「二倉すのこに三本勝負を申し込んだ!? いやいやいや何考えてんのよ、ゾヘドちゃん!」
テストプレイ十三日目の午前九時。
「何も考えていません!」
「でしょうね知ってた!」
庭園にはラペ、ゾヘド、ロントの三人が集まっていた。ロントは壁に寄り掛かり、事の成り行きを見ていた。ラペは「なんで、いつもいつも考えなしに動いちゃうのかなあ、この娘は!?」と頭を抱えている。一方のゾヘドは無駄にキリッとした顔をしていた。まさに三者三様だ。
「だってあいつ、急に出てきた癖してマナ様とすっごい仲良さげにしているんですよ! マナ様の隣は『
「うーん、この忠犬に見せかけた狂犬っぷり」
ゾヘドの言い訳にラペも呆れ顔だ。良い意味でも悪い意味でも犬っぽいのがゾヘドというキャラクターなのである。
二人の様子を観察していたロントが口を開く。
「とはいえ、解決方法としては随分平和的でしょ。ミニゲームで決着をつけるっていうんだからさ」
「だからといって、大人げない事を……。登録者数に一体どれだけの差があると思ってんのよ」
ラペが困りを誤魔化すように側頭部を掻く。
現在、三人のチャンネル登録者数は夜凪ロントが三六万人、闇藤ラペが三九万人、異月ゾヘドが五三万人だ。ようやく一万人を超えた二倉すのこに比べれば圧倒的な数字だ。その上、三人の中ではゾヘドがトップなのである。
「登録者数で実力が変わる訳じゃないけどさ。何つーか、こう、遠慮と委縮とか、数字が上の人にはどうしてもあるでしょ? ねえ? そんな相手に胸を貸す的なコラボじゃなくて、正面から対決しようだなんてさあ。大人げないよねえ。つーか、向こう個人勢でこっち企業勢だし」
「むー……」
「それに、その気になれば、リスナーを動員してアウェイを作り出す事が出来るじゃん。ゾヘドちゃんにそんなつもりがなくてもね」
「『自分の所のリスナーはそんな事は絶対にしない』とは言い切れないのが辛い所だよね。ネットの闇は深いから」
ラペの憂慮にロントも渋い顔をする。
『自分の好きなモノが一番でなければ気に食わない』という人間はどこにでもいる。一番とまで行かなくても、『自分の好きなモノと競う者は許さない』という輩もいる。ゾヘドを勝たせる為に妨害工作をしようという外道が現れかねないのだ。また、そこまで直接的ではなくても圧倒的な声援で相手にプレッシャーを与える事は出来る。
ゾヘドのファンがそうしないという保証はない。そういうラペなりの配慮だったが、
「それは大丈夫。ウチのリスナーは私が勝って喜んでいる所よりも私が負けて台パンしている所を見たがるド畜生共ばっかりだから」
「自分のファンをド畜生呼ばわりしないの」
とはいえ、その辺りはラペも共感出来る。確かに配信時、自分が歓声よりも悲鳴を上げた時の方がリスナーの
どうにも退く気配のないゾヘドにラペは溜息を吐く。
「記憶を消すのは……まあ、僕は賛成だけど」