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第86話 聖弥の武器 って、これはー!?

「ゆ~かバリア、やっぱり強化されてる」


 鎌倉の街を歩きながら蓮がそんなことを言った。

 なぁぜなぁぜ? 私の魔力修行は一向に進まず、MV撮った日に露が出たのが奇跡に思えるレベルだよ。



 今日は土曜日。蓮と聖弥くんと3人で、金沢さんに武器を作って貰うために鎌倉へやってきた。

 配信した日に聖弥くんが早速アポイタカラを持ち歩いてなかったので説教したんだけど、次の日からは紫色の風呂敷に包んで、ちゃんと内にも持ってくるようになったのでまあヨシとしよう。


 前回来たときにはビビりまくりの蓮に盾にされたけど、「ゆ~かバリア」の謎の強化によって怖い物はかなり遠ざかるようになったらしい。

 理由がわかりません。心当たりがあるとしたら、前回帰るときからだから、村雨丸を持ち歩いてるから、かなあ。アイテムバッグの中だから装備扱いになってないんだけど。


 前回の愚痴を言いながらも金沢さんの家に着くと、とてもにこやかな金沢さんがすぐに出迎えてくれた。


「やあやあ、今回もご依頼ありがとう。柚香ちゃんの配信のおかげで、問い合わせも増えたんだよ。まだ依頼自体は来てないんだけどね」

「由井聖弥です。今日はよろしくお願いします」


 礼儀正しく挨拶をする聖弥くん。

 この人は、何事もなければ腹黒モードは出ないんだよね


 スキップでもしそうな足取りの軽さで、前回と同じく工房に案内される。

 今日も聖弥くんは風呂敷包みを抱えていて、それだと誰が見ても「アポイタカラ抱えてます」とは見えないね!


「もしかして、その風呂敷に包んであるのはアポイタカラかな? テーブルに載せて」


 おっとぉー! 見抜く人がいた! でも金沢さんは仕方ないか。多分この人、伝説鉱石の波動とか感じちゃいそうだし。


「どんな武器になるのか楽しみですねー」

「柚香ちゃんは武器が好きだよね」

「好きは好きですけど……聖弥くんのステータス見たら、今日どんな武器ができるかで今後の運命が変わる状態なので」


 えっ、と驚く金沢さんに、前に送って貰ったスクショを見せる。

 目が点になる金沢さん。うん、驚くよね。


「勇者ステータスか……確かにこれは、どんな武器になるか……というか、どういう補正が付くかがこの先の分かれ目だね」


 工房の隣にある洗面所で手を洗って清め、金沢さんは風呂敷から出されたアポイタカラに手をかざす。

 そして、目を瞑って神経をアポイタカラに集中し始め――ん?


 なんか、すっごい眉間にしわ寄ってません?


「こ、これは……まあ、あるっちゃあるけど……」


 なんか悩んでる様子の金沢さんに、おののく私たち3人!


「武器に出来ないような物とかですか!? ゴルフクラブとか!」


 聖弥のお父さんゴルフ好きだし、と蓮がいらん情報で叫んだ。


「ゴルフクラブは武器になるよ。パターだと困っちゃうけども。一番酷かったのだと、クラフトしたら角材になったってケースがあるからね」

「鉱石をクラフトして角材!?」


 まさかの情報が金沢さんから飛び出して、私も思わずツッコむ。

 適正武器が角材って、どんな人なの!?


「いや、ゴルフクラブよりは角材の方が武器としては強いけども……。その人は角材を脇に抱えて敵に突っ込む戦い方で、『横須賀のじようつい』って二つ名がついたくらいだよ」

「横須賀の破城槌……うわ、強そう」

「ま、まさか僕も角材ですか?」


 不安そうに聖弥くんが尋ねる。いや、私角材もアリだなって思うようになった!

 打撃武器扱いだろうし、ゴーレム特攻とかついてそう!


「角材だったらいいな! 角材で戦う聖弥くん見てみたい!」

「ゆ~かちゃん!? ちょっと僕的には無しだよ、それ!」

「撮れ高はいいよな……」

「蓮も! 他人事だと思って言ってるだろう!」


 私たちがぎゃいぎゃい言い合っていると、角材をクラフトしたときのことを思い出したのか、金沢さんが笑い止まらなくなってた。


「いや、ね。今回はちゃんと剣だよ。西洋剣だね。

 問題は、盾が一緒に見えてることなんだよね。たまにいるんだ、盾が適正武器とセットで出てくる人。

 どうする? こういうこともあるから僕は盾クラフトもできるけど、別料金になっちゃうんだよ。大型武器だから200万円で、盾もこの形状だと200万円なんだけども」

「構いません。お願いします」


 私は即答した。そこは別にいいんだ。一番大事なのは安全であることだからね。

 私もバックラー愛用者だったけど、村雨丸にバックラーが合わないので持たないだけでさ。


 合計400万のクラフトにサクッとOKサインを出した私に、聖弥くんがちょっと顔を引きつらせている。


「なんか……ごめんね。こんなにお金掛けさせちゃって」

「んー、角材だったらもっと良かったんだけど。でも聖弥くんにだけお金掛けてるわけじゃなくて、金沢さんの技術に対しての敬意料みたいな意味合いが強いから気にしないで」

「おまえは……もう少し一般の金銭感覚を忘れない方がいいぞ」

「そう思うなら、これからダンジョンと配信でガッツリ稼がせてください!」


 私が言い返したら蓮と聖弥くんは揃って「ハイ……」とおとなしく頭を下げた。


 先に剣の方をクラフトすることになって、金沢さんは表情を改めるとパァン! と柏手を打った。

 クラフトを見るのが初めてな聖弥くんは、食い入るように金沢さんの一挙手一投足を見守っている。


 歌うような祝詞のあとに再び金沢さんが手をかざすと、鉱石が光り輝いて一振りの剣と残りの鉱石に分かれた。

 何回見ても凄いなあ……。


「なんか凄いのができた気がするよ。鑑定してみて」


 噴き出した汗を拭きながら、金沢さんが聖弥くんに促す。

 聖弥くんは緊張の面持ちでダンジョンアプリのカメラから、剣を鑑定した。――そして、固まった。


「どうした!?」

「何が出たの!?」


 この反応は普通じゃないよね!?

 私と蓮は聖弥くんのスマホを覗き込み、揃って絶句した。


 【エクスカリバー】アーサー王が湖の乙女・ヴィヴィアンより授けられた聖剣。この剣の鞘には魔法が掛けられており、身につけていると傷を受けても癒やす力がある。



 どえぇぇぇぇぇぇぇぇ!?

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