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4.ほんとは付き合ってません

第22話

そして、その遊園地デートの日はすぐにやって来る。

だけど遊園地と決まってからの松岡くんはあまり機嫌が良くなくて、私と一緒なんて嫌だから? とか、仲の良い友梨さんと湊さん二人の姿を間近で見たくないから? とか、あれこれと悪い方向に考えてしまう。


だけど機嫌の悪い理由は遊園地に入ってすぐに分かることとなる。


「やっぱり最初に乗るのは絶叫系よね?」


遊園地マップを楽しそうに広げる友梨さんとは対照的な顔の松岡くん。


「あら? 歩はやっぱり苦手なの?」

「そんなわけ……、もう子どもじゃないのに……、誰が、嫌いだって言ったんだよ……」

「嫌いなんて言ってないけど……、苦手じゃなくて嫌いだったのね」

「え? そうなの、松……じゃなくて歩くん?」

「はっ、だ、誰が! ほら絶叫系に行くんでしょ」


私は友梨さんと目を見合わせて肩を上げ、松岡くんを追った。後ろから楽しそうに笑う友梨さんと湊さんの声が聞こえる。


「言ってくれれば良かったのに」


そう言いながら松岡くんの横に並ぶと睨まれた。


「言いませんよ」

「なんで? じゃあ怖くないやつから乗る?」

「馬鹿にしてるんですか? これで弱みを握ったとか思わないでくださいね」

「え、何で弱み?」

「それは、……もういいです。いいから乗りますよ、これ」


と、松岡くんが指差すのは園内で一番怖いと名高いジェットコースター。

絶叫系好きな私でも、ちょっと緊張するのに、松岡くんは本当に大丈夫だろうかと心配になる。


それは友梨さんも同じで、しきりに「大丈夫?」と聞いてくるのが癪に触ったのか松岡くんは更に意地になって後戻りできなくなっていた。


その結果、


顔面蒼白の松岡くんが出来上がり、ひとまずベンチに座らせる。


「ここは私に任せてください。友梨さんと湊さんは折角だから楽しんで来てくださいね!」

「ほんと? 大丈夫? 何かあったら連絡してね?」


心配そうな二人の背中を押して振り返ると松岡くんは両手で顔を覆っている。


「ほんと大丈夫?」


反応が返って来ない、と言うことは相当マズい状態かもしれないと、心配になる。


だが、お水買ってくるね、と言うと、か細く「居て」と言われ、仕方なく隣に腰を下ろした。広い背中を優しく撫でる。少しでも落ち着きますように、早くよくなりますように、と願いながら。


しばらくそれを続けていると、ぼそっと口を開く松岡くんの声が聞き取れなくて耳を寄せた。


「昔、友梨にもやってもらった」


悪かったわね、友梨さんじゃなく私なんかで、といつもなら吐きそうな悪態をぐっと堪えて、また背中を撫でる。


だって私は友梨さんの代わりだもん……。


代わりになれているかは分からないけど、少しでも松岡くんが楽になってくれたらいいなと思うのだった。





昼前には落ち着いた松岡くんと一緒に友梨さんたちと合流し、友梨さんの希望でメリーゴーランドに乗る。


「湊くん、王子様みたいだよ」


白馬に跨がる湊さん。その後ろには仏頂面の松岡くん。


「歩くんも湊さんみたいにスマイルだよ! イケメンなのに勿体ない。それじゃせっかくのカッコいい顔が台無しだよ?」


と私が言うと、ウザい、と言わんばかりの顔をされる。


なんて言うか最近、松岡くんの私に対する態度、良くないよね?

これでも彼女なのに……。


「なんか酷くない?」

「酷くないです」


ほらやっぱり、酷い。

でも、そんな言い合える関係がちょっと楽しいのも事実。


「ふふ、仲良しね、二人とも」


そう友梨さんに言われて、まんざらでもなくへらりと笑う私の顔を見て、こっそりと松岡くんが「ブサイク、別に仲良くないし」と言って来る。


前言撤回。全然嬉しくない。


――どうせ友梨さんみたいに美人じゃないもん。ブサイクで悪かったわね!





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