翌日、地震発生予定時刻は午前10時だった。避難警告のサイレンが鳴り響く。
「みんな、準備は大丈夫? そろそろ来るよ!」
二階の博士の部屋に集まる。
家財道具はすべて低いところに置き、電気も消していた。
――ぐらぐら……ぐらぐら……
「来た」
雅也がつぶやく。
――ぐらぐらぐらぐらっ!
大きな揺れが来た。みんな窓から離れてしゃがみ込む。
「こりゃでかいな!」
「ガラスに気をつけろ!」
良助と玲が叫ぶなか、外から何かが倒れる音、ガラスが割れる音が聞こえる。
大きな揺れが数十秒間続いたように感じた。
やがて、待ちに待った静寂が訪れた。
「おさまった?」
「そのようだ」
玲の返事に真奈美の口から安堵の息がもれた。
そのまま窓際に立ち、外を眺める。
そこには果たして、昨日モニター越しに見た光景が広がっていた。
「見事なもんだな、これだけ当たるとは」
玲がつぶやく。みんな、自分たちの周りに博士が立っている気がした。
「あ、わたし、自分の部屋を見てこなきゃ!」
「お、気をつけろよ!」
良助から声をかけられながらも霞はこっそりメディアカードをポケットにしまい込み、そそくさと抜け出した。
◆◇◆
自分のアパートの前に来ると、建物は完全につぶれ、原形を留めていなかった。
(あちゃー、こりゃダメだわ。昨日荷物をまなみんの家に避難させといてよかったよ)
そう思ったとき、端末が鳴った。京子からだ。
『霞? 無事?』
「こっちは大丈夫だけど、そっちはどう?」
『忙しくて猫の手も借りたいくらいよ。でも気にしないで。峠は越えたみたい。悪意センサーも壊れてないし。次は余震対策ね。幸いなことにうちのメンバーは負傷者も出ていないし、大学病院に行く者はいないわ』
「そっか、良かった。あと、今このタイミングで通行止めの地域ってある?」
『いくつかあるけど、大勢に影響はないみたい。タクシーはつかまらないと思うけどね』
「わかった。お父さんによろしく」
『余震に気をつけるのよ!』
連絡を切ると、霞は白衣のまま走り出した。
◆◇◆
余震の中、大学が見えてくると、霞は走るペースを落とす。
(ん? 何かがおかしい!)
直感が走った。しばらく歩いて小高い丘を越え、急に見晴らしが良くなったそのとき、霞は違和感の理由に気がついた。
(どういうこと? 大学の構内はまったく荒れてない。外の風景とはえらい違いだわ!)
地割れ一つ起きていないキャンパスに驚きながらも、霞はそのまま構内に入って行った。
◆◇◆
「いらっしゃい、来ると思ってたわ」
研究室のドアを開けると、円卓の席に座る翔子が不敵な笑みで出迎えた。
霞が向かいの席に座ると、湯気の出ているコーヒーカップをすすめられる。
「わたしが来ることを予知してたって言いたいわけ?」
「まあね」
微笑を浮かべて自分のコーヒーを飲む翔子に合わせるように霞も一口いただく。それからカップをテーブルに置くと、言った。
「やっぱり避難しなかったの?」
「だってここが一番安全だもの」
「なんで?」
「私がここに来たってことは、そういうことなの。外からミサイル撃ち込まれても傷一つつかないわよ」
「マジで? (そういえば、まなみんの家も)」
「それに――」
「それに?」
「そもそも私、ここから出られないのよ! 本当につまんない! いい男の研究員いるかと思ったら全然いないし。あなた誰か連れてきてよ!」
「えっと、それより教えてほしいことがあるんだけどさ」
「なあに?」
「これを見て」
霞は自分の端末にメディアカードを接続すると、博士の予知動画を開いた。