矢筒より新たな矢を取り出す。【鉄の矢】だ。ルトちゃんが私に買ってきてくれた物だ。
当然だが、鉄製となれば普通の矢より重くなる。それを現実の弓で射るのは不可能だ。魔法の弓だろうとも弓に強靭な弾力が備わなくてはならない。そして、そんな弓を引こうとすれば相応の筋力値が必要だ。
極振りで最低の筋力値しかない私ではそんな弓は到底装備出来ない。故に鉄製の矢を買おうなどという発想はなかった。
しかし、ルトちゃんは違った。彼女は私の戦闘スタイルを見ていた。つまりは指の間に矢を挟んで殴る戦法を。それを見て彼女はこう思ったのだ――「これ鉄製の矢を使ったらもっとダメージ入るんじゃね?」と。
鉄製の矢を射るのではなく握って使うのであれば、筋力値は要らないのではという発想だ。確かに矢自体には必要な筋力値は設定されていない。であれば、鉄製の矢を私が握っても問題はない。弓使いとして弓を計算に入れないのは邪道だとは思うが、私にとっては今更だ。
「やぁあああああ――!」
そして今はスキル【二乗の
「グヌァアアア!?」
右脇腹に打撃を受けた神官が呻き声を上げる。この戦いで初めての明確なダメージだ。更には、
「クッ……これは、毒か!」
【血紋の手袋】による毒だ。先程は装甲に矢ごと弾かれて発揮出来なかったけど、矢殴りで装甲を貫いた事で皮膚に傷を作った。そこから体内に毒を注入したのだ。これで装甲があろうがなかろうが、じわじわと体力が削られ、いずれは戦闘不能になるだろう。
「そこな魔法使いが一番かと思ったが……最も排除すべきは貴様か、弓兵!」
「うわっ、ヘイトこっちに来ちゃった?!」
神官の
「そうはさせるか!」
マイが私と神官との間に割って入る。同時、剣から魔力の斬撃を放った。マイのスキル【
「ぬるいわ!」
だが、足を止める程ではなかった。斬撃は【装甲】を突破出来なかったのだ。痛みに耐えた神官は顔を戻すと更に前進し、杖を薙ぎ払った。マイが剣で防御するが、神官の膂力の方が強い。杖に弾かれてマイの身体が宙を舞った。
「マイ!」
「人の心配をしている場合か?」
振るった杖を翻し、神官が私に向かって振り下ろす。だが、当たらない。マイが間に入ってくれたお陰で回避の時間は稼げた。神官が如何に長身で杖が如何に長かろうと私には届かない。
二度三度と杖を振り回す神官。しかし、充分に間合いを広げた今の状況では幾ら振ろうとも私には命中しない。そうこうしている内にルトちゃんが【
「ヌッ、ウウム!」
「……火はあんまり効いていない感じ。風の方が効いたとなると地属性かな」
「魔法使い、貴様ァ!」
神官のヘイトが再びルトちゃんに向く。しかし、それを許す私達ではない。神官の右脇腹を私の矢殴りが、左肩をマイの【剣閃一斬】が襲う。ルトちゃんへの敵意をこちらに強引に引き寄せる。
神官が私達へと杖を振るう。だが、ターゲットが二人となれば狙いが定まらず、動きは精彩を欠く。そんな攻撃では避けるのは容易かった。
「ちょこまかと……! ならば、これでどうだ?」