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Y quartet結成!

第77話 学校に行ったら決闘を申し込まれた

 それは火曜日の出来事だった。

 2時間目と3時間目の間にある業間休みの時に、中森くんがずしずしと私の席の横に来て、机にバーンと手をついてきたのだ。


「おい、柳川ー」

が高いなー」


 思わず椅子に座ったまま、真下からギロって睨み付けちゃったよね。

 175センチ超えの男子にそれをやられると相手の頭の位置が高いんだわ。


 中森くんは一瞬ビクッとして、机に手をついたまましゃがみ込んだ。それでちょうど私と目線が同じくらいになったんだけど……ポーズが、可愛すぎやしないかね。


「これでが高くなくなった?」

「うん。どうしたの?」


 ちゃんと確認してくる辺り、いい奴ではあるよ。


「女子の間で匿名で『守って貰いたい男子』を投票して貰ってランキングにしたら、柳川がぶっちぎりで1位だった」


 何やってんだろうな、うちのクラスの男子はさ! 暇なのか!? 走れよ!

 というか、私アンケート取られてないんですが!? 女子ですよ!?


「えっ!? 私女子なんだけど」

「そうなんだよ! これを放っておいたら男の股間に関わる!」

「股間に関わらせるな、バカ! けんだよ!」


 すかさず分け目チョップを中森くんのつむじに叩き込む。手加減はもちろんしてますけども!

 中森くんは打たれた頭を抱えたまま、「知ってました」みたいな顔で言い直した。


「あ、そう、こけん、こけんな」


 冒険者科は「なんで入試を突破出来た?」ってバカが時々いるんだ……。

 学校での勉強はなんとかクリアしたけど、小中学校の放課後は外で運動してばっかりで、本読んだりゲームしたりあんまりしたことないってタイプ。


 てか、そうじゃない! 私が言ってるのは「私が1位になってることに対する異議申し立て」じゃなくて、「女子扱いされておらず、集計対象から外された」ことだよ。


「私にも投票させてよ! ずるい!」


 こっちの異議申し立てですよ。私の清き一票を入れさせろと主張したら、フレンドリーバカ中森くんはあっさりと嬉しそうな顔に変わった。


「おー、誰に投票する?」

「彩花ちゃん!」

「長谷部だって男じゃねえだろ!」


 だって、彩花ちゃん強いんだもん。中学の時からたまに木刀+なんでもありで手合わせしてたけど、あっちに本気出されたら勝てない。


「えー、だってー。やっぱりそこは信頼関係とか相手の腕っ節とかいろいろさー」

「と言うわけで、俺と決闘だ!」


 どこら辺から「と言うわけで」に繋がったんでしょうか。中森くんの思考回路なぁぜなぁぜ?

 2位が中森くんだった、という可能性もあるけど、その線は薄いなあ。

 うちのクラスの脳筋筆頭だもんね。


「えー、ダル……てか、私一応このクラスでは実技成績トップのはずですがー、決闘で勝てると?」

「戦闘実技の時に本気出す奴はいないだろ。つまり、ガチ勝負だ!」

「せんせー、次の戦闘実技の時に模擬戦闘をしたいと中森くんが言ってるんですけどいいですかー」


 次の授業が始まるので先生が入ってきたから、話はそっちにぶん投げた。

 授業外で決闘とかしたら、後できっと怒られるもんね。


「おー、いいぞー。武器は何選んでもいいからな。柳川と中森の本気戦闘か……先生も見てみたい」


 うわっ、軽い答えが返ってきた! 先生も、「見てみたい」じゃないでしょー! そこは止めないといけないところじゃないの?


「中森、マジで柳川と決闘すんの!?」

「蛮勇ってこういうことを言うんだな……」


 ほら、男子の中からも「恐れを知らぬ奴め」みたいな目で見られてるじゃん……。


 結局、うちのクラスメイトって、私の動画見てる人多いんだよね。

 特に寧々ちゃんと一緒にダンジョン行って蓮くんを鍛えたときのなんかは、割と見られてるみたい。あの時はクラスの中で大々的に「手伝ってくれる人~」って募集掛けたし。


 それもあるし、いつも一緒に授業受けてるんだし、誰がどのくらい強いかって大体わかってる……と思ってたんだけどなー!



 結局5限の戦闘実技の時に、冒頭ちょびっと時間を貰うことになった。

 武器は当然刃を潰してあるし、防具も着ける。頭防具と胴だね。

 刃は潰してあるとはいえ武器はそれなりに重さがあるし、重さもない武器で練習しても本番で役に立たないから。


 戦闘実技の時間は、先生が3人付く。クラス担任と、実技指導の講師がふたり。先生不足って言われてるけど、その辺冒険者科は新設だけあって手厚い。


 中森くんが選んだ武器は両手持ちロングソード……ああ、もう、攻撃しか考えてないんだな。そのリーチの内側に入られたらどうなるかを想定してない。

 きっと今までそこに入れたモンスがいないからなんだろうけども。


 ロングソードはそりゃあ強いですよ。でも、振り上げてから切り下ろすまで素早くやるにはそれなりの筋力が必要。――つまり、まだ鍛え中の私たちが迂闊に使うと動作が遅くなる。


 私のセレクト、バックラーとナイフ。中森くんの攻撃を受けるつもりはないけど、万が一タイミングが狂って長剣の間合いに入っちゃった時のためね。

 STRで競り勝つのも多分可能なんだけど、高いAGIを活かしてちゃちゃっと終わらせよう。


 始め、って声で私は思いっきりダッシュした。体低くして下段蹴り、中森くんが完全に私の動きに追いつけずに体勢崩したところで、ナイフで首をかすめておしまい。

 実戦だったら、中森くんは私に首を?き切られてた。

 先生が笛を鳴らして終了の合図をすると、体育座りのギャラリーが湧く!


「きゃー、柚香かっこいいー!」

「中森、棒立ちだったじゃねえか!」

「柚香ちゃーん、守って~!」

「柚香様ー!」


 甲高い黄色い悲鳴と野太い茶色い悲鳴だ。なんで男子まで私に向かって守ってコールをするのか!

 そして、あまりにもあっけなく終わってしまったのでもう1回コールも起きてる。当の中森くんも手を叩きながら「もう1回! もう1回!」って叫んでるわ。


「せんせー……」


 めんどくさぁい、って思って先生に振ったら、輝くような笑顔で「じゃ、武器合わせてもう一度やってみろ」ですと!


 しょうがないからバックラー外して、私もロングソードを手に取る。

 ショートソードは割と使ってきたけど、ロングソードは自分ではあまり選ばないなあ。長さ的には村雨丸と同じくらいだけど、日本刀と西洋剣ではそもそも使い方が違うし、ママが大好きな某ミュージカルのせいで私も日本刀の動きの方が身についてる。


 さて、どうしよう。

 多分、さっき素早さ特化の戦いを見せて勝っちゃったから、別の勝ち方をしないと中森くんは納得しないだろうな。


 先生の合図で私たちはお互い接敵して、ロングソード同士をガン、と打ち合った。

 力負けは、しない。しないんだよ、これが!


 でかい中森くんと身長158センチの標準体型の私じゃ、どう見たって私の方が力はなさそうに見えるんだけど、そこはステータスの恩恵がね。


 私と中森くんは3合ほど切り結んだ。私が力勝負に合わせてきたから、向こうの顔は凄く動揺してる。

 そして中森くんが剣を振り上げたところで、私はそれは無視して胴に思い切り突きを入れた。振り上げて振り下ろすより、突く方が速いんだよ!


「うごっ!」


 剣を振り上げて重心が上がったところで私に突かれたので、中森くんは呻いてよろけた。それと同時に先生が笛を鳴らす。


「力勝負でも中森が勝てないのか……」

「恐るべし柳川」

「ゆーちゃあああああん!!!! かっこいいよー!!」

「柚香ちゃーん! 守ってぇぇぇ!」

「あっけねえなあ……」


 そりゃ、あっけないだろうよ……。

 それまで剣道やってたりした生徒は時々いるけど、剣道と戦闘実技は全然違うし、まして西洋剣なんていう一般の人は死ぬまで握ることはないだろうって武器を選らんじゃってんだもん。


「先生、模擬戦するなら長谷部さんとやりたいです」


 あっけなくない戦闘を見せてやんよ! 相手が乗るかどうか次第だけども。


「おっ、ご指名か。長谷部、どうする?」

「じゃー、やりまーす」


 だらーっとした動きで彩花ちゃんが立ち上がる。あくびしてるな、眠そう~。


 同じ中学から一緒に進学した友達のひとり、そして私の知る限りクラス最強格のはずなのに手抜きしまくって正当な評価を得ていない人。


 その名は長谷部彩花。通称スナフキン――。

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