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第125話 ただいまー

 帰りのバスでの隣の席を彩花ちゃんが頑として譲らなかったので、寧々ちゃんや五十嵐先輩とはLIMEで相談しながらの移動である。

 なんだかんだで、やっぱり帰りのバスもほとんどみんなが寝ちゃってるね。


 気づいたら、スマホ片手に私も寝落ちしていた……。起きたら学校だったよ。

 まあ、いいか。ヤマトの装備に関しては、サポーター用ジャージを作った後の余りの量をチェックの上、寧々ちゃんにお任せすることにしたしね。


 ステータスが伸び悩んでた寧々ちゃんだけど、クラフトスキルについては順調に伸びている。

 こっちは経験値累積で伸びるし当然とも言えるけど、防具クラフトの初期レシピである「布の服」が作れるようになっているんだって。


 うん、布の服……。すっごい初期装備感。

 でも実際は伝説金属紡績で作った布も、このレシピで使える。

 ただし、定型のTシャツかチュニックしか作れないから、私たちの装備みたいなデザイン性のある物は作れないんだって。

 ヤマトの装備は私としてはTシャツでいいから、寧々ちゃんに作って貰うことにした。その代わり、マユちゃんのハーネスは、フリークラフトじゃないと作れないからお父さんに頼むんだって。なんだその逆転現象は。


 ジャージのデザインも寧々ちゃんと五十嵐先輩にお任せ。あいちゃんに頼むと大変な物を作ってくるからね。

 ふたりは、SE-RENのマネージャーでもあるうちのママとも相談しながら、デザインを決めると言っていた。



「ヤマトー! ただいまー!」

「ヒャンヒャン!!」


 玄関を開けて大きな声で帰宅を告げると、ヤマトがすっ飛んで来た。その後ろで猫3姉弟が階段から私の様子を伺ってる。

 びょんびょんと飛び跳ねてじゃれついてくるヤマトを抱き留めつつ、ベロンベロンに顔を舐め回されつつ、思いっきりモフる!

 うわー、2日ぶりのヤマトだー! 会いたかったよー! うーん、このちょっとゴワっとした手触りが犬ゥーって感じ。マユちゃんとはまた違う!


「お帰りなさい。あんたねー、『ただいま。ヤマトー』じゃなくて、『ヤマト、ただいまー』なのね」


 玄関に顔を出したママに軽く呆れられました。てへっ。


「だって、ヤマトがうちに来てから離れたの初めてだったんだもん」

「そうよねー。寂しそうにしてたわよ」

「ホント!?」

「最初の日だけね」


 ぐ、ぐぬう……。

 悔しいけど仕方ないかあ。ヤマトは元々フレンドリーな性格だし、ママには初日から服従してたしね。


「ヤーマト、パパとママにたくさん遊んでもらったかい? お散歩は?」


 にっこり笑顔のヤマトに癒やされながら、まあこのご機嫌な様子では不満要素はなさそうかな、と思う。

 私とは朝晩5キロ以上走ってたから、パパがそこまでの散歩をしてくれるかは分からなかったけど、パパも元冒険者だし。


 と、思ってたら。


「お、おかえり、ユズ」


 リビングから聞こえた力ないパパの声。何事かと行ってみたら、パパがリビングの床で何故かうつ伏せで伸びていた。


「パパ、どうしたの? 大丈夫!?」

「死んだ……」


 それだけ呟いて、ガクリとパパの頭が落ちる。


「パパァー!?」


 慌てて駆け寄ってパパを揺すると、ぐええええとカエルが潰されたような声でパパが呻く。


「ただの筋肉痛よ。触らないであげて」

「筋肉痛? パパが?」

「一昨日の夜のヤマトの散歩、パパが連れて行ったからヤマトがはしゃいだらしくて。3時間くらい帰ってこなかったのよね」


 おっふ……。飼い犬モードとはいえ、3時間ヤマトに引きずり回されるのは結構きついだろうなあ。私にも似たような経験があるから分かるけど。


「あれ? でもパパって元冒険者なのに?」

「澄んだ眼でとどめを刺すのはやめるんだ、ユズ。パパは元冒険者であって、現役じゃないんだよ……」

「ステータスが高くても、普段運動してないと鈍るのねえ」


 ということは、昨日の朝からはママが散歩に連れてってたのか。

 ママは平気そうだなあ。普段から歌って踊ってで消費カロリーが凄い人だからそんなもんかも。


「冒険者やってたとはいえブランクは怖いなあ。ユズはいつもどれだけ走ってるんだ?」

「5キロくらいだよ?」

「ママも昨日多分そのくらい走ったわ。30分くらいで帰ってきたわよ」

「妻も娘も化け物だった……」


 不本意な言われようだけど、パパの悔しさも混じってるのかな。

 これ以上突っ込むのはやめておこう。――と思ってたら。


「ねえ、パパ。ユズにあれのこと話さなきゃいけないでしょ?」


 床に倒れているパパのお腹の辺りを、ママがスリッパの爪先でちょいちょいと突く。

パパは地獄の底からのような呻き声を上げながら起き上がると、ソファに座ってテーブルの上に置いてあった何かのカタログを私に差し出してきた。


「そうそう、前にパパがキャンピングカー欲しいって言ってたの覚えてるか? 昨日決めて契約してきた」

「あー、言ってた言ってた。300万くらいするんだっけ」


 車には興味は無いけど、キャンピングカーってちょっとロマンがあるよね。

 カタログに写っているのは、見た目からしてわかりやすい「キャンピングカー」だった。へー、エアコンもシンク付いてるし、二段ベッドがあるのかー。


「凄いねー。これって何人乗り?」


 カタログをめくりながら私が尋ねると、パパが嬉しそうに頷く。


「乗るだけなら7人、寝られるのは4人だな。これがあればヤマトも一緒にキャンプに連れて行って快適に過ごしたり、災害時にプライベートスペースを確保しつつ足を伸ばして寝たりできるぞ」


 なるほど災害時。神奈川は地震が多いし、猫たちも連れて避難を考えると、キャンピングカーって確かによさそうだね。


「へー。で、おいくら万円だったの?」

「…………」


 なんで、そこで黙りますかね、パパ!


「はっきり言わなきゃダメよ! ユズのお金なんだし!」

「いやー、キャブコンっていってな、トラックの荷台部分に居住スペースを載せたような形なんだよ。高さがあるから快適だぞー」

「快適は分かったよ。おいくら万円?」

「諸経費込みでだいたい1千万よ!」

「3倍以上じゃーん!?」


 パパがなかなか口を割らないので、ママが暴露した値段に思わず声がひっくり返ったね!

 300万ってなんだったの!? あ、中古と新車の違いとかかな!?


「しかも、納期1年も掛かるのよ!」

「えっ!? 今年の夏どころか、下手すると来年の夏休みにも間に合わないの!?」

「それだけキャンピングカーは人気なんだよ。いやー、買えて良かったなー」

「ママ、止めなかったの!?」

「私にも事後報告だったんだもん!」


 パパー!! 何やってんのー!


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