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第11話 もう一人の女

 湊 は賢治が乗るアルファードの車載カメラからSDカードを抜き取り、録画録音されたデータを逐一自身のパソコンに保存していた。その作業を繰り返したところ、曜日も時間帯も不規則だが賢治は一人の女性を車内に招き入れ性行為にふけっている事が判明した。

 それは淫らで到底、菜月には見せられないものだった。義理の兄が出演するアダルトビデオを見る嫌悪感に 湊 は吐き気を催した。


(・・・・これが如月倫子か、想像していた雰囲気と全然違うな)


 まだあどけなさが残る、年齢は20代前半。この女が菜月のマンションまで押し掛けて来る様には見えなかった。


(いや、不倫をする時点で可笑しいのだから思い込みは禁物だな)


 そしてこの2週間、菜月にLINEを送ったが返信は一度もなかった。綾野の家にも来ない。これは何かがあったとしか考えられなかった。答えはひとつ。


(賢治さんだ)


 賢治が菜月の行動を制限しているに違いなかった。なんの為に?答えはひとつ、菜月を監視下に置きたい、なぜなら不倫の発覚を恐れているからだろう。それにしてもLINEの返信ひとつも出来ない状況にあるのだろうか。そこで竹村誠一の言葉が頭に浮かんだ。


ドメスティックバイオレンスやモラルハラスメントの予兆


 菜月がそれらを受けている事は十分考えられた。早くあの場所グラン御影から救い出さなければならない。そこで 湊 は ゆき に1枚のSDカードを託した。そしてボイスレコーダーの回収、それで終わるはずだった。ところが思いがけない事実が判明した。


「この女性は、誰?」


 賢治には如月倫子の他に愛人がいた。菜月をないがしろにするにも程がある。


(賢治さん、あんた一体何やってんだ!)


 そして湊 は賢治とその女性の逢瀬をカレンダーに記入した。それは金、土、日曜以外の平日、時刻は14:00 から16:00、信じられない事に勤務時間内に行われていた。

そして相手の女性の制服には見覚えがあった。


四島しじま工業の職員だ)


 それは賢治の実家である四島工業株式会社の女性社員の制服だった。もしかしたら賢治は四島工業株式会社在籍時からこの女性と繋がっていたのかもしれない。そうなれば、菜月は結婚前から賢治に裏切られていた事になる。 湊 のはらわたは煮え繰り返った。

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