。

恐らく、新政府軍は島津の名を恐れているのだろう。

九州雄藩連合の連中が逃げても、ただ一人残っている家久殿を恐れている。そう考えて間違いないな。

大声を出して、正面突破をしたら案外びびって手出し出来ないかもしれないぞ。ふふふ。


「殿!!」


「どうした」


「歳久様捜索隊がもどってきました」


「うむ。で、見つかったのか」


「……」


報告の兵士が黙って下を向いた。


「だめか。だが、首が見つかっていないのなら、死んだと考えるのはまだ早い。で、あろう?」


「はっ! 密偵の話では、まだ首級は見つかったとの報告はありません。ただ……」


「ただ、なんだ」


「はっ! 明朝、総攻撃が決まって、兵に命令が下ったとの事です」


「なるほど、撤退するなら、もう時間が無いという事か……」


「一つ策があります」


「はーーっ!! 何だてめーー!!!! このでぶーー!!!!!!」


俺は思わず、名軍師のように登場してしまった。

なんなら、羽の団扇もねえのに、あおいでいる始末だ。かっこわりーー。


――はわわ、しまったーー!!


ここには俺を知っている奴は一人もいねえー!!!!


「あやしい奴め。捕らえろーーー!!!!」


ですよねーー。

俺は、兵士に取り囲まれた。

しょうが無いので両手をあげて前に進み出た。


ガスッ!! バキッ!! ドカッ!! ボンッ!!


数人の兵士の持つ武器で、さんざんぶん殴られた。


「ぎゃあーーーいたいーー」


ぶひぶひも言おうと思ったが、アドにやめるように言われたので思いとどまった。

まあ、ぜんぜん痛くないのだが、気絶寸前の演技をした。

兵士達が俺を取り押さえる。


「何者だ?」


困ったなあ、何て言おうか。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?