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0356 一触即発

私は、大殿がしてきた事を事細かに大友様にお話ししました。

気温が高くなってきましたが、乾燥しているので時々吹く風が爽やかです。


「し、信じられん…………」


そして、考え込んでしまいました。

どう判断するのでしょうか、それは分りませんがしばらく考える時間は必要なようですね。

そんな時、後ろから声が聞こえました。


「おおっ! 間に合ったみたいだな!!」


大殿です!!


「!?」


本陣の全員が驚いて大殿を見ました。


「なっ、なんだあの御方は、オーラの次元が違う」


大友様が言いました。

何かを感じたのでしょうか?

私にはいつも通りの優しい、大殿にしか見えません。


「真田! ケガ人はいねーか?」


「はっ! 全員無傷です」


「そうか、よかった。安東! 四十二人全員無事か?」


「はっ!!」


「島津! おめーさんのところも大丈夫か?」


「はい」


「よかったー! 大友は籠城をせず、野戦で迎えてくれたようだな」


大殿は全員の無事を確認すると、本当にうれしそうに笑顔になりました。

そして、視線を両軍が座っている、くさ原に向けました。

じっと、状況を確認するように見つめます。


「はい」


義弘様が答えました。


「さすがに、暑くなってきたな。今日は三十度近いのだろうな。せっかくの田んぼが、このままでは田植え出来なくなりそうだ。ふむ、どうやら、両軍会わせて五千人というところか?」


「はい」


何が言いたいのだろうと、義弘様は不安そうな表情で返事をしました。


「じゃあ、想定通りだ。オーストラリアで羊を五千匹取って来た。一人一匹ずつ有る、後で食おうな」


「なっ! 一人一匹は食べられないと思います」


真田様が言いました。


「そうか!? じゃあ、だいぶ余ってしまうな。大友はずいぶん肉を食っていないだろう。残りは土産に持たせてやろう。陣がだいぶ崩れているようだが、一騎打ちでもやったのか? それともこれからやるのか?」


「はっ、終わりました」


「うん、そうか。殺したりしていないだろうな」


「当たり前にございます」


義弘様が、少しずつ明るい顔になっています。

大殿は、結果を聞きませんでした。

きっと、負ける事は無いと思っているのでしょう。

この信頼がたまりませんね。


「ふふふ、たまには俺も働くかな。カノンちゃん、ここへ来てくれ」


「はっ、はい!!!!」


すごくうれしそうな顔をして、美少女が駆け寄ります。

カノンちゃんを初めて見る、相良様や赤池様、大友様に戸次様が頬を赤らめてじっと見つめます。

大殿はいつもの御供に加えて、ユウ様とサッチンを連れて来たようです。

本陣には入りきらないので、本陣の後ろでつまらなさそうに立っています。


呼ばれたカノンちゃんだけが、大殿にかけ寄ると腕に抱きつきました。

えーーっ!! な、なんで抱きつく必要があるのーー!!

行動が意味不明です。

大殿に抱きつくと、上目遣いで見つめます。

でも、さすがです。大殿はカノンちゃんを一別もしません。

視線は。大友軍に向けたままです。


「カノンちゃん、俺の言った事を大声で大友軍に伝えてくれ!!」


「はっ、はい」


どうやら、大殿はカノンちゃんをスピーカー代りにするつもりです。


「まず、大友軍に陣形を整えさせてくれ」


カノンちゃんは大きくうなずくと、背中がそるほどに息を吸いました。


「聞けーー!!!! 大友のウジ虫共よーーーー!!!! すみやかに陣形を整え戦いに備えよーー!!!!」


すごい声です。鼓膜が破れるかと思いました。

声を聞くと、大友軍が立ち上がり隊列を整えはじめました。

同時に、島津軍も立ち上がり、陣形を組み始めます。


大殿はギョッとした表情で、カノンちゃんを見つめます。

カノンちゃんは、腕をつかんだまま上目遣いで大殿を見つめます。

かっ、かわいいーーーー。やべーー!! 可愛すぎます。


大殿は「まあいいか、大した違いはないな」みたいな表情になりました。

いやいや、ウジ虫共はまずいと思いますよ。

私は心配になって後ろの大友様の顔を見ました。

大友様は、無表情で大殿を見つめます。

大殿の人となりを見極めようとしている様です。


本陣の上から見ていると、大友軍四千五百、島津軍五百五十四が陣形を整えています。徐々に陣形が美しく整っていきます。


「はぁー、しかし、なんで大友は分ってくれないのだろうかなあ。九州は存亡の危機におちいっている。今は九州勢同士で戦っている場合じゃねえのだがなあ。人の上に立つ者が判断を誤れば、底辺に生活する者がただ苦しむだけなのだがなあ」


大殿は、ため息交じりにつぶやきました。

それを聞くと、カノンちゃんは大きく息を吸い込みました。


「聞けーー、大友のゴミ虫共ーー!! お前達が今こうしている間にも、九州の人々は新政府軍に苦しめられている。何故いま持っている武器を、新政府軍に向けないのだーーーー!!!! わからねえ馬鹿は、いまから俺が相手になってやる。覚悟しろーーーー!!!!」


「えっ!?」


さすがに大殿も、カノンちゃんの顔を見つめました。

カノンちゃん! 大殿のそれ、ただの独り言だから、言わなくていいと思いますよ。

しかもゴミ虫共って……。

カノンちゃんが素敵な笑顔で大殿を上目遣いで見つめます。


――ああ、なんて可愛い笑顔だ。まるで天使のようだ。


大殿がそんな表情になりました。

それを聞いた大友軍は、逆に武器を構えてしまいます。

ガチャリと綺麗にそろった音が戦場に響きました。

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