私は、大殿がしてきた事を事細かに大友様にお話ししました。
気温が高くなってきましたが、乾燥しているので時々吹く風が爽やかです。
「し、信じられん…………」
そして、考え込んでしまいました。
どう判断するのでしょうか、それは分りませんがしばらく考える時間は必要なようですね。
そんな時、後ろから声が聞こえました。
「おおっ! 間に合ったみたいだな!!」
大殿です!!
「!?」
本陣の全員が驚いて大殿を見ました。
「なっ、なんだあの御方は、オーラの次元が違う」
大友様が言いました。
何かを感じたのでしょうか?
私にはいつも通りの優しい、大殿にしか見えません。
「真田! ケガ人はいねーか?」
「はっ! 全員無傷です」
「そうか、よかった。安東! 四十二人全員無事か?」
「はっ!!」
「島津! おめーさんのところも大丈夫か?」
「はい」
「よかったー! 大友は籠城をせず、野戦で迎えてくれたようだな」
大殿は全員の無事を確認すると、本当にうれしそうに笑顔になりました。
そして、視線を両軍が座っている、くさ原に向けました。
じっと、状況を確認するように見つめます。
「はい」
義弘様が答えました。
「さすがに、暑くなってきたな。今日は三十度近いのだろうな。せっかくの田んぼが、このままでは田植え出来なくなりそうだ。ふむ、どうやら、両軍会わせて五千人というところか?」
「はい」
何が言いたいのだろうと、義弘様は不安そうな表情で返事をしました。
「じゃあ、想定通りだ。オーストラリアで羊を五千匹取って来た。一人一匹ずつ有る、後で食おうな」
「なっ! 一人一匹は食べられないと思います」
真田様が言いました。
「そうか!? じゃあ、だいぶ余ってしまうな。大友はずいぶん肉を食っていないだろう。残りは土産に持たせてやろう。陣がだいぶ崩れているようだが、一騎打ちでもやったのか? それともこれからやるのか?」
「はっ、終わりました」
「うん、そうか。殺したりしていないだろうな」
「当たり前にございます」
義弘様が、少しずつ明るい顔になっています。
大殿は、結果を聞きませんでした。
きっと、負ける事は無いと思っているのでしょう。
この信頼がたまりませんね。
「ふふふ、たまには俺も働くかな。カノンちゃん、ここへ来てくれ」
「はっ、はい!!!!」
すごくうれしそうな顔をして、美少女が駆け寄ります。
カノンちゃんを初めて見る、相良様や赤池様、大友様に戸次様が頬を赤らめてじっと見つめます。
大殿はいつもの御供に加えて、ユウ様とサッチンを連れて来たようです。
本陣には入りきらないので、本陣の後ろでつまらなさそうに立っています。
呼ばれたカノンちゃんだけが、大殿にかけ寄ると腕に抱きつきました。
えーーっ!! な、なんで抱きつく必要があるのーー!!
行動が意味不明です。
大殿に抱きつくと、上目遣いで見つめます。
でも、さすがです。大殿はカノンちゃんを一別もしません。
視線は。大友軍に向けたままです。
「カノンちゃん、俺の言った事を大声で大友軍に伝えてくれ!!」
「はっ、はい」
どうやら、大殿はカノンちゃんをスピーカー代りにするつもりです。
「まず、大友軍に陣形を整えさせてくれ」
カノンちゃんは大きくうなずくと、背中がそるほどに息を吸いました。
「聞けーー!!!! 大友のウジ虫共よーーーー!!!! すみやかに陣形を整え戦いに備えよーー!!!!」
すごい声です。鼓膜が破れるかと思いました。
声を聞くと、大友軍が立ち上がり隊列を整えはじめました。
同時に、島津軍も立ち上がり、陣形を組み始めます。
大殿はギョッとした表情で、カノンちゃんを見つめます。
カノンちゃんは、腕をつかんだまま上目遣いで大殿を見つめます。
かっ、かわいいーーーー。やべーー!! 可愛すぎます。
大殿は「まあいいか、大した違いはないな」みたいな表情になりました。
いやいや、ウジ虫共はまずいと思いますよ。
私は心配になって後ろの大友様の顔を見ました。
大友様は、無表情で大殿を見つめます。
大殿の人となりを見極めようとしている様です。
本陣の上から見ていると、大友軍四千五百、島津軍五百五十四が陣形を整えています。徐々に陣形が美しく整っていきます。
「はぁー、しかし、なんで大友は分ってくれないのだろうかなあ。九州は存亡の危機におちいっている。今は九州勢同士で戦っている場合じゃねえのだがなあ。人の上に立つ者が判断を誤れば、底辺に生活する者がただ苦しむだけなのだがなあ」
大殿は、ため息交じりにつぶやきました。
それを聞くと、カノンちゃんは大きく息を吸い込みました。
「聞けーー、大友のゴミ虫共ーー!! お前達が今こうしている間にも、九州の人々は新政府軍に苦しめられている。何故いま持っている武器を、新政府軍に向けないのだーーーー!!!! わからねえ馬鹿は、いまから俺が相手になってやる。覚悟しろーーーー!!!!」
「えっ!?」
さすがに大殿も、カノンちゃんの顔を見つめました。
カノンちゃん! 大殿のそれ、ただの独り言だから、言わなくていいと思いますよ。
しかもゴミ虫共って……。
カノンちゃんが素敵な笑顔で大殿を上目遣いで見つめます。
――ああ、なんて可愛い笑顔だ。まるで天使のようだ。
大殿がそんな表情になりました。
それを聞いた大友軍は、逆に武器を構えてしまいます。
ガチャリと綺麗にそろった音が戦場に響きました。