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第98話 へっぽこがひとり、へっぽこがふたり

 最大の敵である蓮を退けてからは、プチサラマンダー狩りは順調に進んだ。

 最初は1匹1匹斬ってたんだけど、聖弥くんが大振りでまとめて倒してるのを見たらそっちの方が効率よさそうで、途中から私も真似。

 相変わらずヤマトは倒しては魔石ボリボリしてるけど、拾える魔石は拾っておく。


「ふいー、こんなもんかな?」


 一ヶ所に集まってたせいで、殲滅にはそれほど時間が掛からなかった。

 まだリポップには間があるみたいで、一時的にこの層からはモンスが消えている。


『層のモンスを全滅させるとは、これはもはや狩り場荒しのたぐい』


 そんなコメントが付いて、うぐっと私は胸を押さえた。確かにやり過ぎたとは思ってたんだよね。


「す、すみません! 包囲されちゃったから抜け出すには倒さないといけなかったし」


『気にすんな! どうせすぐ湧く』

『高校生に向かって大人げないぞ』

『1時間もすればリポップしてるから平気だぞー』


「蓮、ゆ~かちゃん、今のうちに下に降りよう!」


 尻尾振りながら魔石ボリボリ中のヤマトを抱え上げ、大汗かいた聖弥くんが声を張る。

 確かに、ここで止まっててもしょうがない。


「聖弥くん、犬飼ってるの?」


 なんか手慣れた扱いにそう尋ねれば、「ううん」と予想とは逆の答えが返ってくる。


「うちは猫。どいて欲しいところにいつも座り込むから、こうやって持ち上げて移動してる」

「なるほどー!」


『猫のお約束!』

『どいて欲しいところに座るのが猫』

『猫の名前は?』


「猫の名前はレオンです。メインクーンのオスだから11キロくらいあって、それに比べたらヤマトは全然軽いよ」


 11キロの猫! それはもはや米袋よりでかいのでは!? アポイタカラの鉱石ともほとんど変わらないね!


「いいなー! 今度撫でさせて!」

「いいよー」

「聖弥のうちの猫、マジででかいよな……。立つと俺……俺様の腰より上に頭が来るし」


 ダンジョンなのにのんきな会話をしつつ、モンスがいなくなった4層を移動。私たちは5層に降りる階段で小休止をした。

 HPが一気に減った私はポーションを飲み、ヤマトはお水。蓮はヤマトにヒールを掛けてから、聖弥くんと一緒にスポドリを飲んでいる。


 初級最難関ダンジョンの意味が、なんとなくわかった。

 今までなかった魔法攻撃が飛んでくる上に、この暑さだ。他のダンジョンより遥かに体力と気力を消耗する。


 プチサラマンダー自体は、はっきり言って全然強くない。でも初級ダンジョンに潜るLV帯で、遠距離の魔法攻撃を打たれるのは凄くきつい。

 こういうのって、情報として知ってても、体感すると全然違うものなんだよねえ。


「トラウマの大涌谷ダンジョン4層を終えて、SE-RENの感想は?」


 ただ休憩してるのももったいないので、ふたりにインタビューしてみた。

 蓮は思いっきり眉間に皺を寄せ、聖弥くんは困ったような笑顔でカメラを見ている。


「前回は本当に死ぬかと思ったけど、大怪我を負ったりはしなかったんだよね。今回は装備の性能が凄くよくて、装備さえちゃんとしてればこんなものなのかって驚いたよ」

「ハイ、お手本のような感想をありがとうございますー。蓮は?」

「俺……俺様はゆ~かとヤマトに魔法を当てたのがトラウマになりそう」

「海より深く反省せよ! 食らったのが私たちじゃなかったら死んでた!」


『蓮に厳しいw』

『どんだけダメージ出てたんだ、あれ』

『武器防具の補正が付いてなかったら確実に死んでたぞ』

『経験的に初心者なのに、強大な力を得るとこういう弊害が起きるんだな』


 本当にそれだよー!

 私と聖弥くんは白兵戦してるから、力余りでもそれほど大胆なミスは起きない。

 でも蓮は遠距離かつ、事前練習しないで魔法打ったから大惨事。


「次からは1層で魔法の試し打ちしてから使うこと! 補正付けてるのと付けてないの両方で!」

「本当に……すみませんでした……」


 ペットボトルを1本空にして、蓮はため息をつきつつそれを潰した。本来は堅めなペットボトルは、簡単に「くしゃっ」て蓮の手の中で絞った雑巾みたいになった。


「あっ! 凄え簡単に潰れる!」

「STRに補正付いてるから! いい加減学習して!」


『へっぽこだなあ』

『蓮くん、その防具になるまでSTRにあんまり修正はいってなかったんだよねえ』


 コメント欄はツッコミやら擁護やらで忙しい。蓮はあわあわしてるけど、そういえば私と聖弥くんはこういうやらかしはしないな?


「そういえば、前にママが言ってたんだけど、ステータスが上がっても普通は『いつも生活してるときにはこのくらい』って無意識に調節が入って、大変なことにはならないって」

「うっ……」


 調節できない蓮がアイターって顔をしている。でも、これは慣れるしかないんだろうな。


「かといって、いつもその服を着てろって事はできないんだよねえ。合宿もあるし」


 夏休みに入ってすぐ、冒険者科は合宿がある。もちろんその時には私物の装備は持ち込み不可で、いつもの補正に慣れきってると――ああっ!


『合宿!?』

『冒険者科の合宿のこと?』

『詳しく!』


「ゆ~かちゃん……」

「すみません失言しました! 聞かなかったことにしてー!」


 私はカメラに向かってぶんぶんと腕を振ったけど、「聞いた」が弾幕で横切っていく!


『もう聞いた』

『聞かなかったことにしてやろうぜ……』


 SE-RENが転校したことはまだ公表してないんだよ!

 ママから聞いた話では私の学校はもう特定されてるみたいなんだけど、このふたりの場合学校の特定まではいってなかったみたいで。


 だから、迂闊に合宿の話なんか出しちゃいけなかったのにー! 私のバカー!


「はい、休憩終わり! さっさと10層まで行っちゃおう!」

「そ、そうだな!」


 焦って立ち上がる私と蓮に対して、聖弥くんは空になったペットボトルを持ったままカメラに向かって笑顔で右手を突き出した。

 そして、笑顔のままでペットボトルをキュッと握りつぶす。


「見て見てー、補正、凄いよね」


『……』

『……』

『背後がドス黒いんじゃあ……』

『これ以上つっこんではならぬのだ……世の中には知ってはいけない事もある』

『さっきは何も聞かなかった、いいな』


 視聴者さんの忖度よ……。

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