■その286 好き+5(後)■
自由登校になってから、皆でお弁当を食べる回数も減っちゃいました。けれど、4時間目に体育がある木曜日は、お腹が空いて帰れないからって、木曜日だけは皆でお弁当を食べます。
体育の後のお弁当は、足りないぐらいです。佐伯君と近藤先輩と大森さんは、購買部で蒸しパンを買ってきて、お弁当の後に食べています。
「えー5キロも太ったの?!」
教室に、主達以外の生徒が居ないと言っても、声の大きさは気になります、松橋さんが。
「お、大森さん、デリケートな事なんだから…」
「他に人居ないから、大丈夫よ」
「でも、苦しくないの。制服のウエストも、ブラのサイズも」
当の本人の主も、気にしていないみたいです。佐伯君や、近藤先輩も居るんですけれど… もしかして、男性って思っていなかったりしますか? 佐伯君は気にしてないみたいですけれど、近藤先輩は気まずそうですよ。
「5キロ程の増減なら、それなりにサイズにも影響出るはずね」
うんうん。と、田名さんの言葉に頷きながら、主はポソっと
「胸のサイズが増えるならいいのに…」
隣の
「… 気のせいとか?」
白いセラー服に覆われた胸元を彩る朱色のスカーフは、いつもと変わらない高さです。
「基本の食事は変えていないなら、やっぱり、消費カロリーが変わったからかしら? けれど、自由登校でも白川さんは毎日登校して、授業を受けて絵を描いて… 家事も相変わらずやっているのでしょう? 貴女の絵を描くときの集中力は、そうとうカロリーを消費しているはずよ」
田中さんの分析に、桃華ちゃんはウンウンと頷きます。
「家事は、私の分もやってくれているから、その点に関しては消費カロリーはプラスだわ」
桃華ちゃんの大学入試は、もう少しで本番ですもんね。主は桃華ちゃんの分の家事もやって、精一杯応援しているんです。
「か、家事も、しっかりやると、か体中の筋肉、使いますよね」
そうなんです。特に主は体が小さいから、高い所は背伸びをたくさんするし、床の雑巾がけだって腕を大きく動かさないと、なかなか終わらないんですから。
「筋肉が付いたんじゃないのか? 筋肉は贅肉より重いぞ」
と、近藤先輩は言おうとして、ご飯と一緒に飲み込みました。こういう会話に、口を出してはいけないと、本能が教えてくれたみたいですね。
「実は… 摂取カロリー、増えちゃってるの」
主の告白に、皆は食べる手を止めました。
「… ほら、あと少しで、バレンタインデーだから。今年は、新作をと思って…」
そうなんです。主、最近夜遅くまで頑張って、新作のチョコレート菓子を試作しているんです。これ、桃華ちゃんにも内緒だったんです。
「あー、バレンタイン!!」
「わ、忘れていました」
「… 私、乙女失格だわ」
桃華ちゃんも松橋さんも大森さんも、すっかり忘れていたようですね。それぐらい、進路で頭がいっぱいだったって事ですよね。
「でも、全然匂いしなかったけれど?」
「お勉強の邪魔になっちゃいけないと思って、美世さんのお店を借りてました」
そこがあったか… と、桃華ちゃん。
「でも、数字だけで実感できないなら、壊れてるんじゃないの? 体重計」
「そうね。抱き心地も変わってないし…」
桃華ちゃんにギュって抱きしめられて、主はクスクス笑っちゃいました。ワシワシワシ~って、桃華ちゃんの両手が主の体を触るから。
「桃ちゃん、お弁当、零れちゃう~」
「やっぱり、太ってないわよ~」
桃華ちゃんの両手が主の胸を包み込んだ瞬間、主の笑みがピシっと張り付いて動きが止りました。
「うん、太ってない!」
しまった! と、慌ててその手をウエストに滑らせましたけど… 時すでに遅しですよ、桃華ちゃん。
「そんなに気になるなら、保健室の体重計を借りれば?」
「それよ、桜雨!! 行こう! 今すぐ行こう!!」
田中さんの助け舟に素早く反応した桃華ちゃんは、止ったままの主の手を引いて、教室から飛び出して行きました。
「は、速いですね…」
その素早さに、松橋さんはビックリです。
「でもさ、もし白川ッチが5キロ太ったとしてもよ… あと2~3キロは太ってもいいんじゃない? って、思っちゃうわね。白川ッチも東条っチも、細いから。先生達も、そう思うでしょ?」
大森さんに聞かれて、教室の後ろのドアに身を隠して様子を