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第四章

第21話『俺達だって配信をしてみればいいんだ』

「おい、俺って天才かも知れん」


 高定たかさだは、朝食を摂りながら爆発している寝ぐせのままそんなことを唐突に言い出す。


 当然、あほらしい光景を前に彩梨さいり愛奈恵まなえは細目で呆れた目線を送る。


「夢見心地ってんだったら、もういっそのこと二度目でもしてきたらいいんじゃない」

「全くの同意見。そんな能天気状態でダンジョンに行ったら、こっちが危険になる」

「おいおい、まずは俺の話を聴け」


 謎の根拠に満ち溢れている高定は、胸を張る。


「巷では、ダンジョンで配信をするのが流行っているとかなんとか聞いたことがある」

「それ、誰から聞いたのよ」

「詳しいことは明かせないが――そこで、だ。俺達も配信者として活動をしようじゃないかって」

「一応訊くけど、それって提案なの?」

「彩梨、わかってるでしょ」

「はぁ……」

「おうおう、愛奈恵はわかってるじゃないか。そう! 既にチャンネルは開設済み。アカウント名だって決めてあるんだぞ」


 彩梨と愛奈恵は顔を合わせ、ため息を零す。


「アカウント名は【絶対戦線攻略パーティ】だっ!」

「うっわっ、だっっっっっっっっっっさ」

「……今すぐにでも脱退したくなるそのパーティは、変更できないとかないわよね」

「設定する時に忠告みたいなのは出てきてたな。初期設定したチャンネル名は2カ月ほど変更不可能って」

「……」

「……」

「なんだ、もっといい感じの名前があるならじゃんじゃん言えよ。2カ月が過ぎたら1ヵ月に1回は変更できるらしいからな」


 落胆している2人はまるで視界に入っていないのか、高定は満足気に鼻を鳴らす。


「んで、配信している時の呼び名はどうする」

「なんでもいいんじゃない。別に本名で」

「私もそう思う。あえて言うなら、本名の感じがわからければ、かな。もしもストーカーとか来たら普通にキモイし」

「そうね。チャンネル名はともかく、私達ならすぐに人気者になるだろうし」

「なんだかんだいって乗り気じゃねえか。んじゃタカサダ、サイリ、マナエって感じでいいか」

「あい」

「うん」


 高定の提案は、不純なものである。

 昨晩、偶然みつけた配信が頭から離れず、どうにかしてあの美少女達と近づけないかと考えた結果、同じ土俵に入ればいいのでは、という結論に至った。そして、彼女達より人気になって登録者数が増えれば、優位な立場からコラボなどの申請ができる。そうすれば断られることはない、と思っているからだ。

 しかしそれだけではない。下衆な考えも混じり込んでいる。

 他人の空似、とは諭されたものの、パーティの中に居た1人の男がどうしても一心だと思っている。なら、性懲りもなく惨めに探索者を続けている一心を、今度こそ立ち直れないくらい完膚なきまでに蹴落とそうと考えているのだ。


「じゃあ早速、これから配信をするからな」

「はいはい」

「ちやほやされる未来が用意に想像できるわね」




「――おい! どうなってるんだ!」


 タカサダは怒りを露にし、地面に落ちている小石を蹴り飛ばす。


「ちょっと落ち着いてよ」

「まだ配信中だよ」


 サイリとマナエの制止は虚しく、タカサダの怒りは収まらない。


「うっせえな。別にいいだろ、チャンネル登録者は0人のまま。今の視聴者数だって0人のままなんだぞ」

「……」


 サイリは「そんなダサいチャンネル名で誰が観に来るんだ」という言葉を飲み込む。


 対するマナエは問う。


「タカサダは普段から配信を観ているんだから、そこからなにかしらのヒントとかないの」

「……それもそうだな。その手があった」


 マナエはサイリへ視線を送り、親指を立てる。


「あいつら……いやあの子達は、序盤の雑魚モンスターを狩っていた。初心者なのかもしれないが、どうせあいつが足を引っ張ってるんだろう。だが、それがなぜあんなに視聴者が多くなるんだ」


 タカサダは腕を組んだまま天井を見上げる。


「ビジュアルで言ったら、サイリとマナエだってそこまで劣っているとは思えない。戦闘力で言ったら、俺達の方が圧倒的だ。標的としているモンスターだって、明らかに俺達の方が上。じゃあなぜ……」


 タカサダは、控えめに言って顔がいい。世間一般的なイケメンの部類に入るほど。

 そんな相手に小言だったとしてもベタ褒めされたのなら、キュンっと心が掴まれてしまうだろうが……数カ月だが一緒に居ると、その曲がりまくっている性格を目の当たりにしているため喜ぶことすらできない。

 残念イケメンのタカサダは、いつも通りに見当違いの答えを導き出す。


「わかったぞ。俺達に足りたいのは、派手さだ」

「派手さ……?」

「ああ。配信を観ていた時は、誰だかわからないあの男が、未知のスキルとやらを使用していた」

「それじゃあ私達もスキルガチャを回すってこと? それはリスクがありすぎるでしょ」

「そうだな。それぐらいは俺だってわかる」


 サイリはホッと一安心する。だが、まだ話はみえない。


「だから俺達は、もっと強いモンスターと戦ったり多くと戦う。んで、貪欲に勝ちを追い求めるんじゃなくて、ド派手に戦うってことだ!」

「は……い……?」

「だから、ド派手に戦うんだよ。できる限り大きく立ち回って、魅せる戦い方をする。ただそれだけだ」

「それで、偶然にも観に来てくれた人を取り込んでいくって策戦ってわけ?」

「そ、そうだ! マナエはわかっているじゃないか」


 マナエは「絶対に今、そう思っただけでしょ」という言葉が咄嗟で出てしまいそうだったのをなんとか押さえ込めた。


「じゃあそんな感じでやっていこうじゃないか」


 しかし、いつもは味わうことのない疲労感には見合う結果は得られず。

 最後の方に数人だけ配信を観に来てくれたことに、タカサダは喜んだものの、それが虚しいことを理解しているのはサイリとマナエだけだった。

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