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第130話 久々の気がする配信は爆弾がいっぱいだ

 スマホを部屋のテーブルにセットして、と。画角はOKかな。

 ヤマトもスタンバイOK。なんならサツキとメイもベッドの上にいる。

 私はライブ配信をONにしてからメイを膝の上に抱き上げた。メイは「なーに?」って顔で私じゃなくてカメラを見てる。

 そういう子なんだよね! 可愛いんだけどね! 


「こんばんワンコー! ゆ~かの雑談配信はっじまっるよー!」


 膝の上に抱っこしたメイの手をフリフリすると、こんばんワンコーという定番の挨拶の合間に「ねこおおおお」という悲鳴がたくさん混じった。


 ヤマトは「えー、抱っこー、抱っこー」と私の膝に手を掛けたけど、メイにペシッと叩かれている。

 うむ……ここでサツキだったら一緒に膝に載せてくれるんだけど、メイはそういう子じゃないんだよね。


『ヤマト叩かれてるぞw』

『メイさん厳しい』

『上下関係を叩き込むネッコw』

『待て、猫の見分けが付かんのだが』

『奥にサツキさん寝てる』

『ヤマト吸わせてぇぇぇ! 半月振りだよぉぉぉ』

『それを言うなら私もゆ~かちゃんを吸いたいよぉぉぉ』


 ゆ~かチャンネルの常連さんたちはとうとう猫まで見分けるようになってるね!

 ……若干一名、ヤバい発言してる人もいるけども。


「今日は、いろいろ発表がありまーす。まず、SE-RENの武器防具について、権利関係をはっきりとさせました」


 ぴらり、とできあがったばかりの書類をスマホに向かって見せる。

 これは前に聖弥くんのお父さんが作ってくれた物を土台にして、3組の親と私との間で細かいところを調節して決定した物ね。


「簡単に言うとー、今蓮と聖弥くんが使ってる武器防具は、所有権が私にあって、彼らに貸し出してるという形になりました。貸出期限は一応高校卒業まで。つまり彼らは、卒業までに芸能活動の方で何か成果を出さないとまずいわけですね!」


『なるほど』

『わかりやすい圧迫だな』

『ただで数億の物をあげるわけにいかないもんね』


「そうなんですよ。それに、使わなくなったらなったで持て余しちゃうでしょ? だから、要らなくなったら私に戻して貰うことにしました」


 コメントに同意の嵐。数億円するアイテム欲しいよーって人もいるんだけど、大体の人は、それを身近に置いておく怖さを感じ取ってるみたい。


「それと、だいぶ遅くなっちゃったんだけど、お金を使うこともある程度落ち着いたということで、人生が狂う前に募金します! 私未だに預金通帳の桁を数えられないの」


 これ今日の配信の一番の目的かな。アポイタカラを売却してとんでもない収入を得てしまったので、その使い道について私なりにずっと考えてたんだよね。


「調べられる限りのNPOの動物保護団体に100万ずつ、個人でやってる犬猫シェルターにはバスタオル30枚ずつとフードたくさん現物で。それと、全国の動物園と水族館に1000万円ずつ。

 一時的な応援では意味がないので、2年に1度ずつしていきますし、シェルターからのヘルプが来たら精査の上で現物支給は追加で行います。フォームはパパが作ってくれてるし、活動実績とかはいろんな人の手を借りて調べる予定なので、虚偽申告とかやめてね」


『その姿勢は凄い』

『現物支給助かるんだよねー』

『動物好きここに極まれりだな』

『虚偽申告してバスタオルもらってどうしろとw』


「あとねー、アポイタカラの余ってる奴は、100gずつのインゴットにして貰って、大学とかの伝説鉱物を研究してる各機関に寄付します。売却しないという条件付きで」


『その条件を付けないと売却するところが出るよな……』

『オリハルコンが半導体に使えたみたいに、研究したらアポイタカラの特殊な使い道が分かるかもしれんなあ』

『技術屋だったらきっとワクテカしてた』


「重大な報告はこのくらい……と言いたいところなんだけど、パパがひとつやらかしてくれまして」


 そう、キャンピングカーに続き、私が道場に通ったりしてバタバタしてる間にとんでもないことをやってくれたのだ。


『溜息付いてるゆ~かちゃんはレアだね』

『ゆ~かちゃんのパパって常識人のイメージがあるけど』

『あんまり出てこないからでは』

『比較対象がサンバ仮面だからだろ↑』


「それなーーーーーー。実際にはママの方が常識的だよー。あ、私最近剣術道場に通い始めたんだけど、木刀がちょっと独特でね。ママはそれを振りながらニマニマしてる。ママはそれで済んでる。……で、パパなんだけど、中古でヘリ買いました。もちろん私のお金で」


 そう、やってくれたよ。キャンピングカーのことがあったから、当分大きい買い物は無いだろうと思ってたら、中古だけどヘリを買いおった! もちろん私の名義で!

 確かに、パパはパイロット養成所に通うし、将来的に自前のヘリで遊覧サービスみたいな事もできるかもしれないけどさ……。


 悔しいのは、「2時間で越前ガニ食べに行けるんだぞ」って言われて、「それいいかも」と思っちゃったことなんだよね!!!!

 一番の建前は、ちょっと遠くのダンジョンに簡単に行けることなんだけど。


『ヘリ……』

『やりよったなあw』

『ゆ~かのパパってロマン全振りなの?』

『武器はパイルバンカーとかなの?』


「現役時代の武器は知らないけど、刀じゃないことは確かなんだよねー。しかもねえ、夏合宿から帰ってきたらキャンピングカーも契約してて、そっちは納期1年らしいですよ。こっちのヘリは納期2ヶ月なんだって。中古で現物あったからそれなりに早かったみたい」


『夏合宿どうだった?』

『肝試しした?』


「夏合宿ねえ、牛丼がすっごい美味しかった! あと、肝試しはしたかったけどしませんでした!」


 あー、なんか、こういうやりとりいいねえ。雑談って感じ。

 普段の配信の時にはあんまりできないおしゃべりを、視聴者さんとするのは楽しいね。


「蓮がかなりの怖がりだから、肝試しやったら楽しそうだなと思ったんだけど、ホラー展開にもならなかった」


『むしろホラー展開になる夏合宿ってなんだよ』

『それなw』

『待って? じゃあ合宿って蓮くんも一緒だったの?』


「あ」


 ああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!

 やっちゃったー!

 ぽろっとこぼしちゃったー!!


『すっごい動揺してる!』

『これは備後か』

『ビンゴだな』


「あ、あううう」


 ヤマトを抱き上げて、白くてモフモフのお腹に顔を埋める。

 スーハーと何回か深呼吸して、私は覚悟を決めた。

 覚悟――そう、聖弥くんに怒られる覚悟を。


「あの、えーとね……SE-RENのふたりなんだけど、うちの冒険者科に転入してきました。高校3年間でステータスを上げて、お金も稼いで、その後芸能活動に打ち込むという予定。うまく行けばいいんだけどね」


『学校に押しかけられたりしないといいな』


 それが一番怖いんだよね、私も……。だからこれは秘密にしておくつもりだったんだけど。


『大丈夫だよ。SE-RENにそんなコアなファンはいないから』


 ……安心するような、苦笑しちゃうようなコメントが流れていく。

 まあね、確かにSE-RENチャンネルも登録人数の伸びはそこそこでしかなくて、思ったより勢い無いんだよね。


 まあ、最近全然ダン配も企画物もやってないってせいもあるんだけど。


「そうそう、夏休みの間に、その肝試しを兼ねてダン配する予定でーす。どうせなら、撮れ高高い方がいいもんね!」


『見えるぞ、絶叫する安永蓮が』

『見えるね、駆けずり回るヤマトが』


「後はねー、夏休みの後半は忙しいらしいって学校の先輩に言われててー。……うん、なんだかんだ忙しいです。明日は寧々ちゃんと遊びに行くんだけど、その後は合宿の時のパーティーで、ちょっと足りなかったLV上げをどっかのダンジョンでする予定もあったり。意外に遊んでる暇が無いです! 朝のランニングの時にヤマトと公園でフライングディスクするくらい」


 そう、本当に忙しいのだ。

 今言ったけど、明日は寧々ちゃんと遊ぶ約束と言う名の大山登山。もちろん、マユちゃんのステータス上げ。

 私はアグさんに会えるから楽しみだけどね。


『次のダン配いつ頃?』

『それよw いつも直前ゲリラだからなあ』


「あー、すみません。まだ蓮と聖弥くんに確認取ってないから、早いうちに決めてX‘sに告知します!」


 雑談は和やかに賑やかに進んで終わったように見えた。

 何気ない言葉のやりとりの中に落とし穴があったことに、その時の私は気がつかなかった。


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