「……わたしもデビューしたての頃は団長……あ、ヒプノス・コーポレーションの先輩Vtuberの事ね。『団長の妹分』という目で見られていた。あの人の後輩だからっていう理由で応援されていた。最初は私を直接推していたんじゃなかったの。……皆、そんなものだよ。いつだって誰かの影響で伸びている。だから、すのこが気にする必要はない」
「そう言ってくれるとちょっとは気が楽になります」
「……すのこ、また敬語使っている」
「あっ、すみませ……ううん、御免」
昨日の夜、配信終了間際にルトちゃんに言われたのだ。「わたしとあなたはもうお友達なのだからタメ口で行こう」と。勿論、私はそんな提案は畏れ多いと拒否したのだが、結局ルトちゃんに押し切られてしまった。
私が登録者数一万人を突破したのは今日。昨日の時点では彼女に比べれば私なんて『まだ収益化のスタートラインに立ったばかりの底辺配信者』だった筈だ。実際に彼女がどう思っているのかは分からないが、そう思われても仕方がない程に私と彼女には差がある。
にも拘らず、そんな私を彼女は友達と呼んでくれた。動画サイトの数字よりもこの世界で出来た縁を大事にしてくれたのだ。その懐が広さに感謝の念を覚える。
「……問題はその後。登録してくれたリスナーを如何に留めておけるか、だよ。すのこの魅力でファンを惹き付けていかなくちゃ。……ファイト」
「はい、頑張りま……頑張る!」
それはそれとして、推しに説教を受けている今の状況はあまりにも美味し過ぎる。これもまた甘露の一つだ。御馳走様です。
「すいませーん、この
などと私達がやり取りをしていたら、その合間にマイが店員さんに追加注文をしていた。私達の会話中に一皿平らげていたのだ。マイペースというか箸が早い娘だ。
「
「……さあ。深海魚は英語でディープ・シー・フィッシュだけど」
「来れば分かるさ。メニューに書いてあるんだからとりあえずは食えるだろ」
「……それもそっか」
細かい事は気にしないでおこう。どうせここはゲームの中、食べても死ぬ訳でもなし。
「……あ、ロントがもうすぐ来るって」
ルトちゃんの教典に通信を送られてくる。差出人は夜凪ロントだ。用事があるとの事で乾杯には遅れたが、彼女もこの宴会に参加する予定なのだ。
「本当に良いの? 私、ロンちゃんとはそんなに面識ないのに」
「……だからだよ。ロントもすのこ達ともっと話してみたいんだって。わたしがロントに二人の話をする度に『ルトばかりずるい。ボクにも会わせろ』って言っていたもん」
「へえ、すのこだけじゃなくオレにもか? そいつぁ光栄だな」
「いやいやいや、光栄過ぎて身が縮まるよぅ……ひぇえええ」
私の知らない所でそんなに興味を持たれていたなんて。ていうか、ルトちゃんとロンちゃんが私達の事を話題にしていたなんて。粗相のないようにしたいけど、この緊張感で出来るだろうか。ドキドキするぅ……!
……ハッ! これってもしかして「ボクの女にちょっかい出しやがって」ってクレームが来るロンルト的展開!? ヤバい別の意味でドキドキしてきた……!