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第74話 不運すぎる男と幸運な女

 1ヶ月に2回も、同じダンジョンのボス倒しちゃう人っている?

 いや、倒したのはどっちもヤマトなんだけどさ。


「ボス湧き期間……あーーーー」


 ママが何やら検索して、画面を見せてくれた。

 有志で作られてるダンジョンデータベースの、初級ダンジョンのボス湧き期間をグラフ化した奴だね。

 倒した報告と湧いた報告を有志で集めてて、それの集大成としてできあがったデータベースだ。多分この前のシーサーペント倒した奴も動画見てた誰かが登録してくれたんだろう。


 せっかくなので、データの信頼性向上のために日付とダンジョン名を入れて、「湧いた」と「倒した」に両方チェックを入れて送信。


「ボス湧き最短は10日で、最長は61日。これでいうと中央値は35日くらいだけど、実際の最頻値は30日――どっちにしろ、2週間でリポップは早いしそれに出くわすのは相当運が悪いとしか言えないわね」

「蓮くん聞いてる? 運が悪いって」

「やっぱ俺か、俺なのか……」


 ママがグラフを見てざっくり解説してくれたけど、どっちにしろ30日プラスマイナス10日以上の日数の湧きはガクンと減ってる。

 この前の青箱もそうだけど、蓮くんは「レアを引き当てるのに運が悪い」って奴なのかな。


 私は運いいはずだよ! ヤマトに出会ってテイム出来たしね! ヤマトが隠し部屋も見つけてくれたし。あれ、これ全部ヤマト関連だね。運がいいのはヤマトか!


「上がっちゃったものはしょうがないよね。私も1上がってる」


 蓮くんは……その前は知らんけどLV8に上がる前にぎりぎりまで経験値溜まってたのかもしれないなあ。そこにシーサーペントの経験値が入って、かつ、一応ソロで国分寺ダンジョンでゴブリン倒しちゃってるから、9に上がってしまったと。


「あいちゃん、LV上がった?」

「ひー、おかしかったー! 芋ジャーで踊る2人の背後に湧くボスに、即ヤマトの跳び蹴り。LVね、上がってるだろうなー。おっ! 私も9にあがったよー、順調ー」


 あいちゃんの方がLV高いのか。まあ、金沢さんも言ってたけど、クラフトはMPとDEXが大事で他はあまり気にならないそうだし、あいちゃんは学校で鍛えてるからステータスはそこそこ高いだろう。


 問題は蓮くんだよね。

 私はぶっ倒れたままの蓮くんの手元に落ちてるスマホを覗き込んだ。


安永蓮 LV9 

HP 50/50

MP 35/35

STR 9

VIT 13

MAG 20

RST 21

DEX 16

AGI 15

スキル 【初級ヒール】

装備 【初心者の服】


「ええええー、何このステータス!」


 思わず叫んでしまった! MAGが20って何事!? てかRSTも何もしてない割に上がってるじゃん!

 私の叫びに蓮くんが顔を上げて、スマホを持ち上げて画面を確認した。

 どうもさっきはLVが上がってしまったことに絶望して、それ以上チェックしてなかったみたいだね。


「STRが9……」


 ステータスを見た蓮くんが呆然としている。STRは確かに低い。そしてMAGとRSTは異様に高い。他のステータスはそれなりに私の予想通りの上がり方をしたんだけどなあ。STRはせめて12くらいは行くと思ってた。


「多分、才能が無いんだ、これ。私のMAG上がらない現象と同じだよ。

 蓮くんは根本的に魔法向きなんだよ」

「とどめを刺すな……俺は今凄いショックを受けてるんだ……」

「でもHP20も上がったじゃん! 凄いよ!」


 前に撮っておいたスクショと見比べると、特訓の成果は確実に出てるんだよね。HP20上がったのは凄いと思う。STRも3上がってるから、私の「MAGが1も上がりませんでした」よりは全然いい。


「そ、そうだな。装備で補正も付くし、中級ヒール取ればかなりしぶとく戦える」

「はいはーい! そこでステータス見て考え込んでる場合じゃないわ。それは車の中にして。蓮くんとユズは最初の服に着替えて撤収!」


 ママがパンパンと手を打って私たちを急かした。そうですね! ここで時間取っててもしょうがないや。 

 私たちは着替えて、帰りもダッシュで第一層まで戻った。このスピードだと初級ダンジョンのモンスターは追いつけないってのが確信できたよ。まあ、初級ダンジョンに行く人間が着ている装備じゃないし!


 私たちはママが運転する車の中でそれぞれ自分のステータスを確認する。

 蓮くんは中級ヒールと、初級・中級魔法が出て来て悩んでる模様。魔法系のスキル取得はちょっと特殊なんだよね。この前レッスンの合間に教科書見せておいたんだけど、それがなかったら多分蓮くんは中級ヒールを迷わず取得してたと思う。


「LVが7から9に上がったよー。うまうまー」


 一方、あいちゃんはお気楽にLVが上がったことを喜んでる。横から覗き見したら、DEX27だって! さすがだな、クラフト!

 それと、蓮くんには絶対見せられないと思ったけど、あいちゃんのSTR12あった。うん、戦ってLV上げするとLV10前後でだいたいこのくらいの数値にはなるらしいんだよね。


 蓮くんのはやっぱり「才能ない」んだろうな……いや、初期からMAGが突き抜けちゃってた弊害か。あれを見てSTRを伸ばそうって思う人あんまりいない。

 蓮くん自身は魔法も剣もどっちもできたらかっこいいだろうって思ってたみたいだけど、聖弥さんがきっと「この高いMAGを活かすべき」って思ったんだろうね。


 実際、クラスの中でもMAGが10超えてるのはほんの一握りで。

 だからこそ、蓮くんのMAG20は凄いのだ。本人がそれをありがたがってないけどね。



 うちに着いてから、ママが地下の防音室で鏡の設定をいろいろ弄って黒背景にして、その間に私と蓮くんはメイク直し。私はそんなに崩れてないけど、蓮くんは顔に砂付けちゃったんだよね。

 車に乗る前に「ちゃんと落としてから乗りなさい」ってママに叱られてたし。


 ヤマトは家に着いた途端、ママから連絡を受けてたらしいパパによって捕まってお風呂場へ連行されていた。ヤマトのお風呂は楽でいいんだけどね。猫たちに比べて。

 今日は青魔石はヤマトがかじる前に取り上げたんだけど、「やーん、返してー」って顔してたから売らないで持ってきた。

 後でおやつにかじらせます。どんなおやつだよ!


 メイク直しが終わったら、ソロでアップになるシーンの撮影。これで撮影自体は終わりだ。ひとり当たり3秒くらいのシーンだけど、スローにする予定なので撮影はママのOKが出るまで続く。


 蓮くんは前にママに絶賛された「目を閉じたまま下から顔を上げて、目を開けて前を見据えて、軽く笑って手を差し出してくる」やつ。最初にやったときより完成度がアップしてるらしくてママが悶絶してた。


「蓮くんは、お手本があればそれをいくらでも吸収出来るのね。だからお手本になる物をたくさん見れば、引き出しが増えていくの。こういう子は化けるわよー。たくさん引き出しを作りなさい! そのためならいくらでも協力するわ!」

「はいっ! 頑張ります!」


 おやおや? 私抜きで師弟関係ができてるように見えるなあ。SE-REN(仮)の活動が終わっても、ママは蓮くんたちのサポートやりそうな感じ。


 蓮くんの撮影が終わって、私は汚れてないブーツに履き替えて腰に特製のベルトを巻き、そこに村雨丸を吊った。刀の反りは下向きになっていて、実際にこれからダンジョンに行くときはこうして装備する。


 黒背景になってる鏡の前に横向きで立って、私は右足を深く踏み込んで気合いを入れて太刀を抜いた。――って、ああっ! 滴が飛び散った!


「ねえ、今の撮れた!?」

「撮れてる、バッチリ! 普段の練習でできなかったのに滴が出たじゃない!」

「やったー!」


 思わず太刀を持ったままジャンプしてしまうよね! 嬉しすぎる!


「ゆ~かは魔力操作に成功してるのに、俺のSTRは9……」


 蓮くんは地下室の隅で膝を抱えてしまった、その隣であいちゃんが蓮くんの爪先を自分の足でうりうりしている。


「気にしない方がいいよ。ゆーちゃん、たまーにだけど『前世でどんな徳を積んだら?』ってことを引き起こすから。ゆーちゃんが応募したミュのチケット、最前列ドセンで取れてたことがあったし」


 あの時はママが狂喜乱舞してたなあ~。ママのチケット戦争に助っ人参加しただけだし。

 そのミュージカル、私は行ってないんですよね!

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