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第123話 お姉ちゃんが突然生えた

 3日目のお昼ご飯はカレーだった。ごくごくオーソドックスな、普通に美味しいカレー。

 決して外れじゃないんだけど、昨日の牛丼が美味しすぎてインパクトが凄かったから、少し残念な感じ。


「あっ、五十嵐先輩! 昨日はありがとうございました!」


 今日の昼の皿洗い当番は3年生らしくて、2班10人が厨房で食べ終わったお皿を受け取ってドンドン洗ってた。

 なんかこれも経験の差なのか、1年生より手際がいいね。

 その中に五十嵐先輩を見つけて、思わず私は声を上げる。


「ゆ~かちゃん、昨日はお疲れさまー」


 ジャージの袖を捲ってシンクに手を突っ込みながら、五十嵐先輩はニパッと笑った。


「今度また毒のシート加工をお願いしたいです。社会人のクラフト職人さんと同じ金額で! LIME交換しませんか?」

「マジ? やったー! いいよいいよー。皿洗い終わるまで待っててくれる?」

「はい、じゃあ、食堂の入り口で待ってますね」


 五十嵐先輩が快諾してくれたので、食堂の入り口で待機。その間に西山先輩と原田先輩が通ったから、そっちともLIMEで連絡先を交換した。


「きゃっ!」

「おっとぉ!」


 歩きスマホしてた寧々ちゃんが柱にぶつかったから、慌てて駆け寄ってよろけたところを支える。珍しいな、寧々ちゃんがこんなことしてるの。


「大丈夫?」

「う、うん。ちょっとメッセージに気を取られちゃって、全然周り見えてなかった」


 ぶつけたおでこをさすりつつ、寧々ちゃんはちょっと照れ笑いをした。


「寧々ちゃん、スマホしながら歩いたりしないのに。珍しいね」

「そうなの! あのね、ちょうどいいから柚香ちゃんも聞いて」


 ぐいっと凄い迫力で寧々ちゃんが私の肩を掴んでくる。

 本当に珍しいな!? こんな押せ押せの寧々ちゃんは!


「柚香ちゃんたちの防具を作ったときに、アポイタカラで布を作ったでしょ? あれがまだ残ってるんだけどね」

「そういえば……10キロの原石置いてったもんね。どのくらい余ってるの?」

「後1着作ってちょっと余るくらいかな。そのことも相談なんだけど、もしかすると従魔用の装備が作れるかもしれないの」

「詳しく!」


 今度は私が寧々ちゃんの肩を掴む番だった。



 寧々ちゃんがダンジョンを出てから、昼食の間にメッセージをやりとりしてたのは伯父さんだそうだ。例の法月紡績の社長さんだね。


「柚香ちゃんはよく知ってると思うけど、伝説鉱石紡績で作った布って凄く強度があるじゃない?」

「うん、あれ凄いよね。包丁が刺さらないもん。布とは何だろうって感じ」

「前に柚香ちゃんからヤマトが普通のリードだとダンジョンでは壊しちゃうって聞いてたから、アポイタカラの布で作ったらどうかなって考えてたんだ」


 そうか! その強度だったら確かにヤマトも引きちぎれないかも!

 寧々ちゃんは「そこは試してみないといけないんだけど」と続け、衝撃の発言をした。


「昨日と今日私もマユちゃんにバンダナ付けてたでしょ? マユちゃん用にハーネス作らないとって思ったときに、もしかしてあの布でテータス補正の効果がある物が作れるんじゃないかって気づいて」

「そうかー!? てか、今までやろうとした人いなかったのかな!?」


 例えば犬のTシャツみたいに、体の動きを阻害しない形でいろんな従魔の装備品を作る事ってできそうなのに! 布なんだし!


「伝説鉱石製の布は、すっごい高いんだよ」


 なんか菩薩のような笑みを浮かべた寧々ちゃんに、肩をぽんぽん叩かれました。

 そうでしたね……。


 つまり、寧々ちゃんは伯父さんにその可能性について相談し、布の所有者である私に許可を取ることを勧められたそうな。

 作ってみないとなんとも言えないし、総アポイタカラ製でも使用する布が少ないから、補正自体フルで付くとは思えないって。


 確かに、ヤマトのTシャツを作って貰っても、私たちに使ってる布の1/10も掛からなさそうだもんね。


「じゃあさ、ヤマトの装備作ってみてくれない? お礼は、マユちゃんのハーネスを余り布で作るって事で」

「やったー! ありがとう、柚香ちゃん!」

「なになに、面白そうな話してる」


 寧々ちゃんが盛大にバンザイをしたところに、ちょうど五十嵐先輩がやってきた。

 そこでお互い自己紹介タイムになったけど、五十嵐先輩は私のダンジョン配信はほとんど見てるらしくて寧々ちゃんのことも知ってた。

 寧々ちゃんの方は、昨日の毒シートをクラフトしてるところを見てたから、口を押さえてふるふるしてる。


「昨日のクラフト、かっこよかったです!」

「あー、寧々ちゃんずるい! 私が先に言いたかったのに-」

「いやーん、照れるなー。でもさ、あそこですぐ『行けます』って言ったゆ~かちゃんもかっこよかったよ。中級のレア湧きじゃ、3年生でも危ないからね」

「柳川柚香です。ダンジョン以外では柚香って呼んでください!」

「えー、じゃあ私のことはお姉ちゃんと呼んでー。なんちゃってー」

「呼んじゃいますよー? お姉ちゃん!」

「きゃー!」

「きゃー!」


 私と五十嵐先輩がふたりして照れ照れしてるのを見て、一歩引いた寧々ちゃんがぼそりと呟いた。


「違和感ない……なんか似てるし姉妹っぽい」


 それなんだよね!

 だから私もお姉ちゃんなんてノリノリで言ってみたんだけど!

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