目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第34話

雨足が少しずつ弱まる中、石段をせっせと登って小高い場所にあるその神社に辿り着いた。


手水舎の前に立ち順番に手水をして心身を清める。

それから神前にて二拝二拍手一拝の拝礼を行う。

私は少しだけ神様に松岡くんにも良いご縁をくださいと願ってしまった。

これが松岡くんにバレたらまたお節介だと言われそうだけど。


友梨さんがここに来た目的を果たすべくお守りを求めに社務所へ駆けて行くのを、どこか複雑な気持ちで眺めながらその背を追いかける。


「彩葉ちゃん見て見て! 布の取り方で一つずつ違って見えるね!」

「ほんとですね、可愛い」

「そうなんですよ、布も花柄や鞠とか色々あるのでお好きなものをゆっくり選んでくださいね〜。それに貝ガラは対になってるから他の貝ガラとは絶対に合わないようになってるんですよ」

「へ〜、そうなんですね」


社務所内にいる巫女さんに相槌を返す私の横で友梨さんは真剣にお守りを選んでいる。


「私、これにする! 彩葉ちゃんは? 湊くんと歩はどうする?」

「私はこれにしようかな」


湊さんは隣の友梨さんに、私のも一つ選んで、と言っている。

湊さんも買うなら歩くんも、……と思って声を掛けようとした瞬間、


「友梨、僕のも一つ選んでよ?」


松岡くんは友梨さんに選んで貰いたいんだ。そうだよね、当たり前だよ。嘘の彼女より、好きな人に選んで欲しい……なんて当たり前だ。


「なんで私? 彩葉ちゃんに選んでもらいなさいよ。じゃあ彩葉ちゃん歩のお守りも選んじゃってね!」

「いや、でも」

「いいから、いいから」


そういう友梨さんに押し切られるように私は松岡くんの分も選び、結局一つずつ『根貝』を求めることになった。


どうぞ、と松岡くんに渡す瞬間の顔はどうしても見れなかった。



神社を後に傘をさして石段を下る。


「友梨滑るから手繋いで」


湊さんが友梨さんに手を差し出す姿に、少しだけ羨ましいな、と感じた。きっと松岡くんはそんな事してくれない。


振り向いてはくれない背中に、期待するだけ無駄だと諦めた矢先、足をつるりと滑らせてしまった。


「きゃ――」

「え!? 彩葉!」

「いっっ……」


幸い、二段ほど滑り落ち、尻もちをついたお陰でそれ以上落ちる事はなかったのだが、驚きに心臓がばくばく鳴っている。


「大丈夫、彩葉?」

「彩葉ちゃん!!」

「大丈夫ですよ。あぁ、びっくりした。ははは、ドジだな〜私」


心配かけまいと笑いながら立ち上がる。一人で立ち上がろうとする私に差し伸べられる手、……その手は松岡くん。


松岡くんが心配そうな顔をして「掴まってください」と伸ばす手に、私は遠慮がちに右手をのせた。


けれど、滑らせた左足首に痛みがはしる。


痛みになんとか声だけは出さないよう押し殺すが、歪んだ眉を松岡くんは見逃さなかったようで、「痛いの?」と顔を覗き込むように近付いてくる。


あまりの近さに胸が大きく鳴るから、松岡くんに聞こえてしまいそうで慌てて顔を背けてしまった。


「僕なんかじゃ嫌かもしれないですけど、乗ってください」


心配そうな声が、不機嫌なものへと変わったのが分かるのだが、それでも松岡くんは心配そうに、ほら早く、と背中を向けてくれる。


――嫌じゃない。むしろ嬉しい。けど、友梨さんじゃなくてごめん。私なんかでごめんね。――そう心の中で謝りながら松岡くんの背に甘えた。


「重いよ、ごめんね」

「別に……」



今日だけでいい。

あなたの彼女でいさせてください。


あなたの背中を独り占め、……させて。





この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?