目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

0353 失態

「ぜひぃーひゅー! ぜひぃーひゅー!」


三好様が、自陣に戻りドカリと座りました。

すごく荒い喉の奥から出てくる呼吸です。


「これより三十分の休憩とする。義弘それでいいだろう?」


大友様が自軍の前に歩き出して言いました。


「うむ、良かろう」


義弘様は自軍の本陣の幔幕の中で、正面だけを開けて言いました。


「さあ、これを……」


真田信繁様が、大殿の回復剤を三好様の前に差し出しました。


「いいえ、このまま、奴と条件を同じでやらせてください。はあぁ、はあぁ……」


さすがは三好様です。

正々堂々戦いたいと言う事のようです。


「第二ラウンドは、最大武装にて戦う事とする。義弘、異存は無かろう」


「それで、お前達がいいのならな」


「ふふ、言質は取ったぞ。あとで、武器は無しとか言うんじゃねえぞ。ひひひ、戸次は槍を取ったら天下無双だ。お前達に勝ち目はねえ。統虎ー!! 聞いての通りだ! 次はおめえの槍のすさまじさを見せ付けてやれー!」


「ははっ!!」


「ふーー、無知というのは恐ろしいものですね。これで万に一つの勝ちの可能性も無くなりました」


真田様がため息交じりで言いました。


「ひゃあーーはっはっはっ!! そうだ、これでお前達に勝ち目は無くなったー! 首を洗って待っておけーー!!」


恐らく真田様は逆の意味で言ったのだと思いますよ。


「真田様、回復薬をいただいてもよろしいですか?」


真田様は、無言で三好様に渡しました。

三好様がさみしそうな顔をして回復薬を口にしました。




「うおおおおおおおおおーーーーーーーー!!!!!


気合いを入れて戸次様が頭上で、槍を回転させます。


「オイサストシュヴァイン」


三好様が言いました。

シュザクから赤い糸が伸び三好様の体を包みます。

三好青海入道様が完全防備で静かに仁王立ちになりました。



「両者、準備はいいか? くっくっ……」


大友様が笑いを押し殺しきれません。


「……」


三好様も戸次様も無言でうなずきました。


「はじめーーー!!!!」


大友様がどこで用意したのか軍配を頭上から前に降ろしました。


「三好様、武器はよろしいのですか?」


頭上で槍を、ブワンブワン言わせながら聞きました。

三好様が素手なのを見かねて戸次様が質問したようです。


「うむ、必要無い!」


「では、参る!! うおおおおおおおおおーーーーーーーー!!!!!」


戸次様は、素早く槍を前に突き出します。

目にも止まらぬ速さです。

三好様は、それを体さばきで避けていきます。


「こんなものですか?」


三好様が聞きました。


「な、なにーーっ!!」


戸次様と大友様が驚いています。

ふふふ、大殿の装備ですよ。驚く意味がわかりません。

こうなっては、戸次様の勝ちの可能性は、0.01パーセント、いいえ0.001、0.0001。ダメです1をたてる事が出来ません。その位のパーセンテージです。


「ふおおおおぉぉぉーーー!!!!」


戸次様がスピードを上げました。

土埃が、二人の周囲を覆い隠します。


「……」


三好様は、相変わらず避けているようです。


「くそーーっ、これでどうだーー!!!!」


戸次様が槍を大きく引いて、突き出しました。

砂埃でよく見えませんが三好様は避けきったようです。


「かかったな!!!!」


戸次様は、槍を横に振りました。

これまで、戸次様は前後だけに槍を動かしていました。

ここで急に横移動に変えたのです。

三好様は縦移動に目が慣れてしまって、対応出来ないかもしれません。


パーーーン


槍が当たった音がしました。

二人の動きが止まりました。

ゆっくり土埃が薄らいでいきます。


三好様は一歩踏み込んで、槍の穂先を避け槍の柄の部分を脇腹に受けたみたいです。

ですが、大殿の防具です。傷一つついていません。

そして、槍を両手でつかんでいます。

全く動きがありませんが、戸次様は渾身の力で槍を動かそうとしているようです。


「ぜやあーーー!!!!」


三好様は、槍を上に勢いよく持ち上げました。

戸次様はそのままの勢いで体が宙に浮き、そして手が槍から離れました。


「い、いかんやり過ぎた。桃井殿!!」


「えーーっ、ここで私ーー!!!!」


十メートル以上宙に上がり、私の方に猛烈な勢いで飛んできます。

三好様の言った通り生身の戸次様では、このまま地面に激突すれば死んでしまいます。

私は全速で戸次様の方に駆け寄り、ジャンプして空中で受け止めました。


「桃井さん、拘束を!!」


三好様が言いますので、忍者の標準装備の拘束具で戸次様を空中で拘束しました。


「くそう、こんなことが……。こんなことがあってたまるかーー!!! うおおおおおおおおおーーーーーーーー!!!!! なーんてなっ!! やれーーーい!!!!」


大友様が言いました。


「しまった!!!!」


失態です。

私はまたしても失敗をしていました。

何と言う事でしょう。

戸次様の策略に引っかかっていたようです。


「悪いなあ、桃影さん」


「!?」


戸次様が、悪魔の様な笑顔を私に向けました。

やられました!!

昨日から、部下がおかしいと思うほど私を執拗に呼んでいたのは、このためだったのですか。

私が戸次様の所に現れると見越して、呼び続けて食事に誘ったのはこのためだったのですね。

しかも念のため、部下の有無まで確認をしたのもこのためですか。


「ふふふ、桃影さんに負けてから、こんなこともあろうかと立てた第二の矢。これで詰みです」


「ひゃああーーーはっはっはっーーーーーー!!!!」


大友様の高笑いが戦場に響きました。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?