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幕間 放浪者

「あづまよ」


 ああ、そういえばあの時もこんな風に富士山が見えたっけ。

 昔と今では少し形が違うけれど、不死の山はいつでも美しいね。


 大好きな――心から愛する人がいた。

 ボクのせいで失ってしまった、我が妻。

 別れ際の強い眼差しが、ボクに先に進めと促す眼差しが、魂に焼き付いて何度生まれ変わっても忘れられない。



 幾度も幾度も、生まれ変わって記憶が蘇る度に彼女を探し続けて。

 それでも、ずっとずっと見つけられなくて。

 やっと今生で出会えたのに――おそらくボクらは結ばれない。

 大好きと言って抱きしめれば「私も大好きだよー」と抱きしめ返してくれるけど、それは友愛でしかないことくらいわかってる。


 うん、仕方ないよね。あっちは記憶がないみたいだし。

 記憶を持ち続けてるボクの方が「おかしい」。


 でも大好きだから側にいたくて。

 側にいると辛くて。

 辛いのに離れられなくて。


 大昔の記憶を引きずったまま、本当ならばすり切れて消えているはずの想いを意固地になって抱きしめて、休み時間に教室にいるのは悲しくてふらふらと中庭なんかを歩いたりする。


 そのせいでスナフキンというあだ名が付いてることを知ったときには爆笑したけど。


 ねえ、ボクわたしはどうしたらいいのかな。

 どこへ行ったらいいのかな――。

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