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第106話 ジョシトーーク。

 はー、夕飯美味しかったー。

 1泊3500円だし、美味しいとは聞いてたけどあんまり期待してなかったけど、見た感じ栄養もしっかりしてて「さすが冒険者しか利用しない場所」って思った。


 鶏胸肉のトマトソース煮込みがメインだったけど、パサつきがちな鶏胸肉がしっとりしてたし、なんかソースも味が複雑だったし、うまうまでした。

 ご飯は雑穀米が基本らしい。これももちもちしてて、香ばしくて美味しかった。

 明日からは3食食べられるんだよねー。楽しみだあー。


 夕飯の後は「適当に入れ」と言われてたのでお風呂。上級生を入れても女子は25人くらいしかいなくて、夕飯の前に入れた人たちもいたからそんなに混まなかった。

 湯船は10人は余裕で入れる大きさで、洗い場も10人分あった。余裕余裕。


 ちなみに男風呂は女風呂より大きいらしい。まあ、元々男女比が偏ってる界隈だし、それが一番効率良いだろうね。

 あー……温泉ではないけど、散々歩いた後に足を伸ばせてお湯に浸かれるのは最高だね。


「男風呂とかのぞけないのかな」


 湯船から見える景色は山だけなんだけど、そのガラス窓に手をついてそんなアホなことを言うのは彩花ちゃんだ。


「女風呂のぞかれないのかなって心配するならともかく、それはどうなのよ」

「何を見ようとしてるんだよ、彩花ちゃんは……」

「気になるー。一部の男子がどれだけ筋肉付いてるかが。前田とか中森とか腹筋割れてそう。中森なんか脳みそまで筋肉だし」


 そっちか……。戦闘脳過ぎるわ。乙女力が0なんだよなあ。


「中森くんだったら、腹筋見せてって言ったら見せてくれそう」

「むしろ喜んで見せてくれそう」

「じゃあ、見せてくれない奴は誰かなあ」

「間違いなく蓮は見せてくれないと思う」

「あー」

「あー」

「お察し……」


 夏だからあんまり湯船に浸かる必要もないかなと思ってたんだけど、良い具合のぬる湯で、疲れがじんわり抜けていく感じが気持ちいい。

 私たちは馬鹿話をしながら、空いているのをいいことにだらだらとお風呂に入って、「やっぱ暑い」と言いながらお風呂を出た。


 もう後は、枕投げも禁止されてるから寝るだけだ。定員8人の部屋で、うちのクラスは10人しか女子がいないから2部屋に分かれてて、おかげで凄くゆったりしてる。

 中学の修学旅行とか、ギチギチに詰められすぎて、押し入れ開けて布団半分突っ込んで寝たり、廊下まで布団を敷いたりして大変だったのになあ。


 布団を敷いてもまだ8時半だよ。まだ寝るには早いから、私たちは布団に寝っ転がって女子トークを始めた。

 かれんちゃんとあいちゃんと彩花ちゃんは中学でも一緒だったけど、寧々ちゃんもいるからちょっと新鮮だね。


「平原さん、プレフィの新作見た?」

「えっ? なんか変わったの出た? そういう情報聞いてないんだけど」

「伯父さん情報で、面白そうなのが出るって聞いたからチェックしてたんだけどね」


 寧々ちゃんとあいちゃんは防具トークか。プレフィってのは、冒険者の中でも若い女性をターゲットにしたブランドだ。そんなにお値段高くなく、補正も少し入ってて、丈夫で機能的でデザインもフェミニンという他にない特徴がある。


「あー、ほんとだ、出てるー! 私の好きな感じの奴だー」

「でしょでしょ?」


 盛り上がるクラフトふたり。戦闘専攻ふたりは横からあいちゃんのスマホを覗いて、すぐに興味なさそうな顔に戻った。


「ダンジョンにおしゃれは要らないと思っちゃうんだよね。初心者の服がコスパ良すぎて」

「んー、ボクはもう少し体にフィットした奴が欲しいなあ。補正もできれば付けたいけど、お高いよねー」

「柚香は超高性能防具があっていいなあー。刃物が通らないって凄いよね」

「全部ヤマトのおかげですわー」


 ヤマトが隠し部屋を見つけたから、アポイタカラをゲットできたわけだしね。


「そうだ、柚香ちゃん、ステータス見せて」


 急に寧々ちゃんが私の方を向いてそんなことを言ったので、スマホのダンジョンアプリでステータスの画面を出す。それを見た寧々ちゃんはうーんと唸った。


「DEX高いね。私今DEXが伸び悩んでて、お父さんに相談したら『刀で戦え』って言われたんだけどね。今までショートソードを使ってきてたから戦い方も変わっちゃうし、どうしようって思って。

 柚香ちゃんも刀でしょう、やっぱり影響強い?」

「あー、そうだね。うちのパパが言ってたけど、寧々ちゃんのお父さんは日本刀で戦っててDEXが上がりやすくて、戦闘の時にクリティカル出やすくて凄かったって。私も確かにDEX高いけど、ヤマトをテイムした時ジョブボーナスが成長補正に組み込まれて、それで上がりやすくなったのもあると思うよ」

「えっ!?」


 くわっと目を見開いて私を見つめるクラフトふたり。そしてあいちゃんがいきなり人の首を絞めてくる!


「そういう事は早く言えっての! 私もうLV9になっちゃったじゃん!」

「ぎ……ギブ……。あいちゃんがLV9になったのって、確かMV撮ったときだよね? その時にはまだ知らなかったんだよー。大山阿夫利ダンジョンに行った時に、毛利さんってベテラン冒険者の人から話聞いてわかったの」

「そっか……ジョブボーナスもLV9までなら補正に入るんだ……。じゃあ、私もテイマーになればもっとDEXが上がるようになるんだ」


 おおっ!? 寧々ちゃんがテイマーになる!?

 ジョブは条件さえ満たせばいくらでも取れるし、確かにそれはありだよね。


「いいじゃん! 従魔ゲットしたらいい特訓場所教えるよ! ヤマトもそこですっごい強くなったよ!」

「あのヤマトが更に強くなったんだ。初級ダンジョンでテイム出来るモンスでも、鍛えればしばらくは一緒にダンジョン行けるよね。……うん、うん、考えれば考えるほど、それが最適解な気がしてきた」


 確かにクラフトの人にとっては、テイマーを取るのは物凄く良いかもしれない。戦力不足も補えて、DEXが上がるってメリットしかない。

 逆に、テイマーがクラフトを取るのは大変だ。スキルクラフトは簡単に取れるけど、ジョブクラフトを取るには熟練度が必要だから。


 ガチ戦闘系だと、弱いモンスを連れ歩くのは足枷になるしね。従魔鍛える暇があったら自分のLV上げた方がいい。


「もうLV10超えてるボクには関係ない話でした」

「同じく。DEX+5は大きい気がするけど、そのために従魔養えるかと言われるとねえ」


 ゴロゴロと敷き詰めた布団の上を転がりながら、彩花ちゃんとかれんちゃんは「私には関係ない話です」と傍観の構え。


「よし、私もテイマーになる! 柚香ちゃん、明日いろいろ教えてね」

「やったー! テイマー仲間が増えるー! うん、頑張ろうね!」


 寧々ちゃんが気合いを入れて拳を握り、意気込みを宣言した。

 私は喜んだけど、あいちゃんは「LVぅ……」と言いながらぺしゃんと沈む。


 寧々ちゃん、まだLVが5なんだよね。明日と明後日でこれを10まで引き上げるのが目標なんだけど、そこにもうひとつ目標ができた。


 わあ、明日が楽しみだ!


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